QLOOKアクセス解析西のペテン師少女! | ナノ

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いつもの合宿所が、少し変わって見える。それは私の心境だとか、コート番号が変わったからじゃない。ただ私が三林彩夏としてここにいるわけではないからそう見えるだけだ。
西のペテン師と、東のペテン師。どちらがうまく騙せるか。長年討論になっていたそれに答えを出そう。
そんな話になって、私と仁王はお互いに変装して合宿所にいる。そういうわけだ。
だから今の私は仁王雅治。独特の言い回しだって、私にかかれば難しくもなんともない。なんたって私はペテン師なんだから。

「仁王先輩ー!」
「なんじゃ、うるさいのう……」
「うるさいってひどいっすよ!」
「で、なんじゃ。用があるんじゃろ?」
「試合しましょうよー! 部長も副部長も柳先輩も、全然相手してくれないんすよ!」
「俺でええんか? 柳生もブンちゃんもジャッカルも今試合しとらんじゃろ」
「全員仁王先輩に試合してもらえって。俺達は忙しいんだよー、なんていってたっす」
「面倒だから俺に回したんか……」

こういうときに限って、私に試合が回ってくること多いんだよね……。まあ仁王のプレースタイル分かってるし、実力がどれくらいかってことも分かってるから問題ないけど。
久しぶりの試合に首を数回鳴らして、空いているコートへ入る。今日は自由時間が長めにあるから、軽い試合くらいなら出来るだろう。
自由時間は自由な試合が許されている唯一の時間だ。コーチ陣は監視はしているものの、基本的に試合に口出しはしない。
それは好都合だった。コーチ陣の目を欺ければ、中学生の目を欺くことはたやすい。
唯一不安なのは跡部くんだけど、即効で見破られることはない……と思う。私が不審な行動をしない限り、跡部君は眼力を使わない。眼力さえ使われなければ、私が仁王であることなど見抜けるはずがないのだから。
切原少年がコートに入ったのを確認して、私はボールを彼に投げた。私年上だし、ボールを譲るのは当然のこと。
切原少年にハンデがないと、絶対に彼は相手にすらならないもの。自惚れてるわけではないけど、私はこの合宿所で一番コート番号が若いんだもの。いくら中学生が強いといっても、私と試合をしても勝敗は見えてる。
そりゃちょっとは手加減するけど、それだとやっぱり楽しくないじゃない? だからハンデをあげて、自分に少しでも不利な状況を作っているってわけだ。

「勝たせてもらうっすよ!」
「かかってきんしゃい。どうせ結果はいつもと同じじゃ」

ラケットを構えて、私は切原少年を見た。切原少年は私が仁王でないことに全く気付いてないみたいだ。まあ最初中学生に化けたとき切原少年に化けたけど、立海全員気付いてなかったもんなあ……。
こりゃ下手すりゃ一日騙しとおせるかも。まあ流石にそれはしないけど。
私が毎日こなす練習メニューと、中学生達がこなす練習メニューは全く違うから。仁王だとこなせない気がするんだよね、アイツ細いし。なんか折れそうで怖い。
そんなことを思いながら、私は切原少年とボールを打ち合った。いつも高校生の――しかも上のほうのコート番号の人と打ち合いをしているせいか、たまに重さがなくて危うく場外ホームランを打ちそうになる。なれというものは怖いものだ、少し前ならこれぐらいの玉を返すのはちょっとしんどかったかもしれないのに、今は簡単に返せてしまう。むしろこれじゃ物足りないなあ、なんて思っちゃうんだから。
ある程度の回数を打ち合ってから私が点を取り、またある程度打ち合ってから点を取る。それを続けていると切原少年の息が上がってきた。
そろそろやめたほうがいいかもしれない。この後も練習は続くんだから。私は大して動いてないから全然疲れてないけど、切原少年は私が意地悪をして左右に走らせたから、あまり体力は残っていないはずだ。ここでやめてあげないと、彼の練習に響いてしまう。

「もう諦めんしゃい、お前さんに勝ち目はないぜよ」
「でもまだ終わってないっす……!」
「休憩も終わる、練習に響いたらどうするんじゃ?」
「でも……」
「また長い休憩の時には相手しちゃるけえ、今日は諦めんしゃい」
「分かったっす……」

切原少年を説得することに成功し、私はコートを後にした。本来なら中学生の輪に戻るところだけど、残念ながら今仁王雅治の中身は三林彩夏だ。
練習はいつもの場所で練習しないといけないから、そこに戻ることはない。階段を上り始めた私に、黒部さんが放送で注意を入れる。

《戻りなさい、練習をどこで受ける気ですか》
「黒部さん、まだ気付いてないですか?」
《はい? どういうことですか……?》
「私、仁王雅治じゃないですよ」
「俺、三林彩夏じゃなかよ」
「あれ、仁王いつの間に」
「ついさっきじゃ。それにしてもお前さん、面倒な約束を取り付けたもんじゃの」
「へへへ、ごめんって。まあ頑張ってー」
「無責任な奴じゃ……」

声と容姿があべこべな私達に混乱する中学生とコーチ陣。ここで気付いてほしいんだけど、混乱しすぎてて何がなんだか分かってないのかな。
仕方ないから私達で種明かしをしてあげよう。二人一緒に顔の下に手をかけて、一気にべりりっと変装を解いた。
その瞬間、なんともまあ騙されたっていう表情を浮かべるもんだから、もう面白いの何の。どちらがうまく騙されるか。その勝負は引き分けになったけど、それもそれで面白かったからよしとしよう。

「ちょっと判断みスっちゃったかな、皆さん?」
「疑うことも大事ってことじゃ」


――
image song…夜咄ディセイブ/じん(自然の敵P)
ゆうさんのリクエストで「仁王と夢主がイリュージョンで騙しあい」でした。
遅くなってしまってすいません…!
しかも夢主と仁王が一緒になって騙してる感じになってしまいすいません…!
リクエストに添えていなくて本当に申し訳ないです…。書き直し等ありましたらお気軽におっしゃってくださいね!
持ち帰り等はゆうさんのみ可!
リクエストありがとうございました!

   

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