QLOOKアクセス解析days of betrayal | ナノ

scene:桐皇
食事をとりおえ、食器の片付けを終えた桜井と別室で食事をとっていた青峰が合流し、桐皇は通常の人数を保ったまま北館二階の教室にいた。
未だウイルスを所持する青峰は若干離れた所にいるが、ゲームをチームで動くには支障はないだろう。
各自武器の調子を確認している最中に、若松が問うた。

「そういやさ、桜井がゲームマスターってマジな話か?」
「えっ!?」
「花宮が言ってたんだけどよ、放送係が言ったって」
「そ、そんな僕がゲームマスターなわけないじゃないですか! それ本当に都城さんが言ったんですか…?」
「いや知らねえけど。つか、放送係都城っつーのか」
「え、あ、はい、そうですスイマセンスイマセン!」

また謝りどころでもないところで謝りだした桜井に、はあと若松がため息をつく。この謝り癖は治らないのか。こうも毎回の会話に謝られるとイライラしてくる。
本人に人を不快にしようという意志がないだけ、口に出して注意するのが難しい。注意したらしたで桜井はスイマセンと謝るだろうから、どちらにせよ治すのは無理なのかもしれない。

「まあ聞いたとき、ありえねえだろって思ったけどよ。まあ念のために聞いただけだから気にすんな」
「え、あ、はい…!」
「なら、都城だったか? アイツがゲームマスターっつーことになるよな?」
「まち、若間。それはちょい端的なんちゃうか?」

今まで口を挟まなかった今吉が、若松の言葉をさえぎった。
今吉の言葉は一理ある。仮に都城が本当にそう言っていたとしても、すぐに結論を出すのは好ましくない。
もしこれがでっちあげられた、嘘の情報なのだとしたら。都城がゲームマスターだと信じて行動すれば、嘘をでっちあげた人間の――花宮の思うつぼだ。
騙しあいであるこのゲームで他人の言う事は、基本的に信じてはならない。
特に花宮は。彼は常に周りを偽り、自分を守る男だ。今吉は中学時代それを見てきた。今吉を利用することはなかったものの、花宮のやり方には汚いとしか言葉が出なかったのを覚えている。
花宮とあまり接点がない上、“表の顔”しか見たことのない若松には、花宮の言うことが正しく思えるかもしれないが、それは大きな間違いだ。花宮の狙いはまさにそこにあるわけで。
花宮の言葉を信じるということはそういうことだ。利己主義な彼の言葉は戯言だと思っていい。

「でも、嘘を言ったんですよ? 疑わない方がおかしいじゃないっすか!」
「お前は花宮を分かっとらんな。アイツは身を守るためなら、手段を選ばん人間やで? さっき言うたことが、でっちあげやってことも十分にありえる」
「でっちあげ…」
「せや。もしくは、事実を言うてるか。そのどっちかや。どっちにしても、都城さんやっけ? あの放送係はゲームマスターである可能性がある人物からは外れるわけや」
「ち、ちょっと待ってください、事実を言ってるかってことは…」

その先は言葉にならなかった。信じられないとでも言うように、若松の視線が桜井へ向く。言いたいことを組みとるのは、それだけで十分だった。
事実を言っていた場合、ゲームマスターはまごうことなく桜井になる。都城が言ったというなら、それは十分な証拠にもなる。
チーム内にゲームマスターがいないと思っていただけに、一瞬今吉を除いた全員が動揺した。だがそれは本当に一瞬だけ。すぐに冷静さを取り戻し、桜井がゲームマスターであることを否定する。
その根拠として、まず彼の性格。常に低姿勢な彼が、ゲームを統べるなどというプレイヤーを管理し、全ての頂点に立つような役職をこなせるものか。
次に桜井が料理係であること。プレイヤーはもちろん、都城や脱落者の食事を作るためゲームから離れる彼は、鬼にすれば格好の標的になる。
家庭科室までは桜井一人だ。誰も彼を守ってくれるような人は周りにいない。普通のプレイヤーよりリスクを背負う彼が、ゲームマスターである可能性はあるか? ほぼないに等しいだろう。
仮に本当に桜井がゲームマスターだとするなら、役割を割り振った人物はあまり先読みが出来ない、眼前の事しか考えられない人間だということになる。簡単に死亡判定がつくような隙を作ってしまったのだから、そう言われても文句は言えない。

「せやから、今んとこ怪しいんは花宮やな。もちろん放送係も怪しいけど、多分ゲームマスターやあらへんで。単なる放送係やと思ってええと思う」
「そうですよね。とりあえず、今日は花宮さんに警戒ですね 」

桃井の言葉に、青峰をはじめとした三人が頷いた。誰も異論はないようだ。
いつも通りの真意を掴ませない笑みを浮かべながら、今吉の目だけは扉に向いていた。気付かれていることに気付いていないのか、そこに張り付く人物を蔑むような視線。

――簡単に踊らされはせえへんよ、花宮。

今吉の瞳は、確かにそう言っていた。それに張り付いている人物――花宮が気付いているかは神のみぞ知る。
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