lesson10



「とーっても楽しかったね、奈緒ちゃん。また、泊まりにおいで、ねっ?」

「2度と行かない。…それじゃあね、逆巻くん。」

周りを確認してこそっと、逆巻家から乗ってきた車から降りる。今ある噂に、【あの逆巻家にお泊り】なんていうオプションを増やしたくない。


「逆巻くんなんて6人いるんだよ?誰だかわからないよー?今までみたいにライトって呼んで?ねっ?」

スタスタと歩き校門を潜ろうとする私の後ろから大きな声でライトが叫ぶ。…本気でやめて欲しい。でも、ここで振り返り言い返すのはきっとアイツの思うツボだ。

「奈緒ちゃーん!どうして1人で先に行くの?ボクだって同じ学年なんだから、途中まで一緒に行こうよー」

気がつくとヤツは私の隣にいて、無視するなんてヒドイなーそれとも今日は【他人ごっこ】ってプレイなの?と、恨めしそうにこちらをみる。

「…」

「さっきまであんなにボクの下で気持ちよさ「ライト。それ以上、ここで言わないで。」んふ。やっと口きいてくれた。どうして無視するの?」

「これ以上、うわさ話に登場したくないから。」

「ふーん。そんな理由?言いたい奴には言わせておけばいいんだよ。だってボクとキミがそういう関係だってきっとこの学校の人間だったら誰だって知ってるはずだよ?」

「だとしても、よ。」

「ボクは別に構わないよ。だって、奈緒ちゃんの身体もそれに血も大好きだからね。」

どうせだったら、【他人ごっこ】じゃなくて【恋人ごっこ】にしようよ。そのほうがきっと楽しいよ。なんて、ヤツは笑う。

「恋人なんていらない。」

「んもう。そんな冷たいこと言わないでよ。…そっちのほうがいろいろ都合いいよーボクと付き合ってるんだったら一緒にいてもおかしくないし、もちろん一緒に登校するのだって誰も疑問に思ったりしない。ほら、一石二鳥じゃん?」

「一緒にいるつもりもないし、これから先アンタと登校することもない。」

「奈緒ちゃんは賢いビッチだと思ってたんだけど、まだ理解できてないの?…ボクがそう言ったんだからキミの答えは『Yes』しかない。それくらいいい加減分かれよ。」

ぐっと腕を引っ張られ耳元で囁かれる、絶対零度の言葉。そんなに一緒にいたことはないけれど、本能が警鐘を鳴らす。【逆らうのは得策ではない】と。

「…」

「無言は肯定ってことだよね?」

折れそうなくらい握りしめられた腕がふと自由になったかと、思った瞬間つながれる手。

「コイビトだったら、手繋いで仲良く登校しないと、ねっ?」

「…フリだから。」

「んふ。そのうちきっと奈緒ちゃんの方から、『ライトくんお願い。なんでもするから付き合って』ってボクにお願いしてくるよ。」

「その自信がどこから湧いてくるのか教えてくれない?」

思い切り睨みつけてやったけど、どこ吹く風といった様子で隣の人物は楽しそうに笑っている。…むかつく。


『ねぇ、あれって…』

『嘘…!ライトくんが‥』

聞こえたざわめきに耳を傾けると、どうやらこの状況でまだほんの数メートルしか歩いてないにも関わらず、すでに目ざとい数名の方の目には止まってしまったようだ。


「ねぇねぇ、ボクたち噂になってるみたいだよー?なんて言われるのかな?ビッチがとうとう特定の彼氏を作ったかな?それとも…」

「騒いでるのは女子だから、ソッチのファンの方たちでしょ。」

「んふ。ヤキモチ?」

「全然。お気に召した女の子がいらっしゃったら、どうぞ煮るなり焼くなりお好きにお楽しみになったらいいんじゃないの?」

昇降口についたから、そっと手を離すとヤツも自分の下駄箱へと向かうので同じように上履きに履き替える。

「手繋がなきゃ。」

「もう校舎に入ったからいいでしょ?」

「だーめ。ボク教室まで奈緒ちゃん送って行くから。それで、帰りも教室まで迎えに行く。」

「…本格的な【ごっこ】なのね。」

どうせだったら、ちゃんと本格的にしないとおもしろくないでしょ?

言葉にはしていないが、ヤツの弧を描く唇がそう物語っているような気がする。


「…じゃあ早く教室に行こうよ、ライトくん。」

無理矢理乗せられた船だけど、仕方ない。こうなったらヤケだ。…楽しんでやろう。
そう思った私は、ニッコリ笑い彼の手を少し引っ張るとどうやらヤツも私の意図が読めたらしく、

「そうだね。でもまだ離れたくないなー」なんて言いながら、私の手を少しだけぎゅっと強く握ったのだった。







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