キミを想うだけで



どうしてこんなことになったのか。

どうしてこんなにも私の胸が騒ぐのか。

餌と私を称する彼をどうして愛しいと想ってしまうのか。

ましてや私は人間であり、彼は異形のモノでもあるヴァンパイアなのに。

「天にまします我らが父よ。願わくば神名を崇めさせたまえ。御国を来たらせ給え…」

頭の中にある私の疑問を振り払うかのように、ただ目の前の十字架に祈りを捧げる。すべての罪を赦す神であるイエス・キリストは私のこの想いを罪として認め許してくれるのだろうか?

「…また胸クソ悪いところに居やがった。」

一心不乱に祈りを捧げる私の耳に飛び込んできたのは、愛してはいけない彼の声。

「聞こえてんだろ?」
ロザリオを握りしめただ目をつぶる私の後ろに感じる彼の気配。

「神サマなんていねーって何回いえばわかるんだよ!」
さやか聞こえてるんだろ?こっち向けよ、3秒以内に向かねぇならお前の首を曲げてでもこっち向かせるぜ。

脅し以外の何物でもない彼の言葉に恐る恐る後ろを振り返ると、そこには今すぐにでも爆発しそうな怒りを瞳に宿したスバルくんがいた。

「お祈りだけは習慣だから…どうしてもやめられないの。」

「ヴァンパイアと関わった身分で祈りかよ。…まぁ心の広いカミサマなら許してくれんじゃねぇーのか?」
でも気に食わねえ。神に祈るくらいだったら俺に縋れよ。そうすりゃお前のチンケな願いだったら叶えてやれるかもしれねーぜ。
吐き捨てるように、スバルくんは私にそう告げる。

「お父さんに会える?今まで仲良くしてくれてたお友達にも会える?礼拝でいつも会ってたおばあちゃんにも会える?」

脳裏に浮かぶのは、私の今までの生活を彩ってきた大切な人たちの笑顔。
お父さんはすごく心配性だったから、連絡の取れない私をきっと心配してるだろう。
仲のよかったクラスメイトのあの子もきっと何日も連絡の取れない、ましてや急に何も告げずに転校していった私を不思議に思ってるんだろう。
もうすぐ娘が結婚するのよ、そう嬉しそうに告げていたあのおばあちゃんに娘さんの結婚写真見せてもらう約束してたのに。


「今までのお前の生活はないと思え。てか、忘れろ。」

礼拝堂の絨毯に座りこみ一心不乱にまくし立てる私に返ってきたのは、冷静な響きをもつとても冷淡な答えだった。

「さやか、お前は俺だけを見ろ。そして俺だけを頼れ。…そうしたほうがお前の為だ。」

ビジョンブラッドの瞳に映るのは、涙にぬれた私のひどく惨めな顔。

「…お前を泣かしていいのも、傷つけていいのも俺だけだ。」

耳に入ってくる言葉は、おおよそ慰めの言葉にもならない辛辣なものばかり。なのに、どうして私の涙を掬うこの指先は、壊れ物を扱うように優しく動くのですか?



を想うだけで




考えれば考えるほど、胸が張り裂けそうになるんです。
そして意気地なしの自分に腹が立つんです。

でもなによりも、キミが好きなんです。












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