Lesson4




ペロリと美味しそうに指先についた血を、ライトくんは綺麗に舐めとった後、それだけじゃ足りないのか首筋に残る血痕へと舌を伸ばす。


耳元に響く水音はひどくいやらしく、擽ったい感触に思わず身を捩る。

「もうちょっとだけ、ねっ?奈緒ちゃんを味合いたいんだけど、ダメ?」

ダメに決まってるでしょ。
女子高生謎の失血死とかそんな見出しで新聞の一面を飾るなんてまっぴらごめんなんだけど、と恨めしそうな視線を向けると何故か嬉しそうな表情で私を見つめる逆巻ライト。

「いいねその僕を蔑むような視線たまらないよ!そのまま僕を罵ってよ、奈緒ちゃん。」

バカじゃないの?てか、変態?

「普通に気持ち悪いんだけど。」

「素敵な褒め言葉ありがとう。さっきまでその気持ち悪い男の下で散々喘いで、何度もイカされて血まで吸われて、ついでにそれにも感じまくってたのは誰だっけ?」


仮面の様な笑顔を崩さず私の目を覗き込んでくるライトくんの目だけが笑ってないことに、少しだけ恐怖を覚える。

「無言は肯定ってことだよねぇ?…まぁ僕もまだ奈緒ちゃんに死なれたくないから、今日はここまでにしといてあげる。」

「それはどうも。」

脱ぎ散らかした衣服を身にまといながら無愛想に返事を返す。
冗談じゃない、何度もこんな変態相手になんてしたくない。今夜限りでごめんだ。

「奈緒ちゃんの身体もだけど、血もとっても美味しかったな。虜になっちゃいそう。もしかして、奈緒ちゃんってサキュパス?」

「…それ夢のなかにでてくるヤツでしょ?今は現実なの。だから私はサキュパスなんかじゃない。」

自分が吸血鬼なんてファンタジーな存在だからって私をそっちの世界にご招待するのはやめて欲しい。

至って普通の人間だ。


「ふーん。…ところで、奈緒ちゃん。」

僕が吸血鬼だってことに驚かないの?普通さ、いきなりあんな風に吸血されたらどんな人間だって驚くと思うんだけど、どうしてそんなに冷静な訳?


…もしかして僕がハジメテの男じゃなかったりするの?だったらちょっと僕ショックだなぁーなんておどけて彼は話してるけど、相変わらず目は笑ってない。


「…そりゃ、あなたの兄弟の吸血シーンをちらっと見たことがあるから。気がついてなかったみたいだからソッコーでその場から逃げたけどね。」

今から数ヶ月前に目撃したあの光景は未だによく覚えている。

伝説のイキモノと思ってたヴァンパイアが目の前で、見知らぬ女の子の血を啜ってたんだから。そうそう拝める場面じゃないから忘れようにも忘れられない。

「覗き見なんてヤラしー。でどうだった?見ててどう思ったの?」

お伽話の続きを求める子供みたいな純粋にワクワクしてますと言わんばかりの彼は、私の言葉の続きをソワソワしながら待ってる。


「ドキドキした。異形のモノに畏れを抱くのと同時に、すごく興味が湧いた。」

暗闇の中に響く血を啜る音と、吸われてる女の子の喘ぎ声とも呻き声ごえとも言いがたいくぐもった声だけがあたりを支配するあの光景を思い出す。

それはとても魅惑的で、神聖なものに私の目には映った。


「へぇ…そうだったんだ。で、実際吸われてみたご感想は?」

「…別に。『フーン』って感じ。」

「強がらなくていいじゃん。あんなにヨガってたのに『まぁまぁ』なんて僕悲しいなぁ。そこは、『気持ち良かった。ライトくんもっと吸ってぇ〜』って言わなきゃ。」


「そういうのはいつも一緒にいらしゃるまわりの取り巻きの女の子にお願いしなさいよね。…授業終わるし、私そろそろ戻る。」

実際の所、不思議なあの感覚と身体が麻痺するような感じは嫌いじゃない。
むしろ好きかもしれないけど、そんなことここで口にすればあの変態の思うツボだ。
それに、あと数分で終業のチャイムが鳴る。この場をどうにか誤魔化して、教室に戻って荷物とったら今日はさっさと帰ろう。

「僕もお腹いっぱいだし帰って寝よっかな。…途中まで一緒に帰る?」

「そーゆーの求めてないから。…バイバイ。それなりに楽しかった、じゃあね。」


脱いでいた上靴に足を通しライトくんの目の前を通過しようとした刹那、引っ張られる腕。

「奈緒ちゃんが求めてるとか、求めてないとかそういうのこそ関係ないんだけど。…おとなしくいい子にしとけばよかったって後悔しても遅いよ。」

今から僕と一緒に帰るのは決定事項であり、拒否権とかないから。





今にも折れそうな骨の軋みと、威圧感の漂う瞳に私は頷くことしかできなかった。










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