QLOOKアクセス解析西のペテン師少女! | ナノ

04

天神に促されるがままコートに入り、バッグからラケットを取り出して、羽織っていたジャージを脱ぎ捨てる。
その下から現れたのは華奢な体で、天神はふっと鼻で笑った。
確かに彩夏の腕は細く、白い。それに合わせるようにして体も足も細く白いのだ。
どう見てもテニスが強いようには見えない。彼女に勝算がないのは目に見えていた。
天神は言う。

「強がりは良くない、止めとけよ」
「誰に物を言ってるのかな、君」

柔らかな笑みを浮かべ返したのは彩夏ではなく、入江だった。
どうして、ここに入江さんが。天神はぽかんと口を開けて、ただ驚いていた。
ギャラリーとしてコートを囲んでいた高校生達にざわめきが起こる。それもそうだ、試合を申し込まれたのは、入江ではなく突然現れた少女。
それなのに、どうしてコートに入江が立っている…? フェンスの外に入江は立っているというのに。
もちろん、入江も驚いた。自分はフェンスの外に立っているのに、コートの中に自分が立っている。
状況に頭がついていかず、ぐちゃぐちゃと思考がこんがらがる。
呆気に取られている入江に、横で見ていた高校生――徳川が呟いた。

「イリュージョンか」

その言葉に入江は納得したようにああ、そうかとだけ口にした。
状況を把握できていなかった入江だったが、イリュージョンと聞けばすぐに察しがついた。
――なるほど、彼女が西のペテン師ってわけね。ここに呼ばれたわけがやっと分かったよ。
いつものように柔和な笑みを浮かべてコートを見つめる。
彩夏ちゃん、君は彼とどう戦うつもりかな? 彼の目はそう語っていた。
天神は未だに理解できていないようで目が点だ。仕方ない、入江でさえも混乱しかけたのだ、至近距離で彩夏のイリュージョンを目にすれば、誰しもそんな反応をするだろう。
彩夏はそれに構わずサーブを打った。テニスボールは一直線に、それも結構な速さで天神へ。
返そうとラケットを構えた時には既に遅く、彼の額にボールが直撃した。
それはもう見事なもので、ギャラリーが笑いに包まれたほどだ。ぶつけた本人も肩を小さく震わせ、必死に笑いを堪えていた。堪え切れていないのは気にしないでおこう。
痛みに耐えつつ顔を上げた天神はそこでひっと息を飲んだ。ネットの向こうにいたのは入江ではなく彩夏だったからだ。
元々彩夏がいたのだが、そんなこと彼が知るはずもない。テニスボールを片手で弄りながら彩夏は問う。

「自分がどれ程浅はかだったか分かりましたか、先輩」
「今のサーブ…、入江さんが打ったんだろ、お前じゃない!」
「私ですよ、人聞きの悪い」
「ならなんで入江さんがコートに入ってたんだよ!」
「止めろ、天神。彼女はお前より遥かに強い。無謀な事はするな」
「徳川さん…」

こちらに歩いて来ながら徳川が発する。その言葉に天神は悔しそうに唇を噛むだけ。
徳川に言われてしまえば、反論もできない。ここで一番強いのは彼で、歯向かったところで意味など持たないのだから。
彩夏はきょとんとした顔で徳川を見ていたが、自分の隣で止まった事に緊張したのかキリッとした表情を浮かべる。
彼の纏うオーラがそうさせたのかもしれない。強い人は直感的に分かるものだ。
緊張してカチンと固まっている彼女に徳川は言った。

「俺は徳川カズヤ、一番コート。技量は見させてもらった。君は強い」
「ありがとうございます。私は三林彩夏といいます」
「三林、か。これからよろしくな」
「はい、こちらこそよろしくお願いします」

「どう思う? 徳川が女の子をかばうなんて珍しい。気に入ったのかな?」
「どうだろうな。だが、気に入った可能性はある。アイツが人を褒めるのは、聞いたことがない」
「やっぱりそうだよねー。いいね、彩夏ちゃん。もっと興味がわいちゃった」

握手を交わした二人を入江と鬼が興味深そうに見ていたのを彼らは知らない。

 

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