Lesson12



…冗談だけど、冗談じゃない。やっぱりアイツと関わったのが私の間違いの始まりだったんだ…!!



『榊原奈緒と逆巻ライトが付き合い始めたらしい。』
その噂は瞬く間に2年の間に広がった。普段は私と目も合わせようともしないクラスの女子が、『どうやってライトくんと付き合うことになったの?告白はどっちから?』なんて、下世話な質問を投げかけてくるくらいには有名になったみたいだ。
普段から時々話す隣の席の子は『大変だね』と同情してくれた。

好奇心も同情も、もちろんライトからの愛もいらない。いや、ライトからの愛なんてない。だって、これはごっこ遊びだから。

だからといって、人の注目を集めるためにこの遊びを始めたわけではないのは事実で。

昼休みになったら教室から逃亡しよう、そう1時間目の始まりに決めていた私は、目標を実行すべく4時間目のチャイムが鳴るのと同時に教室から飛び出したのだった。

そしてとりあえずどこかに身を隠さなきゃ…そう思って、階段を上り詰めた前にある屋上にたどり着いたのはいいけど、そこには先客がいたのだった。



************


先客…それは以前私が目撃したことのあるヴァンパイア、つまりはライトの兄弟の誰かだ。アヤトじゃないってことしか私にはわからないけど。

その人は壁に背中を預けて寝ているようだった。昼休みの屋上だ、別に私がここに来てもだれも不思議に思わないだろう。だけど、寝ているのを起こすのも忍びないしどうしよう…と思っていた矢先にブレザーのポケットの中に入れていた携帯が着信を告げる。
手に取り、表示を見ると逆巻ライトの文字。一度やんだ着信は再び間を開けずに携帯を鳴らす。


「…うるせぇな。…チッ、携帯の音切っとけ。」

「すいません。」

「まぁいいけど…ところでちょっと聞いていいか?オマエから、あの変態の匂いがすんのは気のせいか?」

「多分気のせいじゃありません。」

赤い瞳に睨まれながら携帯をマナーモードに設定していると、突如切りだされた会話に私は淡々と答える。

「アイツの餌ってところか。」

「まぁそうでしょうね。餌でからかう相手でやらせてくれる女ってトコロじゃないですかね?」

「…自分でそこまで言い切るなんて珍しいな。」

「まぁ…別に私アイツのことが好きで好きで仕方がないとかそういうのじゃないんで。」

私がニヤリと笑うと目の前の彼もニヤリと笑う。…うん、この人は比較的常識的だ。

「あぁ…もしかしてクラスの女共が騒いでた、あの変態の彼女ってオマエ?」

「多分そうじゃないかな?…違うかもしれませんけど。」

「まぁどうでもいいけどな。んで、ソレでなくていいのか?」

ずっと光ってるってことはなってるんだろ?と。

「いいの。噂の変態彼氏からだから。」

「つまりライトから逃げてきたってコトかよ。」

「逃げんたんじゃないよ、放置プレイ。アイツ好きそうでしょ?」

「そりゃいい。アイツ変態だから、喜ぶぜ。」

今頃必死になって探してるんだろうな、マジで笑えると、楽しそうに笑っている。

「ねぇ、ところでキミは逆巻誰?」

「なんだその質問は。…スバルだ。不本意だがあの変態の弟ってことになる。」

忌々しそうにスバルくんは自分とライトの続柄を私に説明してくれた。

「弟ってことは年下だよね?」

「まぁそうだな。」

彼のとなりに座り話を続けると以外にも普通に彼は話してくれる。

「ふーん。とりあえずまた会うかもしれないからヨロシク。」

味方はいたほうがいい。まぁ彼が味方になってくれるのか、と聞かれたら微妙といえば微妙なんだけど多分良識のある判断は下してくれそうだ。

「チッ…!あの変態の女とよろしくなんてするわけねぇだろうが!」

「あぁソレ、『付き合ってる』っていうのもいわゆるプレイの一貫なんだと思う。」

「はぁ?どういうことだ?」

マジでアイツは頭がいかれてる、と苦虫を噛み潰したような表情のスバルくんにコトのあらましをかいつまんで説明してあげた。

「…という訳でして。」

「…なんだそりゃ。マジでおかしなヤツだとは思ってたけどここまでおかしいとは…」

「付き合ってるフリする必要なんてこれっぽっちもないのにね。別に二度とヤらないとも言ってないし、血をあげないとも言ってないのにね。」

「…オマエもだいぶイカレてるんだな。」

「そう?そんなことはないよ。どうせスルなら気持いいほうがいいって思わない?」

何なら一回どう?なんて、スバルくんの腕に手を絡めてみるとなぜか驚いた表情を浮かべている。なにこれ、すごい可愛い。

「いや…オレは…」

年下はしたことないけど、もしかしたらいいかもしれない。そう思いながら彼の唇を奪おうとしたその時。


「奈緒ちゃんみーつけた。」

聞き慣れたあの声が聞こえたのだった。






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