QLOOKアクセス解析西のペテン師少女! | ナノ

08

灰色の髪をなびかせている少女を見て、誰もが唖然とする。
ペテン師である仁王ですらペテンにかけられたのだから、仕方がないのかもしれないが。苦い顔の仁王が口を開く。

「お前さんも呼ばれとったんか、彩夏」
「まあね、なんせ女子全国大会で優勝したし、シニア大会でも優勝したもん。それがぽっと出の選手だもん。呼ばれないほうがおかしいでしょ」
「なるほどの、女子ながらもその実力を買われたっちゅう訳か」
「そんなとこかなー」

あっけらかんと言いのける彩夏に仁王を始めとした立海陣が呆けた。
男子の合宿であるこの合宿に女子でありながら参加しているという事は、彩夏にそれだけの実力があるということ。
彩夏の言うとおり、いきなり現れた新人が最近行われた大会を総なめしているのだ。認められないはずがないといえばそうなのだが。
それを聞いた彼らの目に彩夏は少し遠い存在として映っていた。
そう言えば、と思い出したように幸村が言葉を紡ぐ。

「君、異名持ってたよね? 確か…“西のペテン師”だったっけ?」
「ご名答。そこの仁王とセットで東西ペテン師って呼ばれる片側ね」
「それでしっくりきたよ。どこかで君の名前を聞いたことあると思ったんだ」

幸村が納得した、と言うように頷く。
仁王が口にした三林という苗字。聞き覚えがあると思ったら、スポーツニュースで流れていたからだ。
女子テニスでもテニスはテニス。テニスのニュースは見逃さないようにしていた幸村は、彩夏が出ていたニュースも見ていたのだ。
すごいなと思ったものの、接触はないだろうと彩夏の名は記憶の奥底へしまわれていたのだ。
まさかこんなところで接触することになるとは。人の縁とは不思議なものである。
彩夏がふと時計に目をやって、少し焦ったように集合時間に遅れちゃう、と呟き走り出した。その呟きで立海陣も集合時間の存在を思い出し、慌ててその後を追う。
彩夏を先頭にし、立海は集合場所へひたすら走った。

−*
集合場所であるコート付近には高校生に加え、青学、氷帝、四天宝寺、比嘉、不動峰、山吹、名古屋星徳などの中学生がごった返していた。
中学生の視線は近代的な設備と、高校生選抜のジャージを着た少女――彩夏に注がれている。
なぜ女子がここに? 視線は隠すことなくそう語っている。
それも仕方がないだろう。この合宿は男子の合宿だ。男子の合宿にポツンと華奢な少女が、それも高校生選抜のジャージを着て歩き回っているのだから、そう思うのも当然といえば当然だ。
視線を無視し、彩夏は立海陣と別れて徳川と入江、そして鬼の所へと向かった。

「どこに行っていた」
「中学生の観察です。楽しくなりそうですよ、偏見がウザい先輩が一掃されますね」
「そんなこと言っちゃダメでしょ、事実だけど。それから僕たちに無断で行動しないこと、いいね?」
「入江、お前も認めてんだろ」
「はーい、今度は奏多さんたちに言ってから行動します」
「……そういう問題じゃないんだが」

鬼の突っ込みにははは、と入江は笑った。徳川はラケットを握り締めている彩夏の頭をポンポンと撫でていた。
三人はなぜか彩夏に対し過保護だった。徳川は今まであまり女子と関わる機会がなかったため、女子の扱い方がわかっておらず結果的に過保護なほどやさしく接してしまうのだろう。
だが入江と鬼に関しては良く分からない。入江は女子の扱い方を良く知っている。鬼は年下の子供の面倒をよく見ていたのもあり、おそらく彩夏の扱いには困らないはず。
それなのにどうして二人は彩夏に対してこうも過保護なのだろうか。まあ入江の理由はわかるような気はするが。
彩夏が徳川の手から逃れようとしていると、建物の上にスーツ姿の黒部が見えた。
彼はその場にいる者にこう告ぐ。

「今回、韓国遠征で1軍20名が不在の間、2軍246名の合宿(キャンプ)に中学生選抜を50名加える事となりました。高校生の諸君にとって不服かもしれませんが、近年中学テニスもレベルを上げてきていると聞いています」
「不服じゃないよ、私はね。偏見がウザい先輩が一掃されるんだし」
「彩夏ちゃん、静かに」
「はーい……」
「諸君っ! 互いが切磋琢磨しU−17日本代表の底上げを目指しましょう!」

黒部の切磋琢磨という言葉に、彩夏がぶっと噴き出した。
こんな熱血漢みたいな台詞、黒部には似合わない。不意打ちで似合わないことを言ってきたものだから、我慢しきれずに噴き出してしまった。不可抗力というやつである。
げらげらと笑い出しそうになるのを堪えていると、どこからか重機のような音が響いてきた。
辺りを見渡す彼らに黒部は続ける。

「ただし、監督から伝言があります。300名は少々多すぎるようですよ」

その言葉の後に空からテニスボールが降ってきた。
反射的にボールを掴んだ入江や徳川そして鬼。彩夏もラケットを伸ばしテニスボールを二つほどその上に乗せ、なるほど、と口角を上げた。
実力とためし、なおかつ簡単な方法だこと。手のひらでテニスボールをくるくると回しながら、彩夏はテニスコートを見下ろした。

「『ボールを250個落とす。取れなかった46名は速やかに帰れ』と――」

その言葉がコートに響き終わった瞬間、高校生の見るに哀れな姿がそこに広がる事となった。


 

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