QLOOKアクセス解析西のペテン師少女! | ナノ

07

翌日の朝食の席で、彩夏はご飯と味噌汁を交互に口に運びながら少し楽しげに笑っていた。
その理由はもちろん食事がおいしいこともある。だが大半は入江の持ってきた話にあった。

「どうやら今日、中学生が参加するみたいだよ」
「この合宿に、ですか?」
「うん、そうだよ。でも彩夏ちゃんには不要な情報だったかな?」
「まさか。そんなことがあると思いますか?」

くすくすと笑いながら彩夏は入江へ首をかしげた。さらりと揺れた灰色の髪へ入江の視線が向いた。
どうやら彩夏は少し人を挑発する癖があるらしい。入江は大して気にならないのだが、周りの高校生はそうもいかないらしい。
問題を起こさないためにも、挑発する癖を治しておかないと。入江はそんなことを思った。
入江がそんなことを考えているなど全く知らない彩夏は、朝食を食べ終わり席を立った。デザートの杏仁豆腐までいつの間にか食べ終わっている。
入江があっと声を漏らしたが、彩夏は全く気にとめず食器返却へと歩いていった。
その背中を見つめながら入江は苦笑しつつも呟く。

「うまくいかないなー…」


−*
「ふーん、あれが青学かー。あれ、蔵がいるってことは四天も呼ばれてるんだ。あと氷帝も」

木の上で到着した学校を観察していた彩夏は、面白そうに中学生を見ていた。
四天宝寺の試合を見に来ないかと白石に誘われ足を運んだ全国大会。そこで見た彼らのテニスは彩夏の脳裏にしっかりと焼きついていた。
面白かった。純粋に面白かった。彩夏がテニスに真剣に打ち込むようになったのは、全国大会を見てから。それほど彼らのテニスは面白かった。
白石が参加しているのを確認し、これは面白くなりそうだとついつい笑みが零れる。
もしかしたらこの合宿中に、彼らと試合ができないだろうか。そんな風に考えて、また笑みが漏れる。
楽しみだなあとうきうきする反面、天神と平理のやっている幼稚な真似に呆れてため息をついた。

「16番コートの先輩方は手も足も出ないでしょうね。あの子達のほうが明らかに強いわけだし。さて、私も動くかな」

そう呟いて木から飛び降りた。軽やかに着地した場所に彩夏はいない。
彼女の変わりに立っているのは、黒髪の天然パーマの少年。その顔には得意気な笑みが浮かんでいる。
ふう、と一息ついてから、彼は振り向いてブンブンと手をふった。

「真田せんぱーいっ」
「むっ、今までどこへ行っていた!」
「いやぁ、トイレ行ったら迷っちゃって……」
「先輩、遅れてすいませんっ! バスで寝過ごし……ってなんで俺がいるんっすか!?」
「それは俺の台詞だっつーの! お前、俺の偽物だろっ!」
「んなわけねーだろ、お前が偽物だっ!」

二人の同一人物――切原の怒鳴りあいに誰もが唖然とする。どちらが偽物なのか全く検討がつかない。
声色、仕草、口調など全てが鏡に映った彼のように同じで混乱を招く。
片方は別人だというのに、全くその人物の癖が出ないのだ。
唖然としていた立海陣の中でただ一人、仁王がくつくつと笑いだした。
明らかに場を楽しんでいる笑みでこう紡ぐ。

「片方は西のペテン師じゃろ? よう化けとるもんじゃの」

そのあとにぐいっと一人の切原の頬をつねる。
いひゃいっす仁王先輩と涙声で言う切原に、お前さんがペテン師じゃろ?と言葉をかける仁王。
違いますよ、ひどいっす仁王先輩、と切原が漏らしたとき、突然少女の笑い声が響いた。
それはもう一人の切原から。その場にいた全員が驚いて彼を凝視する。
彼はそれに全く構わず、頭に手をかけ言った。

「東のペテン師仁王、ちょっと判断間違えたね」

そう言い終わった後には、灰色の髪を風になびかせる少女が立っていた。
ニコリと笑った少女に仁王が苦い顔をしたのは彼女しか知らない。


 

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