QLOOKアクセス解析西のペテン師少女! | ナノ

03

入江に案内された合宿所。
敷地内には最新のトレーニング器具や広いコートが整備されている。
ここで本格的な練習が行われているのは、手に取るように分かった。
なんてすごいんだろう。充実した設備に、思わず彩夏の口から感嘆の声が漏れた。
彩夏が通うのは、大して名も知られていない公立高校。
スポーツに力をいれているわけでもないそこに、トレーニング機器なんてものはない。
あってもせいぜい何年も前のモデルだけ。公立高校の設備レベルなんてものはたかがしれている。
彩夏はジムにも通っているが、ジムもここまで設備が整っているわけではない。
最新機種が絶えず出るトレーニング機器を、新しいものが出る度に買える資金など、ジムにはありやしないのだから。
そのため、この合宿所は夢のような場所だった。
ところ狭しと並んだトレーニング機器と、しっかり整えられたテニスコート。
こんなに整った環境でテニスが出来るなんて。彩夏は夢を見ているような気がした。
最高な環境で好きなだけテニスが出来る。それがどれほど素敵なことか。彩夏はうっとりと設備を眺めていた。
そんな風に設備に気をとられていたせいか、はたまた元から鈍感なのか。
彩夏は辺りの高校生から送られる偏見の視線に気づいていなかった。
もっとも、入江は既に気付いていたようでさっきから眉根を寄せていたが。

「奏多さん、すごいですね、ここ。ここなら好きなだけテニス出来そうです!」
「ここなら? どういう事かな、それ」
「大会に出てもみんな弱くて手応えないんです」
「あぁ、それでか…」

納得したように頷く入江に彩夏はえへへ、と苦笑を漏らす。
彼女が授かった天性の才能。彩夏はスポーツの上達速度が異常な程早く、その上一度覚えた技は絶対に忘れない。
つまり試合をしていくごとに、技の引き出しが増えていき、何人分もの技を使えるようになるのだ。
そのせいか、女子テニス界には張り合える選手がおらず退屈していた。
それもそうだ、試合をすればするほど対応できる返球が増えていくのだから、どれだけ強い選手でも同性では歯が立たないだろう。
それが、ここなら互角に…いや、彩夏をはるかに超える選手がいる。
どれほど嬉しいことだろう。早く試合をしたい。負けてみたい。
一人わくわくする彩夏に水を差すように、一人の男子が言葉を放った。

「なんで女子がいるんだ? ここは女子の来る場所じゃねぇ、さっさと帰りな」
「天神、彼女は呼ばれて来たんだよ」
「そんなの関係ないですよ、入江さん。女子がいるだけで士気が下がりませんか?」
「失礼ですね、本人の前で。叩き潰しましょうか、この私が」

目の前で馬鹿にされたことが彩夏の怒りに火をつけた。それもそうだ、プライドが高くない人であっても、目の前で馬鹿にされれば誰だって怒る。
運が悪いことに、彩夏はプライドの高い人間だ。そんな彼女が馬鹿にされたまま引き下がるだろうか。
そんなわけはない。彩夏はニコリと笑ってとげのある、挑発を吐いた。ご丁寧にこの私が、の部分を強調して。
明らかな挑発に天神と呼ばれた男子が売り言葉に買い言葉でこう発する。

「おもしれぇ、コートに入れ! 俺がボコボコにしてやる!」
「ボコボコになるのは私じゃないですよ」

クスリ、と妖艶な笑みを浮かべた彩夏に入江は鳥肌がたったのが分かった。
本能的に怖いと思った。たった一人の少女なのに、だ。
この不吉な予感は一体なんなのか。今現在、そこにいる男子全員には到底分からなかった。



 

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