QLOOKアクセス解析days of betrayal | ナノ

scene:誠凛
無言で朝食を口に運ぶ都城を、じっとみながら同じように朝食をとる誠凛。
先程花宮が言った言葉が、どうしても引っかかるのだ。自分から人物を特定できるような情報を与えるなど、怪しくて仕方がない。
だいたい、桜井がゲームマスター? そんなふざけたことがあるものか。
人を騙しながら、自分に疑いが向かないようにうまく立ち回る必要がある役割を、桜井がこなせるとは思えない。
なら、彼女は嘘をついているのではないか。すぐバレるような嘘をつくなんて、彼女は馬鹿なんだろうか。そんな考えに至るまで、大した時間は要しなかった。
だがそんな浅はかな思考に囚われる誠凛ではない。彼らは、都城が馬鹿ではないということを、目の当たりにしているのだから。
放送室前のリコとの会話。リコが何も言わないのに、聞きたいことをあらかじめ拒否された。それは都城が思考を読むことと、状況判断に優れていることを示すわけで。
そんな自分に向けられた感情や、思考、それに自分を取り巻く環境に鋭い彼女が、そんな嘘をつくだろうか。
考えてみれば答えは否。そんな馬鹿げたことを、彼女がするわけがない。したところで、都城にメリットなどなにもないのだから。

「黒子っち! あの放送係の人、怪しいっスね。あの桐皇の一年生がゲームマスターだなんて、そんなことあるわけないじゃないっスか!」
「そうですね。でも僕は彼女が怪しいとは思いません。あの人は賢いです、分かりきった嘘なんてつくような人じゃないですよ」
「えー、でも昨日十分怪しかったじゃないっスか! 俺、絶対あの人がゲームマスターだと思うんスよ!」

――君に比べればそうでもないです。
そんな言葉を飲み込んで、黒子はただそうですか、とだけ返した。
黄瀬と花宮の会話を聞いた以上、黄瀬は信用ならない。信用すれば、二人の手のひらの上で踊らされるだけだ。
おそらく黄瀬は花宮との会話が、誰にも聞かれていないのだと思っている。だから堂々と都城をゲームマスターにしたてあげようとしているのだろう。
もう少し警戒してもいいのではないだろうか。黒子はコロコロと変わる黄瀬の表情を横目に見ながらそう思った。
黄瀬が階段へ来た時、笠松がいたことを悟られないためとっさに嘘をついた。ここには今来たばかりだと。
我ながら見えすいた嘘をついたと思う。ただでさえ冗談や嘘の類いを言うのが苦手なのに、誰かがいたことを隠す嘘などつけるわけがない。
きっとバレている。そう思ったが、案外黄瀬は気付いていないようだ。
それは吉だと思ったが、本当にそうなのかは怪しいところだ。
モデルという職業柄、表情を貼り付けるのがうまい彼の真意など、分かるはずがない。
本当は僕が嘘をついているのが分かってるのでは? 黒子はいまひとつ黄瀬の表情を信用できなかった。まあ、元々黄瀬を信用などしていないのだが。

「でも黄瀬くん、私も彼女がゲームマスターだとは思わない」
「え、なんでっスか」
「一度会話をしたの、ゲームが始まってから。彼女そうとう頭の切れる人よ。バスケプレイヤーなら敵に回したくないタイプの人だわ」
「…そうっすか」

リコの言葉を聞いて、黄瀬の表情が少し曇る。それもそうだ、黒子だけならまだしもリコにまでそう言われては強く都城がゲームマスターだと言えない。あまり強くいえば、逆に黄瀬が怪しまれてしまうだろう。
――この辺が引き際っスかねえ。
表情にそれを出すことなく、黄瀬はそう思った。まあ今だけが都城へ疑いを向かせるチャンスというわけではない。ゆっくり、怪しまれない程度で十分だ。
黄瀬はそう考え、話題を変える。

「そういえば、俺まだ怪しいと思う人いるんスよ」
「まだいるんですか。黄瀬君は疑心暗鬼になりすぎなんじゃないですか」
「そんなことないっスよ! 全員が怪しいんスよ? 疑ってて損はないと思うっス! 」
「…そうですか」

黒子は呆れたようにため息をついた。何も知らなければ、きっと騙されたでたろう屈託のない笑顔。
だがその笑顔の裏に何かが含まれているようで、表情一つにさえ安心できないのだ。
今度は誰を怪しいというのだろう。怪しいというからには、本当に怪しい動きをしている人なんでしょう?
口には出さないものの、黒子の目はそう言っているようだ。目は口ほどに物を言う。そのいい例だ。
その視線に気付いてか気付かずかは定かではないが、黄瀬は口を開く。

「俺笠松先輩も怪しいと思うんスよ」
「え? どうしてですか?」
「どうしてって…。笠松先輩のせいで、海常は分裂したんスよ? 分裂させるってことは、何か集団で動くとマズイことがあるからだと思うんスけど…」

ああ、なんて浅はかな考えなんでしょうか。黒子は思わず笑いそうになるのを必死に堪えた。
そんな馬鹿なことがあるものか。笠松は黒子と手を組んでいるのだ、黄瀬と花宮に対抗するために。
彼がゲームマスターだとしたら、自分の首を絞めていることになる。そんな仮定を自信満々に言う黄瀬に、どうやっても笑いが沸き起こる。なんて滑稽なんだろう。
それに、笠松は女子が苦手なはず。都城はゲーム進行側の人間で、ゲームマスターと繋がっている。しかも都城は紛れもない女だ。
女子が苦手な笠松が、放送係を女にするだろうか。考えてみると、そんなことはないという答えが出るわけで。
本当に、浅はかですね。黒子は内心で嘲笑を向けた。先輩の苦手なものすら覚えていないうえ、矛盾ができるようなことを言うなんて。
この勝負、僕の勝ちですね。牛乳を飲みながら、黒子は確かに黄瀬へ笑みを向けたのだった。
「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -