QLOOKアクセス解析days of betrayal | ナノ

scene:秀徳
朝食を摂り終え、体育館から出ようとした秀徳の目前を歩く都城。まだ眠いのか、若干足元がおぼつかないような気はする。そんな状態でさっきのようなことをやってのけたのだから命知らずにも程がある。
都城の姿をとらえると、高尾が顔を輝かせた。緑間が話しかけるより前に、彼は都城の肩を掴んでいた。

「都城ちゃん、都城ちゃん!」
「おー、高尾くんー。元気ー?」
「和成でいいっていってんじゃーん! 怪我はまだ痛いけど、支障はねえし大丈夫! 都城ちゃんのおかげ!」
「そうー、なら良かったー。階段から突き落とすなんて、頭のおかしい奴がいるんだねえ」
「参るよなー。でもそのおかげで都城ちゃんと知り合えたし? 若干は感謝してんだけどね!」
「高尾くんМだー」

ケラケラと笑った都城につられて、高尾もケラりと笑う。どうやら波長があうらしく、怪我の手当てをする短い時間で仲良くなっていたようだ。
笑い合う二人を前に、二人の関係が分からない緑間。この女は一体誰なのだよ。今にもそう聞きそうな目で彼は都城を見ていた。
都城という名が聞こえ、どうしてもさっき花宮の言っていたことが頭をかすめる。桜井がゲームマスターだと暗に示した彼女に警戒せずにはいられない。
いつ自分たちが死亡判定をつけられてもおかしくない相手だ、高尾が自分にするような態度で接しているのは心配でならないのだ。
騙されているかもしれない。利用されるかもしれない。
ケラケラと笑う都城の本心が全く見えず、緑間は右手に下げた紙袋の持ち手を握った。高尾、無防備すぎるのだよ。そんな声が聞こえたような気がした。

「そういやさ、桐皇の桜井がゲーマスターってホント?」
「えー? それは、どこ情報なのかなー?」
「花宮さんが言ってたんだけど、そんなことないよねー。アイツそんな大層な事出来るわけないじゃん?」
「んー…、私は桜井くんをよく知らないから、どうとも言えないなあー。私が言えるのは、優しいってことと料理上手ってことぐらいかなー」
「だよねー、じゃあさ、もう一ついい?」

――都城ちゃんがゲーマスターなの?
その言葉の後に向けられる水鉄砲。至近距離であるため、都城が攻撃を避けるのは不可能だろう。
だが都城はゼッケンをつけていない。今高尾が都城を攻撃しても、全く意味はない。
いきなりのことに驚いて一瞬固まった都城だったが、すぐにいつもの気だるそうな顔に戻り、はあとため息をついた。
それがあまりにも大きく、退屈そうだったので、若干ではあるが高尾がひるんだ。

「高尾くん、つまんないこというのやめようよー。私は放送係兼救護係だって昨日言ったじゃーん。忘れたのー?」
「いや、覚えてるよ? 1日で忘れるわけないじゃん、俺まだボケるような歳じゃねえし?」
「なら、向けられたものは何かなあ? 私はほぼゲームには干渉してないんだど?」
「桜井がゲーマスターだって嘘ついたじゃん。嘘ついてる人を疑わないほど、俺馬鹿じゃないんだわ。都城ちゃんだってそうでしょ?」

人一倍、自分に向けられる感情には鋭いじゃん。
高尾の口から出た言葉に、都城の表情が消えた。能面のようになんの変化もない無の表情に威圧感を覚える。
高尾と都城。その両方が一歩も譲らない主張。それを聞いていた緑間はまさに蚊帳の外で、どうしていいものか考えていた。
ここで取っ組み合いの喧嘩が始まりでもすれば、都城が怪我をするのは避けられない。いくら彼女の身体能力が優れていても、運動部の男に勝てるわけがない。
仮にもこのゲームは、合宿と称して各校が集められている。つまり、ここで暴力沙汰を起こすと、下手をすれば大会への出場禁止が下る可能性があるのだ。それはなんとしても避けなければならない。
とりあえず2人を引きはがそうと奮闘するものの、なかなかうまくいかない。緑間の方法が悪いのか、二人が動こうとしないのか。どっちなのかは明確には判断できない。

「そんなことないけどなあ? 人間誰しもそうだよー? 悪意や敵意、逆に好意が向けられてるのはすぐ気付くじゃん。それはなんらおかしくないはずだよー?」
「でも都城ちゃんは、並の人間以上だよね。だってそうじゃなきゃ、話し始めた最初から俺に警戒なんてするはずないじゃん」
「自意識過剰だと思うよ? それにさー? 私ゼッケンつけてないよー? 水鉄砲は無意味だと思うなあ」
「そうでもないんだよなー、カーディガンの下につけてるでしょ。チラチラほんの僅かだけど見えてるんだよねー」

高尾の指摘に初めて都城の顔が歪んだ。小さく舌打ちをして、高尾から目を離す。どうやら図星だったようだ。
彼女の反応に高尾がうっすら笑んだ。思い通りとでも言うかのように、なんとも怪しく、そしていやしく。
都城の反応から、彼女がゲームマスターであると確信したのか、高尾は水鉄砲の引き金を引こうとした。
だがその直前、彼のゼッケンに鈍い衝撃が伝わり、同時に小さな音がした。
まさかと思って恐る恐る見てみれば、そこには色の変わったゼッケンがあって。
勢い良く都城を見てみれば、彼女は右手になにか容器を持ってうっすらと笑っていた。

「甘いよねー、だから突き落とされるんだよー?」
「都城、ちゃん…?」
「ファブリーズの空容器って、最高の武器になると思わないー?」

ニコリと笑った都城に、高尾の顔に違った感情の笑みが浮かぶ。
状況を信じられず、全てを否定する笑み。なんとも情けない笑みだった。
くるりと背を向けて歩きだした彼女が思い出したように振り返り、高尾と緑間を見ながら言った。

「もうね、七時過ぎてるからー。高尾くんには申し訳ないけどー、それ有効な死亡判定なんだよねー。ご愁傷さまー」
「ちょっ!? 都城ちゃん、あんまりじゃね!?」
「ぜーんぜん? 私はルールに従ってるよー? まあゲームには干渉しちゃったけどさー?」

ふふふ、と笑ってからまた歩き出した彼女に、緑間がぐるぐると思考の絡まるのを感じつつも言う。
今聞いておかなくては、この先の計画が立てられない。それぐらい重要なことを、緑間は彼女の背に向けて言った。

「身長はいくらだ!?」
「170ー」

なんの疑問も持たずに返された言葉。それを聞いて、緑間はまた紙袋の持ち手を強く握った。
高尾を階段から突き落とした人物の身長条件に当てはまっている。ほかにも黒子や赤司などが該当するが、一番怪しいのは都城だろう。
今の言動からして、恐らく都城が高尾を突き落とした。そしてそれに加えて死亡判定もつけた。許せるものか。
ホークアイを失い、更に相棒を失った。全ては都城のせいだ。

「高尾、俺がお前の仇を討ってきてやるのだよ」
「真ちゃん…!」
「俺はアイツがゲームマスターだと思っている。ついでにゲームも終わらせる」
「うん、任せた真ちゃん! 頑張って!」

二人の間でそんなやりとりがなされている中、空気を読まずに都城の放送が流れていた。

《七時を過ぎましたー、朝のゲームの開始でーす! 皆さん頑張ってくださーい――…》
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