gula*Kanato Sakamaki




*カニバリズム表現を含みます。苦手な方はご注意下さい!















彼女は常日頃僕に言っていた、死んだらミイラになりたいと。生まれ変わりは信じてないけど、それでももしかしたらこの先技術が進歩してヒトを蘇らせることができるようになるかもしれないから。その時はぜひとも、生き返ってみたいの。と。冷凍保存はダメ。だって寒いのは苦手だもんと、笑いながら。

ミイラなんて骨と皮じゃないか。内蔵はそれぞれ容器にいれて保存するんでしたっけ?…まぁどうでもいいですが。
そんなバラバラになった人間がよみがえるなんて無理に決まってる。

「バカですか。さやかのことを賢いと思ったことは今まで一度もありませんでしたけど、逆にそこまでのバカとはおもってませんでした。」

「ひどいなぁカナトくんは。まぁヴァンパイアのカナトくんからみれば馬鹿げた話に聞こえるんだろうけど、そう長くない人生しか用意されてない人間の私からすれば、古代人の気持ちはわからなくもないんだよ。…特に私は…「もう黙って下さい。」

彼女には残された時間は少ない。僕がすでに出会った時には彼女の身体は病魔が巣食っていた。


「…カナトくんお願いがあるの。ミイラがダメだったら…
私が死んだときは、私をカナトくんのお人形の中に混ぜてくれる?」

「死してなお、僕のもので居たい。そう解釈していいんだよね?…いいよ、一番かわいがってあげる。ねぇ、テディ?…テディも毎日会いに行ってあげるって言ってますよ。」

「そうよかった。…ありがとう、カナトくん。」


「ずっと僕とさやかは一緒だからね。いつでも安心して死んでいいですよ。」

痩せ細った彼女の首筋に僕の牙を突き立てる。病に侵された彼女の血の味は独特だ。死が近づくニンゲンが生に執着するとこんな味になるんだろうか?


「…このまま死ねたらいいのに。」
僕に身体を預けて、死が確実に近づくのはわかり切っているはずなのに、それを厭わずその血を与える彼女がひどく愛おしいんだ。

*********

どうせ死ぬなら愛したカナトくんの腕の中で死にたい。ある日、彼女はそう小さな声でつぶやいた。
毎日いつ死ぬのか、今日なのか、それとも明日なのかと迫り来る死の足音に怯えて毎日を過ごすのにもう疲れちゃった。
涙を流しながらそう僕に訴えてくる。

彼女は望んでいるんだ。今ココで僕によって死をもたらして貰うこと。



「いいよ。殺してあげる。死してもなお、さやかは僕のものになるんだからちょっとのお別れだよ。」

「…うん。ありがとう、カナトくん。大好きだよ。」

「僕もです。」

あなたを愛しています。ずっとこれからもキミは僕のものです。

嬉しい、ずっと一緒ね。

喉元に牙を突き立てる瞬間、僕の目に写ったのは、今からキミを殺そうとする僕を愛おしそうに見つめ微笑むさやかの顔だった。それは、僕が見た1番美しい彼女の姿だった。



愛してるからこそ、さやかを少しも無駄にしないで僕の中に取り込みたい。その一心で血を啜り続けると、ふっと彼女の身体から力が抜けた。

「天国には行けないだろうから、地獄で待っててね。さやか。」


事切れた彼女の身体は未だに温かい。もうすぐこの体温もなくなり冷たいただの屍になるんだろう。


「ごめんね。…僕はキミをお人形さんたちと一緒に飾ってあげるって約束したけど、守れそうにありません。だって僕はずっとあなたと一緒に居たいんだよ。」

フランシスコ修道会のロザリアみたいなミイラになりたいって言ってたけど叶えてあげられない。

「ずっと僕と一緒にいてね。」

さっきまで咬み付いていた喉元に再び牙を突き立てて今度は思い切り噛みちぎる。口の中に広がる味がきっと彼女の味。





gula




〜華なる


一度限りの




究極の餐〜





肉片の一つも残さずにきちんと食べてあげる。残った骨は灰にして、テディの中に入れてあげる。
ほらそうすれば、僕とキミはずっと一緒。



…ねぇ幸せでしょ?










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