QLOOKアクセス解析days of betrayal | ナノ

scene:海常
黄瀬の言葉は、嫌でも耳に入った。ああ、腹が立つ。別に彼に対してではないのだが、とにかく腹が立つ。
海常は分裂して、単独行動になっているが、黄瀬だけはちゃっかり誠凛に入っている。
――まああれだけ毎日黒子黒子言ってたしな。チャンスだわな、そりゃ。
一人離れた席で朝食をつつきつつ、くるくる表情を変える黄瀬を見ていた。
恐らく黄瀬は、黒子と笠松が手を組んでいることに気付いていない。
下手をすれば笠松が階段で黄瀬と花宮の会話を聞いていたことすら気付いていないだろう。
まあその方が笠松にとっては好都合だ。あの場にいたことが知れたら、それこそゲームマスターだと疑われてもおかしくない。
それに、笠松と黒子が接触しているとバレれば、黒子にまで火の粉が飛んでしまう。黒子にとばっちりを食わせるのは申し訳なさすぎる。
現状維持で黒子が黄瀬を見張っていてくれたら、こちらとしてはありがたい。黄瀬が情報を惜しげもなく話すのは、恐らく黒子と青峰のみ。
だが青峰のいる桐皇には、妖怪サトリ…いや、今吉がいる。彼が黄瀬と青峰の手を組ませるわけがない。
今吉は策士でなおかつ慎重な男だ。職業上上辺をいくらでも偽れる黄瀬と、関係を持つわけがない。もし関係を持つとしたら、完全に黄瀬を捨て駒にするか、適当に泳がせて情報収集をさせるかのどちらかだろう。
あまり今吉と接触がなかったため言い切れはしないが、彼の人柄を考えるに恐らくそうなのではないだろうか。推測の域は出ないが、遠くはないだろう。
となれば、情報を引き出せるのは黒子だけになる。笠松は偶然とは言え、黒子と手を組めた。これで黄瀬という脅威はある程度抑えられる。

[黄瀬くんが、笠松さんに死亡判定を付けると言い出しました。気を付けてください]

「…マジかよ」

黒子からのメールに、笠松は眉を寄せた。直球勝負を仕掛けられるとは、随分甘く見られたものである。
てっきり笠松に疑いが向くよう、あることないことをいいふらすのかと思いきや、そんなことはなかったようだ。
だがそんなことをして、黄瀬に何のメリットがある? 怪しいと思える人物を殺してしまえば、その疑いを被るのは自分自身だ。
そんな無意味で、ある意味リスクの高いことをする黄瀬の意図が分からない。
笠松自身、海常を離れた時点で黄瀬にゲームマスターに仕立てあげられるとこは予想できていた。
自分を守るためなら手段を選ばない彼が、海常の人間に手をかけないはずがないと踏んでいたのだ。
笠松の予想は現実のものとなったが、明らかにその規模が小さい。もっと疑いを抱くような事をでっち上げ、全校から疑いを向けられるだろうと思っていたのに。これはなんてお遊びだ?

[わかった、ありがとう。何か黄瀬が動きを見せたらまた教えてくれ]
[はい。とりあえず、ゲームが始まったら黄瀬くんに見つからないように頑張ってください。僕も出来るだけ近付かせないように頑張ります]
[ああ、頼む。隠れた場所をまたメールする]
[了解です]

黒子とのメールを終了させ、笠松は体育館を出た。あれ以上体育館にいると、下手に疑いを向けられそうだ。
ただでさえ影響力のある黄瀬が怪しいと言っているのだ、プレイヤーは知らず知らずの内に笠松を疑いの目で見るだろう。
本当に厄介な後輩を敵に回したもんだ。適当に校舎を歩く笠松に、クスクスという笑い声が向けられた。
辺りを見渡すと、北館の西側の屋外階段の手すりに腰掛けて笑う都城がいた。
その姿をみて、体から血の気が引くのを感じる笠松。女子が苦手というのも要因としてはあるが、それ以上に屋外階段の手すりに腰掛けているという状態が大半だ。
屋外階段ということは、まわりに壁なんてものはついていない。つまり、都城がバランスを崩せば、真っ逆さまに落ちるということを意味する。
落ちればどうなるのか。当たり前のようにひしゃげて死ぬ。それだけだ。
廃校なのだから手すりの手伝って錆びてもろくなっているだろうに、なんて無茶なことをするんだ。死んだらどうするつもりなんだ。
色々な思考が混ざりに混ざって、笠松の冷静さを奪っていく。そんな状況下で言えたのは、これだけだった。

「お前っ、し、死ぬぞ!」
「大丈夫、大丈夫ー。ここ二階だし骨折ですむよー。それに、これ結構頑丈だからー」
「そ、そういう問題じゃ、ねえ!」
「あー、もううるさいなあー。降りればいいんでしょ、降りればー」

不機嫌そうに言った都城は、器用に手すりの上に立ち、そのまま――笠松の立つ場所へと飛んだ。口に板チョコをくわえながら。
驚いたのは笠松である。女子が、それも失敗したら死ぬようなことを平然とやってのけた上、自分の目の前に着地したのだから。驚かない方が無理である。
くわえていた板チョコを右手で持ち口から話してから、眠そうな表情で十点と小さく呟く都城。もうどう反応していのか分からない。

「お望み通りおりたよ、これで満足ー?」
「まっ、満足というかっ! き、き、危険すぎるだろっ!」
「そうー? 落ちても二階だから着地できるよ、私丈夫だしー?」
「そういう問題じゃ、ねえから!」
「ふーん、ああ、そうー。まあいいやー。君もさあ、随分と面倒な人を敵に回したよねえー。あのモデル、馬鹿なように見えて、案外賢いよねー」

――私みたいにさあ。
笠松の横を通り過ぎる際に、ニタッと笑った都城に鳥肌が立つ。なんだ、あの女。とにかく怖い、全てを見透かされている気がする。
振り向いてみると、ひらひらと手を振りながら何も気にしないで歩く都城の背が見えた。
黄瀬のいうことは、一理あるのかもしれない。未だ鳥肌がたったままの腕をさすりながら、笠松はそこから動けずにいた。
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