彼女をウチに呼ばなきゃいけない理由、それは数日前のことに遡る。 「なぁライト、クラスの女共が噂してたんだけどさぁオマエ、榊原奈緒とヤッたってマジ?」 「マジだよー。もしかして、アヤトくんも狙ってたりした?だったらお先にゴメンねー。」 学校帰りの車内、アヤトくんの質問に僕は素直に答える。別に隠す必要なんてないし、たとえアヤトくんが彼女に興味を持ってたとしても僕はそんなこと一度も聞いたことがないし、それに譲らなきゃいけない義理だってないもんね。 「別にそういうことはねぇけどさ。…で、どうだった?ウチの学校NO1淫乱女は?」 「んふ。可愛かったよ、それに血もとっても美味しかったし。」 「…ふーん。なぁライト…」 「なぁに?アヤトくん。」 ちょっと耳貸せよ。そういって、僕の耳元でアヤトくんが僕に話す内容はとっても魅力的だった。 「それはそれは楽しそうだねぇー想像しただけで僕、イッちゃいそうなんだけど。」 「さすが、変態。んじゃ、そういうコトでさ…」 「いいよ。じゃあ、奈緒ちゃんウチに呼ぶよ。」 想像しただけで笑いが止まらなくなりそうだよ! …きっと今夜は、キミにとっても僕にとっても一番長くて、濃くて、忘れられない夜になると思うよ。 *********************** 本能で生きている彼女らしく、僕が本気で脅していたことを理解していたようできちんと放課後は教室で僕のことを待っていた。 「おまたせ。それじゃ行こうか?」 「…ねぇ、なにするつもりなの?心の準備とかいろいろあるから少しぐらいネタバレしてくれない?」 「えーっ、そんなことしたら面白さが半減しちゃうじゃん!それはうちに着くまでのオタノシミってことで。」 やっぱりなにかするつもりなんだ、と彼女は恨めしそうにこっちを見つめる。あっ、何もしないよーって言わなきゃいけなかったのに早速失敗しちゃった。 「なにって、奈緒ちゃんがだーいすきなコトだよ。」 ふーん、と興味無さそうに彼女は答える。自分の身に今から振りかかることなのに興味なさそうな表情を浮かべてる。あぁ、でももうすぐその顔にいろんな感情が現れると思うと今からその瞬間が待ち切れないよ…! おとなしく僕の横を歩く彼女は相変わらず無表情。だけど、時々廊下の窓の外をチラチラと見つめる。 「何かあるの?」 「…何もない。ただ、またうわさ話に尾ひれがひとつ増えるのかと思うと憂鬱なだけ。…まぁ言いたいように言われるのは慣れてるけどね。」 歪曲することはあっても、だいたいは事実だしそれに私は今の自分に満足してるしと彼女は笑う。 「僕は別にいいと思うよ。もっと人間は自分の欲望に忠実に生きるべきだよね。」 「そうね、私もその点だけは同意する。」 校舎からでると、いつもどおりに止まっている迎えの車。こっちこっちと手招きをすると、『あんたってお金持ちだったんだ』とびっくりしてる。 「僕はオカネモチじゃないけど、家はそうなのかもしれない。」 ほら、早くお家に帰ろう。今頃、待ち切れないアヤトくんが一人ソワソワしながら僕の帰りを待ってるんだから。 「それじゃ、おじゃまします。」 僕達が乗り込むと車はゆっくりと屋敷へと向けて出発する。 「ねぇ、家には誰かいるの?」 「そうだね…兄弟がいるね。」 「一応聞いとくけど、全員ヴァンパイアだよね?」 「当たり前だけど、そうだよ。……あぁ、心配しなくて大丈夫だよ。みんなで君の血を飲み干そうとか思ってないから。だいたい、そんなに皆が仲がいい訳でもないしね。」 「そっか。とりあえず今日が命日にならないんだったら、それでいいや。」 心配して損した、と言って彼女は車窓から見える景色を眺めている。コレ以上僕と会話するつもりはないらしい。…まぁいいけど。 あぁ早く家に到着しないかなぁ?こんなに、帰るのが楽しい日が来るなんて思ってもなかったよ! 奈緒ちゃん、キミが今から向かうところはね赤ずきんちゃんがたどり着く、おばあさんのお家なんて目じゃないくらい、狼さんがいっぱいいるんだよ。 赤い髪の狼さんが文字通り牙を研いでキミのコト待ってるんだ。僕?…僕は狼さんが赤ずきんちゃんを食べてるところを誰かが邪魔しないようにする見張りだよ。 他の男、それも一緒に産まれた血を分けた兄弟に抱かれ乱れる君を楽しむのが僕の今日のオシゴトなんだよね。 …すごく、楽しみだよ。 |