QLOOKアクセス解析days of betrayal | ナノ

scene:洛山
現在八時過ぎ。洛山は本館三階の一年六組の教室にいた。

「征ちゃん、そろそろ水鉄砲かえしてくれないかしら? 昨日のは悪かったと思ってるわよ」
「そう簡単に返すと思っているのかい? 僕も甘く見られたものだね」
「別に征ちゃんを見くびってるわけじゃないわよ?」
「だからと言って、昨日の今日だ。返せると思うかい?」
「まあ、それはそうだけど…」

言葉を濁した実渕を、分かりきっていることを言わないでくれという一言で切り捨てた赤司。
実渕の水鉄砲が赤司の手の中にある理由は、昨日の夜まで遡る。

――昨夜

「殺しておけばよかった」
「ちょ、玲央姉!?」
「征ちゃん、ごめんなさいね。勝つのはアタシみたいよ」

赤司へと水鉄砲を向け、困ったように笑う実渕。
対する赤司はいつも通りの涼しい顔。冷静さを欠かすことなく実渕を見据えている。
焦りもしない赤司を不思議に思いながらも、実渕は引き金に指をかけ、そして――。

――赤司に向けて引き金を引いた。
水鉄砲から勢いよく水が飛び出るが、その水は赤司のゼッケンを濡らすことはなかった。
肩にかけていたジャージを軽く引っ張って、水がゼッケンに当たるのを防いだのだ。
一瞬驚いて引き気味になった実渕の隙を赤司が見逃すはずがなく。彼の手から水鉄砲を蹴って弾くと、実渕の前に立って口元だけをあげて笑った。

「玲央、随分と面白いことをしてくれるね」
「征ちゃんも、そうでしょう?」
「何を言ってるんだい? 言っておくが、君は僕をゲームマスターだと思ったようだけど、検討違いだよ」
「そんなわけないわ、だって…」
「だって、なんだい? 証拠があるとでも?」

実渕は赤司の言葉に、ただ顔を背けただけだった。彼の目はどうするかを模索するかのように細められている。
勢いに任せて口走りそうになったが、証拠はあるにはある。ただ公言できないだけであって。
都城の言ったことは嘘ではない。それは信じられるし、覆らない。
けれど他人に知られてはならないのだ。自分の潔白のために。
どうする、どうする。ぐらぐらと目眩がしそうなほどに考える実渕に、余裕なんてものはこれっぽっちも存在していなかった。

「玲央、言ってごらん。僕に隠し事をしても無駄だよ。今ならまだ許してあげるよ」
「っ…」
「ほら、言ってごらん」

優しい赤司の声が、実渕の背に鳥肌を立てる。逆らえない雰囲気が実渕にのしかかる。
赤司が許すと言っているうちに言ってしまうのが吉だと、そんな分かりきったことを脳が何度も告げる。早く言ってしまえ、早く言ってしまえ。
だが実渕の体はそれに反して、なかなか唇を開こうとしない。唇が動いても、漏れるのは言葉になりそこなった空気だけで。
数分間それが続き、流石にしびれをきらしたのか、赤司が再び口を開いた。

「玲央、今すぐ言え。さもなくば、今すぐにでも君を…」
「分かった、分かったわよ! 言えばいいんでしょう!?」
「分かっているなら最初から言ってくれないか、時間の無駄だろう?」

実渕が口を割らなければ彼を撃つつもりだったのか、実渕に向けられていた水鉄砲を赤司は下ろした。
それを確認してから、実渕はポツポツとではあるが話し始める。都城にヒントをもらったこと。その条件に当てはまるのが赤司だったこと。だからあんな行動に出たこと。
それを聞き終わってから、赤司は深いため息をついた。怒ってはいない様子の彼に、若干ではあるが実渕の緊張がとける。

「玲央、君がそんなに端的な考えで行動するなんて思わなかったよ」
「え? どこが端的なのかしら、教えてくれる?」
「ヒントをもらって、それを元に考えたとこまでは良かった。でもそこで僕をゲームマスターだと断言したのが間違いだ」

――僕かゲームマスターなら、ゲーム開始後に君達全員を殺すけど。
さらりと言ってのけた彼に、実渕は戦慄を覚えた。
赤司征十郎という人間はそういう人間だ。分かっているはずなのに震えが止まらない。
言ったことは必ずやるのが赤司だ、彼がそういうからには既に実渕はもちろん、根武谷と葉山も脱落していただろう。
考えればそうだ、赤司は自分が生き残るためなら手段は選ばないだろう。チームメイトを駒だとしか思っていないのだから、その思考はある意味当然と言えば当然だ。
足から力が抜けてへたりこんだ実渕をよそに、赤司は蹴飛ばした水鉄砲を拾いに行った。
少し離れた所に落ちていたそれを拾うと、右手に握って実渕へと示す。

「これは預かっておくよ。またこんなことをされちゃ困るからね」

そう言った赤司の目は、笑っていなかった。
実渕の水鉄砲が赤司の手の中にあるのはそういう理由で、一夜明けた今もまだ返してもらえていない。
赤司がそれだけ実渕を警戒し、危険視しているということなのだろうが、流石にもうあんな無謀なことはしようと思わないだろう。赤司を敵に回す恐ろしさを考えれば、もし仮に彼がゲームマスターであると確定しても、武器を向けることなんてできやしない。
とりあえず、今日のゲームは自分で身を守れそうにないわね。実渕は小さく息を吐いて、水鉄砲を返してもらうことを諦めた。

「玲央、僕は思うんだけどね、僕じゃなく君が――」
《突然ですがミッションのお知らせー。今回のミッションは自由参加ー。ミッションに参加したら、北館四階が解放されまーす。ミッションは簡単、チームを組んでる人のうち、一人が放送室前に来るだけー。その人はゲームから降りてもらうよー。要するに、プレイヤー一人とフロア開放の交換ってことになるねー。強制じゃないので、やらないチームはスルーしてねー。ミッションは今から一時間ー。一時間たつ前に、放送室前に来るようにー、以上ー!》

タイミングよく流れた放送に赤司の声がかき消された。だが彼は言葉を続けようとしなかった。
その代わり、赤司は口角をあげ、こう言い放った。

「玲央、君がミッション参加者だ」
「え、アタシ?」
「え、え!? 玲央姉!?」
「ああ、そうだ。さあ、早く行くんだ」

顎で放送室を示す彼に、実渕は深いため息をついてから分かったわよとだけ残し、教室を後にした。恐らく彼は赤司の意図がわかったのだろう。
ミッションとはいえ、ゲームを降りるということは死亡判定がつくのと同じだ。
そこでゲームマスターをミッション参加者にすれば、間違いなく死亡判定がつきゲームが終わるというわけだ。
つまり、赤司がやったことはゲームマスターである可能性をもち、尚且つ自分を疑う人物の人数減らしだ。
自分で手を下さず、ゲームを最大限に利用する。赤司のやり方は清々しいほどに皮肉的なものだ。
だが彼は重要なことを忘れている。淡々と実渕をミッション参加者だと決めたことで、自分に向く疑いが増えるということを。
水面下で静かに亀裂が入るのを、彼はまだ知らない。
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