冷酷で残忍。そして怠惰。彼の表の面はそんな言葉で表すのが正しい。 「ほら、ちゃんと見せろよ。…そうだ、そうやってそのナイフでさやかの腕を切ればいいんだよ。1人でしてることが俺の前でできないことはないよな?」 そう言って渡されたのは、鈍い光を放つ銀製のナイフ。 「でも…」 切りたいから切っているのは本当だ。カッターナイフが皮膚を裂く痛みもじんわりと流れだす赤い血も、両方共私に『生きている』ということを実感させてくれるから。 だが、それは私が『切りたい』と思った時限定であって、ましてや誰かの為にするコトではないと思っている。 「どうしてできないんだ?…仕方ないから、お手本みせてやるよ。」 呆然としていた私の手からナイフが奪われ、そして私の腕を押さえつけシャツを捲るシュウ。 「…ここまだ傷が治ってないじゃないか。どうして、俺の前で切らない?俺はさやかの血を一滴も無駄になんてしないのに。」 まだかさぶたのある傷にナイフを突き立て、スーッと動かすと慣れた痛みと共に血がゆっくりと盛り上がってくる。 「…っ」 「…ほら、ゆっくり流れてきた。」 そう言って傷口をゆっくりと、シュウの舌が這う。そのザラリとした感触に思わず身体がビクッと跳ねる。 「もしかして、傷口舐められて感じた?…傷つけられてその傷をいじられて感じるなんて、なかなかのマゾなんだな。」 私の血が付いた唇が綺麗な弧を描き、今度は傷口に彼の牙が突き刺さる。 「痛いっ!」 開いた皮膚をもっと開くように、シュウの牙が奥へと入ってくると私の感覚は激痛に支配され眉を寄せ涙を零しながら、抵抗の声を上げることしかできない。 「痛い?でも、さやかの血すごくいい味になってきたぞ?」 クチュリと音を立てながらもっと深く血をすすり始めるシュウ。 「でも、痛い…!」 「痛いコトが好きなんだろう?だから、自分の体に傷をつけるんだろう?」 「それは…!」 「だったら、俺がオマエに痛みを与えても変わらないよな?」 わざと抉るように牙を傷口からシュウは抜き、私の苦痛の表情を満足そうに見つめる。 「1人で自分を傷つけるなんで無駄な行為だ。痛みが味わいたいのなら、自分の血がみたいのなら俺に頼めばいいんだよ。そうすれば、オマエも俺も一緒に満足できるだろう?」 ニヤリと笑いながら私の頭を両手で抑え無理やり視線を合わせさせる。 あのサファイアみたいな蒼い目と視線が重なると、私は動けなくなるのだ。確信的なシュウの行動。 「俺はオマエの血と暖かさで生きてるっていうことを実感する。オマエは俺の与える痛みと流れだす血で生きてることを実感する。利害は一致してる。」 「うん。」 「それでいい。」 そう言って重なる唇。ぴちゃりと音を立てながら私とシュウの唾液が混ざり、唇がすこしでも離れると銀色の糸が私達をつなぐ。 彼の体にぎこちなく腕を回すと、私の頭を抑えていた腕がきつく体に巻き付く。そしてゆっくりとソファーに押し倒される体。 目の前には天井とシュウ。 「さやか、オマエと俺はいわば運命共同体だな。…オマエの全ては俺のモノだ。だから…」 『俺から離れるな』 蒼い瞳が不安げに揺れる。時々見せるあの不安げな瞳が私は好きだ。私がいてあげなきゃいけない、そんな精神的な優越を感じることが出来る数少ない瞬間だからだ。 「うん。離れないよ。大丈夫、私はずっとシュウと一緒にいるから。」 彼を抱きしめながら耳元で私はそう囁き、柔らかい金髪をゆっくりと撫でる。 「あぁ、そうだな。さやか…」 再び重なるシュウと私の唇。キスはだんだんを深くなり、シュウの手は私の身体中を這うように、縦横無尽に撫で回し私はその行為に嬌声をあげることしかできない。 「こうやってされるのと、吸血されるのと、オマエはどっちが好きなんだ?」 私を見下ろしながら尋ねるシュウの目は、いつもよりギラギラしてる…興奮してくれてるの? 「私は…シュウがくれるモノだったら痛みでも快感でも、全て好きだよ。」 「そうか、」 短い言葉を紡ぎ、彼は再び覆いかぶさる。 そこから与えられるのは、甘い快感と鋭い痛み。どちらにしても、私は涙を浮かべ声をあげ、ただ彼を受け入れることしかできない。 願わくば日々が彼に優しくありますように(私と体を繋ぎ、その血を捧げることが彼の幸せのカケラにでもなればいい。) |