「ねぇ、ライト。」 「なに?」 さやかちゃんは僕の隣で、爪にマニキュアを塗りながら僕に話しかける。 「もう私はここに来ないって言ったらどうする?」 「どうしよっか?…地の果てまでさやかちゃんと鬼ごっこってことだよね?んふ。いいよー地の果てまで追っかけてあげる。」 「それもう鬼ごっこの範疇を超えてるよね?」 左手の爪に綺麗な桜色が乗っている。それを満足そうに彼女は眺め、ふぅーっと息をかけて少しでも早く乾かそうとしている。 「そんなことないよ。僕はどこまでも、さやかちゃんに付いてくから『地の果てまで』であってるよ。」 右手塗ってあげよっか?という僕の問い掛けに、彼女は素直に右手を差し出す。 「…それは困る。」 「どうして?ボクがこんなに愛してるのに困ることなんてひとつもないと思うんだけど?」 親指、人差し指、会話をしながら彼女の爪はキレイな桜色に染まり始める。薄い色だからさっきしてたみたいに2度塗りしてあげなきゃなんて思いながらボクは筆を進めながら彼女の答えを待つ。 「だから困る。私はあなたの愛に答えられないから。」 眉間にシワを寄せて心底いやそうな顔でこちらを見つめる。 「んふ。そんなことでボクが君を嫌いになることなんてないから安心していいよ。いつまでもボクはさやかちゃんの忠実な下僕でいたいからね。」 「…誰が下僕よ。嘘つき、暴君の間違えでしょ?」 「それは違うと思うけどなーいつまでもキミと一緒にいたいってとっても素敵な忠誠心じゃない?」 「独占欲の間違いでしょ?」 にやりと弧をえがく彼女の唇。そう、この表情がボクはとっても好きなんだ。ボクの汚いところを全て見透かしてるように意地悪く笑う彼女をみると体が熱くなるような感覚にとらわれる。 「そうだねーもし、さやかちゃんがそれでも僕を振りきって、どこかで他の男の隣で一生を過ごすって言うんだったらきっと嫉妬でその男を八つ裂きにしちゃうかも。」 きっと不味いだろうけど、その男の喉元を噛み切って血を溢れさせて見る影のない肉片に変えてしまいたい。あぁ、その隣で絶望する表情で彼女が佇んでいるのだったらそれはそれで楽しそうな気がする。 「そう…それはそれで楽しそうね。」 ライトが私の為にそこまでしてくれるの?と、彼女は笑う。 「キミが僕を見てくれるならなんでもするよ?」 綺麗な桜色が彼女の爪を彩った。…あぁこんな風に少しづつ彼女を僕で染めていきたい。最初は爪の先、そして手のひら、最後は髪の毛の一本まで僕のモノにしたい。 こんなに愛してるのに、彼女はボクに一度として愛の言葉をくれない。 「ホントにライトって面白い。」 「本心なんだけどね。」 つま先に忠誠の口づけを彼女の足先に唇を当てると、どこかの国の女王様のように彼女は満足そうに笑う。 今はそれで充分だよ。だけどね… 彼女の唇がボク以外の誰かに愛の言葉を囁くことがもしもあるなら、縫いつけて一生喋れないようにしたい。 (でもそれをすると、彼女の声が聞けないんだよね。) 他の男を見るくらいなら、瞳だってえぐりだしたい。 (だけどボクを見つめてもらえなくなる。) その手足だって…あぁ、早く全てをボクに差し出してよ。 じゃないと、キミが愛しすぎて殺しちゃいそうだよ。 [mokuji] [しおりを挟む] |