Lesson14




『ねぇこのまま、卒業するまではこの関係でいようよ。…そのうち理想のカップルとか言われちゃったりして。面白そうでしょ?』

ライトがこの間私にささやいた言葉が耳から離れない。…どうして、彼はそんな言葉を私に吐いたのだろう。別に本気で逃げようなんて思ってない…ううん、逃げれるとは思ってないんだから。

【約束】なんていらないよ。だって、ライトも私にそのうち飽きて捨てちゃうんでしょ?

『バカじゃないの?そんなことになんの意味があるの?』『ねぇどうして?』『私のコトなんかこれっぽっちも知りたくもないくせに。』

いろんな言葉が頭をよぎった。
だけど、出てきたのは

「性格悪いねー逆巻ライトくんは。」
なんていう、彼に同調するような言葉だった。


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『まだ別れてないらしいよ、あのふたり。』

『えー以外!!絶対、榊原のことだから、すぐに他の男に股開くと思ったのに。』

『ライトくんも、他の女の子に告白されても断ってるんだって。』


今日も聞こえる教室のヒソヒソしてないうわさ話。別にもう気にならない。学校内では私とライトは既に公認カップルになっているみたいだし、誰も直接私達に別れなさいよと直談判をしてきた人はいない。

「モテる彼氏を持つと大変だね。」

「そんなことないよ。…そのうち飽きるだろうし。」

「奈緒ちゃんは大人だね。」

「それも違うよ。」

隣の席の女の子とうわさ話を繰り広げる彼女たちを遠目に眺めながらそんな会話をする。

そろそろHRが始まる。今日も休み時間はいつも恒例の寝たふりもしくはトイレに立てこもり。この2本立てのどちらかを選択しよう。
昼休みになれば、ライトがここに来る。そうすれば、私は【彼に愛される彼女】のふりをしてこの場をさればいいんだから。…はやく昼休みになればいいのに。こんな好奇の目線慣れてるはずなのに、なんだかとっても居心地が悪いよ。物珍しそうに見られることも、憎悪の視線を向けられることも慣れてるけれど、どうしてもあの羨望の眼差しってヤツにだけは慣れないんだよね。
羨むところなんて私にはひとつもないのに。これは周りを欺くだけの行為。罪悪感なんて私にはないと思っていたけれど、それなりにどうやら存在したようだ。そんなことに、こんなことになって気がつくなんておかしな話だよね。…ライトに、罪悪感はあるのだろうか?そもそも、これはごっこ遊びの一貫なんだから彼が告白を断る理由にはならないし、私は別に他の女の子と寝ることも吸血することも禁止なんてしていない。だけど、彼はそんなことをしようともしないし、そんな素振りも全く見せない。…そんな彼の態度を、初めこそうざいと思っていたけれど、今となっては少しだけそのことに喜びを感じる自分がいたりするんだよね。本当におかしな話。

でもそんなことは悟られてはいけない。私とライトはゲームの駒のようなものなのだ。どちらかが本気になってしまえばこの遊びは終わり。
私たちは2人で箱庭をつくりその中で、お互いの役を演じそれを楽しんでいる。それだけの関係じゃないといけない。

交わす言葉は偽りで塗り固めて、重なる体の温度以外は求めてはいけないんだ。

早く昼休みになればいいのに。
偽りの恋人の、うそ臭い笑い顔がみたいなんて。私は多分どうかしてる。


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「奈緒、ご飯食べようよ。」

「うん、ちょっと待ってね。」


いつも通りライトが教室にやって来てその声に私は答え、カバンを手にとり彼の元へと小走りで近付く。
いつもライトが手ぶらで現れるから、世間の噂じゃ私がライトの分もご飯を用意してることになってるらしい。アイツは吸血鬼なんだから、ご飯なんていらないんだよ。なんて言えないから私は曖昧な返事を返すことしかできない。というか、私のご飯だってコンビニで調達してるんだけどね。


「今日は何にしたの?」

「サンドイッチだよ。」

「好きだねー。卵入ってる?」

「うん。」

自然に私のカバンを持ち歩くライトと、その隣で笑う私は恋人に見えているのだろうか。
愛し愛される存在に見えてるかな?…だといいな。


誰かを愛するなんて、馬鹿げた幻想で麻疹みたいな一瞬で通りすぎる熱病の類だと思ってた。
一度罹ったら二度とかからない、そういうものだと思ってた。実際、今までそうだった。だけど、今は違う。


(ライトのことを知りたいと思うなんて、絶対にありえない。そう思ってたのに。)







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