QLOOKアクセス解析days of betrayal | ナノ

scene:放送室前
まだ誰も呼び出された各校の生徒がいない放送室前に、一つの人影があった。
やる気のなさそうな、暗い茶髪の少女。適当に結われたと見えるポニーテールと、黒縁の眼鏡がどこかアンバランスな印象を与える。
制服は参加校のものではない。彼女はゲームだけに関係のある部外者のようだ。

「眠ーい。早く来ないかなー、死亡判定つけちゃうぞー」

なんとも物騒な事を言いながら、彼女は近くにあった中身入りのダンボール箱に腰掛けた。
発言からするに、プレイヤーではなく、どちらかというとゲームマスター側の人間らしいということが見て取れた。
しかし、ゲームマスターではないようだ。彼女が身に付けているのは制服のみ。
水で死亡判定をつける今回のゲームにおいては、全員水に反応する特殊な布を使用したゼッケンを着用しなければならない。
それにも関わらず、少女はそれをつけていない。それゆえゲームマスターでないと断言が出来るのだ。

「俺を呼び出したのはお前か?」
「一番は日向くんー。そうだよー、私が君を呼び出した」
「参加校のどこの制服でもないみたいだが、何者だよ」
「それは全員揃ってからのお楽しみー、なんてね」

おどけたように少し笑った少女に、日向は不機嫌そうな顔を向けた。
それもそうだ、見るからに明らかな部外者らしき人物がいるのだから、嫌悪感を出しても何ら不思議はない。
しかも嫌悪感をむき出しにされても、気にもとめていない。むしろ小さなチョコを差し出しながら、食べるー?と聞いてくる。
日向はそれに軽く頭を横に振って、悟る。コイツに何を言っても無駄だと。
これだけ神経が図太いのだ、彼が何をいおうと無駄だろう。
なんでこう俺の周りには変人が多いんだ。日向は疲れ果てた表情でただそれだけを考えていた。
そうしているうちにも、福井、笠松、瀬戸の順で呼び出されたメンバーが揃った。
すると今までやる気がなさそうだった少女の背筋が伸び、メガネの奥の目が開かれた。
先程までとはうってかわった彼女に、瀬戸を除いた三人に緊張が走る。
今までにはない恐怖感。なぜだか目の前の少女一人がとても恐ろしく思えるのだ。
例えるなら、連続殺人犯を前にしたような。言い過ぎかもしれないが、彼らにはそう思えた。

「君たちを呼び出した理由をお話します」
「ちょ、ちょっと待て、その前にお前のゲームでの立ち位置を説明してくれ」
「そうだな、何者か分からない奴に説明されても困る 」
「一理ありますね。では私のことから説明します」

私はこのゲームの進行役。主に放送を担当するだけ。ゲームには一切干渉しない存在です。
彼女はそうなんの表情も浮かべず言った。
その様子は放送とは違うが、やはり機械を思わせる。
恐らく本当にそれだけの存在なのだろう。彼女の口調に迷いなど一切見られなかった。
納得しましたか? と前を真っ直ぐ見据えながら言った彼女に、四人はこくこくと頷いた。

「それでは呼び出した理由をお話ししましょう」
「その前にもう一つ。お前の名前は?」
「知らなくともゲームに支障はないと思うのですが。まあいいです、私の名は都城です」
「そうか、都城か。分かった。話を進めてくれ」

福井の言葉に頷いて、少女――都城は懐から何かケースを出して、それを手の中でころころと転がしながら口を開いた。

「あなたたちには、初期の鬼になってもらいます」
「は…!? ふざけんな! お断りだ!」
「話は最後まで聞くものです。初期の鬼と言っても、あなたたちにウイルスを打ち込むわけではありません」
「どういうことだ? 俺達が媒介になるっつーことか?」
「福井くん、その通りです。あなたたち四人には、一人一本このウイルス入りの試験管を渡します。この中のウイルスを誰かにかければいいんです。どうです?簡単でしょう? でも簡単な代わりに」

一定時間内にウイルスを誰かにかけられなかった場合、死亡判定がつきますけどね。
その言葉に四人の顔から血の気が引いた。甘い話には裏があるように、簡単なミッションには大きなリスクがつきまとうらしい。
都城の言葉を聞くまでは、ウイルスを捨てようとしていた彼らだったが、そういうわけにはいかなくなった。
うつせなかった場合、自分が死ぬ。そんなことはお断りだ。
恐らく死亡判定をつけると言っているあたり、都城によってこのゲームは監視されているのだろう。
圧倒的な威圧感を醸し出す彼女のことだ、そう簡単に欺けるわけがない。
仮に欺けたとしても、バレれば即死亡判定がつくだろう。そんなハイリスクな賭け、やりたい者はいない。

「時間は一時間。ウイルスを捨てるなど、馬鹿げたことは考えないことですよ。私がゲームを監視している限り、そんな小細工は通用しません」
「分かった、そんなことはしない」
「物分かりがよろしいようで助かります」

それではミッションを開始します。
都城はそう静かに言って、タイマーのボタンを押した。
その瞬間、一人を除いた三人が一斉に走り出した。
残った一人――瀬戸に、都城は不思議そうに首をかしげている。彼女の表情はいつの間にかやる気のなさそうな、ぼんやりとした表情に戻っていた。

「行かないのー? 死んじゃうよー?」
「お前につけば、このゲーム勝てるか?」
「さあどうだろうねー? 君の質問の意図が分からないなあ 」
「お前を脅せば、俺は有利になるよな? なあ、都城サン?」
「どうだろうねー? 君の言う有利っていうのが、私にはよく分からないなあ、瀬戸クン」
「言い方を変える。お前につけば」

――ゲームマスターになれる可能性はあるよな?
ニヤリと笑った瀬戸に、都城は驚いたように目を見開いていた。
こんなことを言われると思っていなかったのだろう。予想外な言葉と思考もいいところである。
都城はずり落ちたメガネを押し上げて、口元だけで笑った。

「かーもねー? でもそれはゲームマスターが決めることだからー。私に決定権はないから」

ね?
挑発的に笑って放送室に戻った都城に、瀬戸の口から笑いが漏れた。
面白くなってきた。これでこそ、頭脳戦だ。
ようやくやる気になった瀬戸も、放送室前を後にした。
放送室内でチョコを口に放り込んだ都城は、クスクスと小さな笑いをたて、マイクを握る。

「面白い思考の持ち主もいるもんだねえ。ルールにゲームマスターの交代についてはなにもなかったし? ゲームマスターがプレイヤーである事自体も怪しいもんねえー?」

誰にも届くことのないつぶやきの後、また高い電子音が響く。

《さてさてー、第一回目のミッションについてだよー…》
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