麗しきレゾンデートル




どこにでもいるような、平凡がとりえとでも言うべき彼女は、いつも優しい微笑みで俺を迎えてくれる。

「いらっしゃい、スバルくん」

めんどくせぇ学校からの帰り道、ちょうど学校と自宅の中間地点に彼女の家はある。
『鍵は開けておくからいつでも来てね。』と初めて会った日に言った通り、彼女の家の扉は俺をすんなりと家の中へと通す。そしてリビングの扉をあけると、いつものあの声が聞こえるのだ。

「学校はどうだった?」

「…つまんねぇ以外に言えねぇ。」

だよね、私はいつもどおりだったよ。と、彼女は楽しげな声で話す。さやかは昼間の学校に通ってるらしいので俺と会うのは人間でいう就寝前の時間だ。

「寝なくていいのか?」

「うん。眠るよりもスバルくんとお話したいから。」

なんの邪心の欠片もない笑顔を向けられるのは悪い気はしねぇ。俺をこんな目で見てくれるのはきっと世界に彼女だけだから。

「それに今日は満月でしょ?」

「知ってて、俺をここに招き入れたってことは…わかってんだろ?」

うん、わかってるよ。血が欲しいんだよね?と、彼女はさっきと変わらない口調で答える。今から血を吸われるってのに、随分落ち着いている。

「…余裕って態度だな。」

「余裕じゃないよ。ドキドキしてるよ、でもねそれ以上に私にスバルくんが近づいてくれるのがすごく嬉しいの。」

痛いけど、それでもスバルくんを近くに感じれる方が勝っちゃうんだよね。私、何言ってるんだろ?気にしないでと彼女は照れた笑いを浮かべる。

「俺と近づきたいのか?」

「うん。自分でもよくわからないけど、触れたくなる。ごめんね、変なこと言って。」

それはきっと今日が満月だからだ。ニンゲンにだって満月はちょっとだけ関係あるのよ?と、前にさやかも言ってたような気もする。

「じゃあ、期待に答えてやるよ。もっとお前に近づいてやるよ」

プツリと音をたてて、薄い皮膚は簡単に牙を通す。その下にある血管にすぐに到達し、俺の口の中には彼女の味が広がる。

「こうされてると、生きてるって感じがする…!だからもっと痛くしていいよ。もっと奥までスバルくんを感じさせて…っ。」

ギュッと俺の背中に手を回し抱きついて来る。

「いいぜ。ただし明日後悔すんなよっ…!」

同じ様に彼女を抱きしめ、荒々しく牙をたてる。



目をギュッと閉じ、痛みを受け入れるさやかの顔を見つめながら俺は彼女の中を流れる液体を一心不乱にゴクゴクと飲み続けた。







麗しきレゾンデートル







「またね、待ってる。」

家を出て行く俺をきた時と同じ笑顔で見送ってくれる彼女。

「あぁ、そのうち。」

ぶっきらぼうに応えながら片手を軽くあげて振り返ることなく彼女の元を去った。




俺が生きてる理由ね…悪い気はしねぇ…いや、むしろ少し嬉しいぐらいだから、また数日のうちにきっとまたここに俺は足を運ぶのだろう。





title by:ハニィラブソング


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