恋は下心で、愛は真心なんだよ。なんてどっかの合コンでいかにも頭の悪そうな男が言ってるのを聞いて私が思わず笑ったのはいつのことだったんだろう。 だって、愛だ恋だなんて言ったって、結局男どもは自分に従順に股を開く女が好きなんでしょ? そのために恋をしたふりをして、思ってもいない愛を囁く。そして安いセリフを勝手に信じて、裏切ったなんて女は泣き喚いて。で、男はそれに疲れてその女の元を去る。 こんなこと太古の昔からきっと何度も何千回も数えきれないくらい繰り返されてきたことのはず。 人間は学習するイキモノだ。と、何かで習った気がするんだけど全く学習なんかしてないじゃない。 人は信じない、愛さない。 愛されたいなんて思わない。だって愛せないから。 榊原奈緒16歳。それが人生の格言だったりする。 ********************** 「榊原さんってさこの前付き合ってた人ともう別れたんだって…」 「てか、あの女って人の彼氏に色目使って奪ったりするんでしょ?信じられない。」 クラスにいる女子たちの噂話が耳に入ってくるが、いちいち否定する気もしない。だいたい、事実だから否定のしようがない。 この前付き合ってた人はなんかよくわかんないけど、気に食わないから別れた。それに人の彼氏盗ったとか言うけど、その彼氏の方からこっちに声かけてきたんだから決して横恋慕したわけでもない。 始業までの短い時間、とりあえず寝たふりをして過ごすのはもう日課だ。そうしてれば余程の正義感にあふれた子か物好き以外私に話しかけてこないのは学習済みだ。 「ねぇねぇ噂になってる榊原さんってキミだよねぇ〜」 前の席に誰かが座り私に話しかけてくる。今日のモノズキは誰?と思い薄めを開けると、同じクラスじゃないはずの逆巻ライトがそこにいた。 うちの学校の有名人、逆巻兄弟。6人のだれかがみんなの好みに必ずといってもいいほどヒットするらしく奴らのファンは校内にたくさんいるらしい。 「えっと逆巻ライトくん?」 「そうだよー。ねぇねぇ、人の彼氏寝とるのって楽しい?」 「別に。寄ってきたから相手にしただけだし。楽しくもなんともない。」 「そっかーもったいないなーすごく興奮するシチュエーションって僕は思うんだけどな〜」 「逆巻くんの趣味にも興味ないし。」 「そう?ところでキミって男なら誰とでも寝る真性のビッチって噂されてるけどホント?」 「私だって選ぶ権利はあるんだけど。」 「じゃあ質問を変えるね。僕と寝れる?」 …今なんて言った?僕と寝れる?そんなことを公衆の面前で質問されたのはさすがの私も産まれて初めての経験だ。 「よっぽど自分に自信があるの?それとも興味本位?」 「両方って答えはあり?」 きっと僕ならビッチな奈緒ちゃんを満足させてあげられると思うし、それよりなによりそんな奈緒ちゃんに興味があるのも事実だし、どう一回? と、目の前の彼は私の目をじっと見つめる。 人のことさっきからさんざんビッチ呼ばわりしているが、彼にも様々な噂が流れてるのを私は知ってる。私がビッチなら彼はさしずめサノバビッチだ。次から次に女の子を日替わりで楽しんでるって噂は耳にしたことがある。 「いいよ。一回試してみる?」 遊び人な逆巻ライトのことだ。一回相手にすればそれ以上私に関わってこないだろう。そう判断した私は彼の提案に乗ってみることにした。 「いいお返事だね〜じゃあ行こっか。善は急げって言うし。」 椅子から立ち上がり教室を出ていく彼の後ろを何にも言わずにわたしはただついて行く。 周りの女子たちの、「今度はライトくん…」とかなんとか言ってるのが聞こえてくるけどそんなのイマサラでしょ。 人の彼氏に手をだしたら最低って罵るのに、逆巻兄弟に誘われてその誘いに乗ると羨望の眼差しを向けるなんて意味がわからない。 だってどっちもただの男でしょ? 「バカじゃないの。」 吐き出した言葉は夜の闇に吸い込まれるように誰の耳に届くこともなく消えていた。 この一時の気の迷いとも言える行為が、私の運命の歯車を狂わせることになるなんてその時の私は知る由もなかった。 |