最初がどうだったか、と言われると恐怖以外の感情がそこにはなかった。 いきなり連れてこられたお屋敷は、近所じゃ噂の幽霊屋敷で、そこに住んでいた兄弟がヴァンパイアなんて状況になれば誰だって恐ろしいと思うだろう。 こんなとこ出ていってやる!と、最初は意気込んでいたけれどいつの間にかそんな感情は薄れていた。 どうしてか、って? それはね… 「んっ…」 「気持ちいいのか?やっぱりオマエはどうしようもないな…」 「うん…どうしようもないの。だからお願い…もっとシテ…!」 暗い部屋の中に響くのは快感を隠し切れない私の声とヴァンパイアたちが血を啜る音だけ。 イケニエの花嫁、ヴァンパイアとして私を覚醒させ嫁にする人がどうやらこの逆巻の家を継ぐことができるらしい。それを知ったのはつい最近だ。 本来ならば血を捧げる相手はたった一人。そういうキマリだったらしいが、そんなこと知る前に私は全員に吸血させていたし、気が付けば数人とは身体の関係も持っていた。 ビッチ・淫乱、私を罵る言葉はこの世にたくさんあるんだろう。 別になんと言われても構わないの。だって、吸血されるのも身体を重ねるのもどっちもすごくキモチがイイ事だって知ってしまったから。 「…ここにいらしたんですね。また、そのようなはしたない格好でこんな男に血を吸わせて…どうしようもない方ですね。」 「だって…気持ちいいの…ねぇ、どう?」 「女性からの誘いを断るなんて、男ではありませんからね。…こいつと一緒なのはいささかいい気分ではありませんが、そんな甘い血の香りを前にそんなこと言ってられませんねっ…」 私がはだけていた肩口を指し示すとそう言って、彼は私に噛み付く。 上品に牙を立てるこの感覚も好きだ。同じ両親から生まれた彼らがこんなに違うなんてなんだかおかしい。 「…何笑ってるんだ?」 「あのね…兄弟に同時に血を啜られるのって気持ちいいなと思ってたの。」 だからお願い、夜が明けるまで私の血を2人で沢山飲んで。まだ、この快感を何度も味わいたいから死の淵の一歩手前まで。 「シュウさん、レイジさん。私の血沢山召し上がれ。」 「本当は一人で飲み干したいが、オマエの望みがそうなら仕方ないな。」 「全くもって不本意ですが、仕方ありません。」 味わい尽くしてやるよ(あげます) 二人のその声を聞いて満足した私はただ、快感に身を委ねた。 ************************ それから数日後。 懲りない私は、あの快感を再び味わう為にある部屋の扉をノックする。 「ねぇ、入っていい?」 「さやかか?いいぞ、入れよ。」 「お邪魔しまーす!」 そう言って部屋に入ると、そこにはアヤトだけじゃなくてライトもいた。 「ビッチちゃんどうしてアヤトくんの部屋に来たの?」 「…ライトだってわかってるんでしょ?」 「んふふ。もちろん!でも僕ビッチちゃんの可愛いお口がおねだりするの聞きたいなぁ〜」 「黙れよ。この変態。なぁ、さやか俺に血吸われたいんだろ?」 後ろから私を抱きしめるアヤト。そして、その様子をソファーにすわりニヤニヤと眺めるライト。 「うん。お願い、アヤト私の血を飲んで。」 振り返りアヤトに抱きつき返し、髪をかきあげ首筋をアヤトの目の前に晒す。 「いやらしーね、ビッチちゃん。アヤトくんにオネダリなんかしちゃって。」 「…ねぇライト。ライトも、お願い。」 「いいよーでも、その前に。扉の向こうにいるカナトくーん。入っておいでよ。」 「…さやかさん。僕この前言いましたよね?『吸血されたかったら最初にぼくのところに来て下さい』って。」 扉の前にたち、恨めしそうな目でカナトくんは私を見つめる。 「…うん。ねぇカナトくん。あとでカナトくんと2人きりも素敵だけどよかったら一緒にどう?」 「3人同時かよ!…血が薄くなりそうだな…」 「3人一緒なんて経験まだないから、どれくらい気持ちがいいか味わってみたいの。お願い…」 「さすがはさやかちゃん。今までしたことないことがしたいんだよね?きっと3人同時なんて牙立てられただけでビッチなキミならイッちゃうかもね。」 「ハジメテの経験ですか…いい響きですね。今回だけはあなたの計画に乗って差し上げます。」 「チッ…!仕方ねぇな。今回だけだぞ。」 今度は独り占めさせてくれよな、なんて言いながらアヤトは私をソファーにゆっくりと座らせる。 「んじゃ、今夜は4人で楽しもうぜ。」 うん、沢山私の身体に傷をつけて。そして、沢山の甘い痛みを頂戴。 ************************ 血を吸われた後の貧血気味のフラフラする感覚すら快感に思える私は本当にどうしようもない女なんだろうななんて思いながら、バスルームの扉を開けるとそこにはスバルがいた。 「…随分お楽しみだったようだな。」 「まぁね。それなりに楽しかったわ。」 私の身体に残る沢山の牙のあとを眺めながら、スバルは吐き出すようにそう口にした。 「それなりにって言う割には甘ったるい血の香りさせてんじゃねぇかよ。」 「そう?私には血の香りなんてわかんない。でも吸血だけじゃなくて、その他モロモロも気持ちよかったからそのせいじゃないの?」 「あの3つ子とお楽しみだったみたいだな。…気に食わねぇ。こっちに来いよ。」 強引に私の手を引っ張りバスタブの中に私を突き落とす。お風呂には入るつもりだったけど、着衣入浴なんて趣味じゃない。 「どうせだったら脱がせてくれたらよかったのに。」 服が濡れちゃって体にくっついて気持ち悪いんだけど、とスバルを睨むと今度は頭の上からシャワーが降ってきた。 「ゴチャゴチャうるせぇんだよ…!」 そう言ってスバルは濡れた服の上から私の乳房に噛み付く。 「…邪魔くせぇな。おい、さやか服脱ぐのと破られるのどっちがいい?」 布に血が吸い込まれるのが気に喰わないのかイライラとした表情で私に詰め寄る。 「…これでいい?」 くっついたカットソーをむりやり脱ぎ、上半身下着だけになるとブラをまくり上げ再びスバルの牙が私の乳房に突き刺さる。 「…んっ。思った通り甘いな。3人に飲まれた後とは思えねぇ…すげぇ美味い…」 「…気持ちいい…ねぇスバル、私が失神するまで私の血飲んでくれる?」 「仕方ねぇな…飲み尽くしてやるよ。」 そんな答えとともに今度は牙が脇腹に。さっきカナトくんに噛まれた後に再び牙が立てられた。 「痛い…!でも、いいっ…!もっと深く、ねぇ内蔵にささりそうなぐらい私を味わって…!」 水音と血をすする音がよくバスルームに響いていて、気持ちよさが倍増する。 あぁせっかく気持ちいいのに、そろそろ意識が遠のきそう。 「…オマエはダレの花嫁になるだろうな…」 そんな声が聞こえた気がするんだけど、うまく口が動かない。 薄れていく意識の中で思ったのは、『ずっとこのままがいいな』という感情だけだった。 欲望は『誰かのモノ』になったら、『みんな』を楽しめないじゃない。そんなのつまらないなんて思う私はきっと欲深くて快楽に取り憑かれた悪魔なんだろう。 |