QLOOKアクセス解析まだ恋ではないけれど | ナノ

俺は俗に言う乙男だ。
甘いものが好きで、レースとかフリルとかかわいいものが好きだし、編み物や裁縫、それに料理が好き。
その辺の下手な女より女子力は高いと思う。女子力がなんの基準かによるが。
そんな俺だが、学校のキャラは間逆で通ってるわけで。
ブラックコーヒーが好物で、クールで知的なやさしい絵に描いたような優等生。
ふざけんな、もうやめてくれ。ブラックコーヒーとか飲めねえよバァカ!
コーヒーとか紅茶って、最低砂糖三本入れるもんだろ。ブラックとかマジでない。
俺の好物はチョコだ、それもとびっきり甘いやつ。誰がそんな俺を出回らせた、ふざけんな。
まあ俺自体その虚像を利用させてもらってる節はあるが、疲れて仕方がねえ。
差し入れにブラックコーヒー差し出す女って何なの。俺に死ねって?
俺の好物がブラックコーヒーって聞いたからだろうが、拷問だからやめてくれ。
差し入れするならココアにして欲しい。もちろん甘いやつな。
そんなことはおいておいて。俺がどうしてここまで乙男であることを隠すのか。
それは俺という存在が、乙男というイメージからかけ離れすぎているからで。
バスケ部の主将で、身長179のラフプレー連発の男が乙男だって誰が想像できる?
……できるわけねえだろ! 何が悲しくてバスケやんねえとなんねえんだよ!
俺は帰宅部として家に帰り、家でお菓子だの何だの作っていたかったのに!
中学のときになんとなく始めたバスケが、高校までついて回るなんて想像できるか?
マジねえわ、退部したい。練習は夜遅くまであるし、朝連もあるし最悪な。
彼女作って、青春してたはずの高校生活はいずこ。
そんなことを考えながら、俺はコンビにでため息をついた。
突然だが俺は今窮地に立たされている。多分言うほど窮地じゃねえんだろうけど、俺には十分すぎる窮地だ。

「どうすりゃいい……」

誰に言うでもなく呟いた言葉に返事してくれる人間なんて誰もいない。
チョコを買いたくてコンビニに来たのはいい。そこまでは良かった。
だが俺の買いたいチョコっつーのが、どこからどう見ても女向けのチョコで。
買えば良いじゃんなんて簡単に言うやつ、ちょっと面貸せ。
ブラックコーヒー好きの優等生で通ってる俺が、女向けのチョコを買うなんてとこ見られてみろ、俺は羞恥で死ねる。
ギャップ萌えになんかならねえぞ、単なるギャグにしかなんねえぞ!?
同級生に見られて笑われでもした翌日から、俺は登校拒否するからな。部活? 勝手にやってりゃいい、俺は知らねえ。
……話が脱線した。今考えるべきは、どうこのチョコを買うかだ。
彼女に電話で頼まれてしぶしぶっつー演技でもするか? それが一番無難な気がする。
失敗しないように気をつけねえと。なんて思いながらケータイを握った瞬間だった。
俺の横に歩いてきた女子高生。最悪なことに、俺のクラスメートだった。
寒川氷雨。クールで面倒見のいい、王子様のようなクラスメート。
寒川と接点はないものの、クラスが同じだといろいろ寒川の功績なんかは目にするわけで。
剣道と弓道の大会で毎回優勝する寒川。痴漢を撃退したっつー話も聞いた。
俺は思ったね、こいつこそが王子様なんだって。それぐらいに寒川はかっこいい。
そんな寒川がいる中で、チョコを買えるか? 買えるわけねえだろ。
今日は諦めて、また後日買いに来るか。なんて思ってその場を後にしようとしたとき、寒川に腕を引かれた。

「花宮、私の後についてきな」
「寒川さん、どういうこと?」
「これ買いたいんじゃないの? 私が変わりに買うから、近くにいなよ」

そういって、寒川は俺が買いたかったチョコを手にして、笑った。
その笑顔が綺麗で、かっこよくて、俺はどうしていいのか分からなくなった。
なんだよ、これ。胸が痛くて、鼓動が早くて、息がしにくくて、顔が火照る。
挙動不審な俺に構わず寒川はレジに進んでいく。俺はその後を追うしかない。
無気力な店員がレジ打ちをしている間、俺はずっと寒川から視線を反らして動悸を抑えようとしていた。
それに集中していたからなのか、会計が終わったことに俺は全く気付かなかった。
寒川がそんな俺の腕をまた引くもんだから、おさまりかけていた俺の動悸はまた激しくなる。
店の外で俺にチョコを渡して、寒川はコーヒーに口をつけながら歩いていく。コーヒーがノンシュガーだったことにまたきゅっと胸が痛んだ気がした。

「寒川さん! お金!」
「気にしなくて良いよ、私のおごり」

ひらりと手を振った寒川さん。ああ、もうなんであんなにかっこいいんだよ!
このチョコ、もったいなくて食えねえ。寒川にもらったもの、そう簡単に食えるかよ。
コンビニの前で、俺は赤い顔に指を這わせながら自覚する。

俺、寒川に恋してる。寒川が好きだ。

俺の王子様になってくれねえかな、なんて夢見がちなことを考えてからケータイを出す。
そうだ、瀬戸に報告しよう。
第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -