QLOOKアクセス解析西のペテン師少女! | ナノ

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入江達と別れ、一度自室に戻った彩夏は、携帯がチカチカと着信を知らせる青いランプを点灯させていることに気がついた。
誰からなのかを確認するために、着メールを確認してみると、四件ものメールが届いており、彼女は首をかしげる。メルマガが含まれている可能性があるが、四件もメールが来ることはそう何回もあることではない。
一番早くきたメールから呼んでみれば、それは財前からのメールだった。

「え、光君これなくなったの…? 先輩がかわいそうだから残るって、どんだけいい子なの光君」

メール内容は、合宿に参加できなくなったというもの。財前と会うことを楽しみにしていた彩夏には相当なショックを与えたが、そういった理由なら仕方がない。
そう自分に言い聞かせる彼女だが、それが嘘であることなど微塵も知らない。まさか彼にも届いた招待状が彩夏の参加する合宿だとは思わなかったのだろう。ずいぶんと惜しいことをしたもである。
次のメールは某ファーストフード店からのメルマガ。
どうやら今週末に新しいバーガーがでるとのことで、そのクーポンがついた告知メールだった。そのメールを見て、彩夏はううう、と小さく唸った。
彩夏はハンバーガーやピザといったファーストフードが好きだ。もちろん、スローフードも好きではあるが、ファーストフードは別格なのだ。
合宿に参加していなかったら週末の昼食はクーポンを使って、新しく出たバーガーを食べに行っていただろう。しかしここは合宿場。敷地内にファーストフード店があるはずがない。
ううう、といまだに唸りながらメールを睨むが、睨んだところで食べに行けるわけではない。ずっとメールを残しておくと、メールをみて食べたくなってしまう。
彩夏は泣く泣くメールを削除した。この先こんなことが頻繁に起こると思ったら、それだけで憂鬱になる。ああ、ファーストフードが食べたい。彩夏はそう小さくぼやいた。
今度は徳川からで、練習メニューの件で黒部が呼んでいるとのこと。これは大して急いでいるわけではないだろう。
急いでいるならその旨が書かれているはずだ。それがないということは、時間があるときでもかまわないということ。時間を見つけて行くことにして、徳川にお礼のメールを返した。
徳川のメールはそれで終わりにし、次のメールを開く。それは白石からで、話したいことがあるから夜に会いたいというものだった。
白石からの呼び出しが何を意味しているのか。彼の考えを読み取って、彩夏は顔をしかめた。

「うへえ、蔵からお説教されるのか…。是非とも遠慮したいんだけどなー…」

口ではそういったものの、説教がなくなるわけではない。
仕方なしに、九時に浴場近くの自販機前に行くとだけメールをし、彩夏は重い足取りで食堂へ歩き出した。
今日の夕食にはファーストフードはあるだろうか。そんな自分を苦しめる現実逃避をしながら。

――*
時は流れ、夜九時。入浴を済ませて自販機前に行くと、そこには既に白石の姿があった。さすがは白石、時間には遅れない。今は遅れてほしかった……いや、いっそのこと来てほしくなかったのだが。
白石は彩夏の顔を見るなり、彼は顔を怒りに歪ませた。これは激おこぷんぷん丸だぞ、と顔には出さないものの心の中で彩夏はうんざりしていた。

「彩夏、なんで参加する合宿がこの選抜合宿やって教えてくれんかったん」
「聞かれてないもん。大体、私がどの合宿に参加しようと、蔵には関係ないでしょ」
「関係あるから言っとるんやろ!」
「じゃあ逆に問うよ、蔵。私がこの選抜合宿に参加することを蔵に言ったら、蔵はどうした?」
「そんなん、許さへんに決まってるやん!」

彩夏の問いに、即答した白石。
自販機でコーヒー牛乳を買っている彩夏の表情は、かがんでいる上に広くはないが、力強さをもつ背に隠され見えない。
コーヒー牛乳を持って、立ち上がった彼女の目は、白石を力強く見つめている。

「どちらにせよ、私の行動に口出しするんじゃんか。私は蔵の人形じゃない」
「そんなん、分かっとるわ」
「分かってない。分かってないから、私の行動を全て決めたがるんでしょ。ねえ、テニスを私に与えたのは誰なのさ、こうなることが分かってたら最初から教えなかったらよかったんじゃないの


コーヒー牛乳を飲みながら、白石に反論する彩夏。
言っていることと、今やっていることのギャップが激しすぎる。
どこの世界にコーヒー牛乳を飲みながら、反論する人間がいるだろうか。
笑いそうになるが、彼女はいたって真面目だ。
それがさらに笑いを誘う。

「ぶ…、ぶはっ! 彩夏、それは流石に反則や!」
「やってる私も笑いそうになった、我ながら天才だと思う」
「天才どころの話やないやろ!」
「ははは、まあ、蔵に帰れって言われても、私は帰らないからね。私を家に帰したかったら、私を倒してみなよー」

コーヒー牛乳片手に歩き出した彩夏は、後ろ手にひらりと手をふった。
それを見送りながら、彩夏を強制送還するのは無理そうやなと、ひとりでに呟いたのだった。

 

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