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着いたシュウの部屋をキョロキョロと見回すと、アリアは「ここが私の居場所になるんですね」と、自分に言い聞かせるように小さな声でつぶやいた。

「めんどうなことをしなけりゃ、後は好きにしていい。…とりあえず、寝てる俺を起こすな。後は血が欲しい時に差し出してくれさえすればそれでいいから。」

その声に彼女はコクンと頷く。

「と言うわけで、早速だけどアンタの血が欲しいんだよね。で、牙をたてるのもダルいから出来たら飲ませて貰える?」

ほら、これ使えよ。そう言ってさっきシュウがアリアの心臓を貫いた彼女のナイフを渡すと彼女はそれを手に持ち首をかしげる。

「どこを切ったらいいのかしら?…血の味は場所でちがうモノだったりするの?」

何処がいいですか?ベッドに寝転がった俺の隣に座りそう尋ねてくる。
…変な女。あぁそうか、彼女は死ねないからナイフで体を刺す行為なんて造作もないことだった。目の前にいるのは、人間離れしたイキモノだったことを忘れていたシュウは、彼女はの腕をとり肘の内側を指差す。

「ここ、太い血管あるの分かる?そこでいいや、んで切ったら俺の口元に持ってきてよ。」

うん、分かった。そう言ってアリアは一瞬ためらうような表情を浮かべたが、直ぐにその腕にナイフを滑らせる。
じんわりと溢れてくる彼女の体内を巡る液体を唇に垂らす様に、腕を近づけてくれる。

傷口に吸い付くと、彼女の血液が流れ込んでくる。…やっぱり不思議な味だ。まぁそんな長い時間を生きることが人間には出来ないのだから、今まで誰一人味わったことがないのは当たり前かもしれない。ヴァンパイアの中でこの味を知るのは自分だけだと思うと、シュウの中に今までに感じたことのない優越感が溢れてくる。

「ごめんなさい…傷口もう塞がりそう。」

「んっ…あぁ本当だ。アリアちょっとこっちに来い。」

その言葉に素直にシュウに近づいてきた彼女の喉元に牙を立てる。

「…痛、いっ…!」
痛みに表情を歪めるその顔をちらりとシュウは見つめながは、少しだけ牙を深く差し込む。するとその瞳からはポロポロと涙を溢れさせ、彼のシャツの袖をギュッと握りしめる。

…たまらない。血が減って貧血になることはあるだろうが、どんなに痛めつけても彼女は死ねないのだ。…この苦痛と、そのうち感じるであろう快楽から逃げる方法がないのだから。
何処まで堕ちても果てがない。それはまるで蟻地獄のような世界。
もがいても足掻いても彼女に手を差し伸べることが出来るのも、もっと深淵へと導くことが出来るのもシュウただ一人だけなのだというその事実が、彼にはたまらないのだ。

「なぁ…アンタまだ処女なわけ?」

ヴァンパイアは血の味で全てが分かるとまでは言わないが、その程度のことは造作もない。

「…はい。私は、老いもせずただこのままの姿で生き続けるのですよ?誰かと人生を共に歩むという選択できる訳ありませんもの。」
悲しそうにアリアは笑う。シュウはその言葉に答えを返すことをせず、今度は彼女の服を捲り上げ心臓まで届きそうなくらい、深く勢いよく牙を刺す。

「…んっ!」
体を駆け巡る痛みをこらえる様に、唇を噛み締めシーツを握りしめるアリア。

「なぁ、この心臓が止まる時にはアンタの血、全部俺にくれよ。最後まで俺が味わい尽くしてやるからさぁ…」

「いいですよ。差し上げます、私の全てはシュウさんのモノですから。心臓でもなんでもあげます。」

ですからお願いです。
私に生きているという感覚を下さいませんか?

痛みから流れる涙を零しながら彼女は微笑みながら、シュウに懇願する。

「なにそれ?…あぁいいぜ。アリアに生きてるって感じさせればいいんだよな。」

なら、この牙を突き立てられる痛みだって生きてる感覚を感じれるだろう?

シュウは、ニヤリと唇が弧を描くのが自分でも感じて取れた。

今度は脇腹へ牙をを突き立て再び血を啜る。

「そうかもしれませんね…」

苦痛の間に彼女がそんな一言をもらしたことをシュウは知らない。





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