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 今日は入学式だとかで、下が騒がしい。何が楽しくて新入生がそうやってはしゃげるのか、私には全く理解ができない。
 年下の人間が増えるってことは、それだけ学校全体に落ち着きがなくなるってことで。あー、当分は騒がしいんだろうな、なんてぼんやりと考えてから文庫本を閉じた。こんなに騒がしいんじゃ、読書もできやしない。
 折角休日登校したのに、電車賃が無駄になったなあ。そんなことを思いながら、心地良い暖かさの図書室でうつらうつらと船を漕ぎ出した。
 現在春休み最終日。二年生に学年の上がった私は、本来ここにいる存在ではない。今日は入学式だから、上級生は休み。
 だけど私はここにいるわけで。まあ春休みの課題が終わってないから、静かな場所でさっさと片付けようって考えもあったんだけど、それより大きな理由を占めるのはここに本があるから。
 この学校の図書室の蔵書は、県内でも一位を争う豊富さだから。本好きな私にはたまらなく居心地のいい空間で。私は本を愛している、本ラブ!
 正直な話、この高校を受験したのも蔵書が目当てだったり。学校関係者には口が裂けてもいえないことだ、だって面接試験で思ってもないこと言ったし。蔵書のことに関して以外は。
 あー、春はいかん。何やってても眠い。これだけ騒がしくても眠れそうだなんて、春の持つ力ってすごいよなー。
 もうじきしたらこの騒がしさもましになるかな。二十分後ぐらいから入学式始まるだろうし。希望を持った新入生の諸君が校長先生の頭を見て笑わないかが心配だ。私は去年ズラである事に気付いて笑ってしまい、こっぴどく叱られた上に反省文まで欠かされたんだから。今年の新入生も私と同じ歓迎を受けるといいと思うよ。私だけだと癪に障る。
 明日には課題考査という絶望が待っているのに、元気なもんだなあ。私なんか数学最下位な自信があるよ。まあ国語で挽回するけど。
 取るに足らない、つまらないことばかり考える私。こんな先輩が図書委員長だなんて、誰も思いやしないだろう。
 明日が来なけりゃ良いのに。そんなことを考えていたときだった。急に図書室のドアが開いた。え、意味が分からない。今日は在校生登校してないだろ、私以外。

「……人がいたか」
「いや、君開けてそれはないんじゃないかな、うん。スリッパの色からして、新入生みたいだけど、ここ来ちゃいけないんだけど。てか、手に持ってるのなんだっけ、なんか前で読むやつでしょ。学年代表がこんなところでサボってるー。不良だー」

 思ったことを口に出せば、図書室に入ってきた新入生はむっと顔をゆがめた。あー、怖い怖い。不良ってこうだからいやなんだよ!
 まあ不良不良言ってるけど、見た目はガリ勉君なんだけどさ。目の上で切りそろえられた黒髪と、黒縁メガネに一切の乱れもない学ラン。極めつけは不愉快そうな表情と無表情しか浮かばないだろう顔。いやもうホントに絵に描いたような優等生。はは、優等生なんかくたばれ。
 優等生君は私の発言がたいそう気に障ったらしく、ずっと私を睨み付けている。いやね、私見つめられるのは気にしないけど、睨まれるの好きじゃないんだわ、ホント。だからそのビームでそうなぐらい鋭い目、やめようよ、ね?

「とても不愉快です。さっきの発言を取り消してください。それに、なんですかそのパーカー。校則違反でしょう?」
「そんなこと言われてもなあ。取り消します、って言っても発言は消えないし? あとこのパーカーは私のアイデンティティゆえ脱がないよ。誰も注意しないし、黙認されてるんじゃないかな」
「……。だからといって、校則を破って言い訳では……」
「校則校則うるさいな、君だって本来はここにいちゃいけないのにいるじゃない。それもいけないことだと私は思うけど? 学年代表がこんなとこにいたら、入学式始められないじゃないか。私がパーカー着てても誰にも迷惑はかからないけど、君がここに要るってことは、新入生全員に迷惑をかけることじゃないのかい?」

 そういった私から視線をそらす優等生君。正論過ぎて反論できないみたい。ははは、論破してやったぜ私の勝ちだ。
 優等生君は何も言わず、私に視線を向けず入り口で突っ立ったまま。あー、あと五分で始まっちゃうよ、入学式。ボイコットするつもりなのかな、この子。
 ぼーっと優等生君を眺めてたら、優等生君の握り締めている新入生挨拶の紙が小刻みに震えているのに気がついた。震えるってことは、この子緊張してるのか。
 なるほどね、だからここに来たわけか。誰もいないところで精神を落ち着かせようとしたわけだ。残念ながら私がいたせいでそれは叶わなかったけど。
 緊張するのも仕方ないよな、三百人近い人間を前にして挨拶読むんだもんな。国語で教科書の音読当てられるのとはわけが違うんだし。私あれでも緊張して笑っちゃいそうになるのに、新入生全員目の前にしたら私どうなるんだろう。
 この子はそういうプレッシャーに負けそうなんだ、きっと。そうかそうか、納得したよ。さっきはからかうようなこと言っちゃった、反省せねば。

「君さ、固く構えすぎなんじゃないかな。別に失敗しても死ぬことはないんだし気楽に行けば?」
「そういうわけにいかないからここにいるんです! 貴女みたいに能天気な人間じゃないんです、僕は!」
「うわ、それは心外だ。私能天気じゃないよ、よく頭おかしいって言われるけど。とりあえずさ、うまくやらなきゃなんて気張る必要ないよ、おんなじ人間なんだから誰だって緊張してるよ。新入生の名前が全員呼ばれるとき、良く聞いてみなよ。絶対裏声になってる奴いるから。そいつは緊張してるってことじゃん。緊張なんて自然なことなんだから、恥ずかしがる必要ないって」
「でも……」
「ならいいこと教えてあげる。校長の頭見てみな、笑えるから。それで笑って挨拶すりゃ良いじゃん」
「……。……言ってきます。その前に先輩、名前は?」
「私伊吹薫。君の一つ上だよ。いい結果を楽しみにしてる」
「……ありがとうございました、伊吹先輩」

 優等生君はそういって走って図書室を出て行った。オイ、ドア閉めていけよ、空気を最後にぶち壊すんじゃない!
 仕方なしにドアを閉めにいって、ふう、と一息つく。成功すると良いな、彼が笑って反省文を書くにいたるまで。学年代表が校長先生の頭見て笑って反省文とか、最高に面白いギャグじゃん。あー、楽しみだ。
 ようやく静かになった中で、私は春の陽気に負けてまたうつらうつらと舟をこぎ始める。まだ終わってない数学の課題どうしよう。そんなことが頭をよぎったけれど、まあ何とかなるでしょ。そう気楽に考えて私は夢に落ちた。
 入学式終了後、優等生君が顔を真っ赤にして図書室を訪れ、彼の失敗を私に披露した後、反省文を泣きながら書くことになるなんてこと、今の私は全く知らない。

――
新入生への部活紹介で配る部誌の特別号用に書いたもの。
実はまだ部員にも見せていなかったり。
タイトルに活字中毒主義少女と入れたかったけれど、さすがにしょっぱなからそれはダメかなと思い、図書室さんに変更。
……別にフリーゲームに触発なんかされてませんよ、ええ。


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