QLOOKアクセス解析西のペテン師少女! | ナノ

09

高校生達はボールを掴もうとするが、それはことごとく中学生に取られ、どうする事も出来ずただ絶望の表情を浮かべるだけ。
彩夏がくすくすと小さく笑い声をたててから、滑稽すぎて見る気にもなれない光景について感想を述べる。

「自惚れと無能さが浮き彫りですね」
「ああ。自惚れている奴らは今日で消えるだろうな」
「少しは楽しめそうです」

そう彩夏が漏らした時に中学生の間からわっと歓声が上がった。
何があったのだろう、とそちらに目を向ければ最後のテニスボールをラケットで高く打ち上げ軽々とキャッチした小さな帽子少年がいた。
彼の姿を目にした瞬間、中学生――主に青学が騒ぎ出す。
ああ、彼の登場か。彩夏はやわらかく笑ってその光景を見ていた。

「彩夏、やっぱりここにいたか」
「あ、外道さん。それに大和さんも」
「彩夏はボールとれたか?」
「よければボクのを差し上げますよ」
「心遣いありがとうございます。でも大丈夫ですよ、私も実は一つあまってるんです。下で悔しがってる先輩方にお譲りして差し上げたほうが良かったですかね?」
「その必要はありませんよ。自分でボールを取れなかった者がこの合宿に残ったところで、振り落とされるのが目に見えてますからね」
「そうだ。彩夏は気にすることはない」

随分手厳しいですね。そう笑った彩夏だったが、その顔には下で悔しがる高校生への嘲笑しか浮かんでいなかった。
今まで何をやってきたのだろう。最近合宿に参加したばかりの彩夏ですら二つボールをとれたのに、ずっと練習してきた彼らがボールを一個も取れないというのは何事だ。
練習はこなしていただろうに、どこでこんなに差がついたのか。あきれるしかできない。
はあ、とため息をついたとき怒鳴り声が彼女の耳に飛び込んできた。

「ゴラァーっ! 中学生(クソガキ)共っ! 一人で何個もボールとってんじゃねえよ!」

ああ、品なんてものあったもんじゃないな。彩夏は眉を寄せた。コートにつばを吐くなんてどういうことだ。テニスに真摯に向き合っている者ならそんなこと決してしないはずだ。
頭に血が上っていたとしても、そんなことはしない。忍耐力のない先輩だ。彩夏はチッと舌打ちした。
彩夏はあまり気が長いほうではない。コートにつばを吐いた怒鳴り声の主――佐々部に向かってさげすんだような表情をしながらこんなことを言った。

「佐々部先輩、汚いです。神聖なるコートに何してるんですか、グズですね」
「女は黙ってろ!」
「差別はよくないですね、その女よりもコート番号がしたなのはどなたですか。身の程をわきまえてから発言していただきますか」

怒りが沸点に達したのか、にっこりと笑って低い声で佐々部に言葉を返した彩夏に中学生はもちろん高校生までもが息を飲んだ。徳川達は全く気にしていたいようだが。
彩夏が凍らせた空気の中、佐々部に追い討ちをかけるように赤髪の少年が言う。

「そういや侑士…、さっきコーチがボール取れなかった人は帰れって言ってたよな?」
「岳人…、声デカいでえ」
「ひゃっひゃぁーっ残念! ちゃっちゃと帰っちゃって下さいよ!」

中学生の手加減のない帰れコールが巻き起こるなか、再び彩夏が言う。
彼らの言うことは何も間違ってない。黒部は確かにボールが取れなかったものはここから去れと言った。
言いかえれば、ボールをとることすらままならないような実力の選手はこの合宿にはいらないということだ。佐々部はその実力のない選手だったというだけの話。
その現実を受け入れずただただ叫ぶ彼はとてもみじめに見えた。

「これはサバイバルですよ、先輩方。弱肉強食、取れなかった人は早く帰ってください、私達の邪魔です」
《ボールを取れなかった方々は監督の意向通り速やかに帰宅しなさい、たとえそれが高校生だとしても!
以上です――》

放送が入り、仕方なしに高校生が動き出す。その面子を見て彩夏は失望したような表情で去っていく高校生を見ていた。
彼女がここに入ってきたとき、散々に女だからなんだかんだと文句をつけていた連中だ。実力と器は比例するってことか。
そこまで思った時から、彩夏にはもう脱落した高校生への興味はなかった。弱かったからここから追い出されただけ。彼女にとって、彼らは取るに足らない存在だったのだ。

「9番コート以降全滅、ですか。まぁ当たり前ですかね、さぁ練習を始めましょう」
「おいおい……。こんな乳臭え中学生(ガキ)共と俺達が入れ替わるのかよ!?」

彩夏の言葉に突っかかるようにして佐々部が漏らす。自分より後に入ってきたくせに脱落していない彩夏の言葉が彼のプライドを傷付けたのだろう。
佐々部の中に彩夏のいいイメージはない。ただ調子に乗った女。ただそれだけだ。そんな女の言葉など、正論を言っていたとしても聞き入れられるものではなかった。
そのためだろう。彼は次の瞬間に彼は見下したように言ったのだ。

「試合だ…、テニスで決着つけようや」

その言葉に彩夏は呆れたようにため息をついた。
だが、それは誰も知らない。



 

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