QLOOKアクセス解析days of betrayal | ナノ
scene:陽泉
目覚めが悪い。痛む体に顔をしかめながらも、氷室は立ち上がった。
時計を見てみれば五時半すぎ。起きた時間としては妥当だろう。
学校特有の寒さにぶるりと身を震わせてから、再び毛布をかぶった。いくら秋田より暖かいといっても、スポーツをする者としては体を冷やすのは望ましくない。
引きずらないように毛布をかぶったまま、彼は教室をでた。他の部員を起こさないよう物音を出来るだけたてずに。
彼が向かうのは、一つ階をおりた所にある放送室。都城が起きているかは定かでないが、どうやら彼女に会いに行くらしい。
さて、放送室はどこだったか。階段をおりたところで周りを見渡す氷室。
なんとか放送室と書かれたプレートを見つけ、ドアをゆっくりと引いた。
放送室の中には大量のお菓子と、椅子の上で死んだように眠る都城の姿があった。イヤホンをつけっぱなしで寝てしまったらしく、寝ている間にとれたらしい片方のイヤホンからは、少しぎこちない歌声が聞こえてくる。

「君、起きてくれないか。聞きたいことがあるんだ」
「っ…、んー…。誰…、まだ五時半すぎじゃん…」
「朝食はすぐだよ、それまでに聞いておきたいんだ」
「寝させろー…」

目を覚ましたものの、眠さに再び目を閉じようとする都城。もぞもぞと布団を頭までかけようとするが、氷室がそれを止めた。
不機嫌そうに氷室を睨む彼女に、睨まれている本人が浮かべるは真逆の笑み。
なんともカオスな空間で、先に折れたのは都城の方だった。

「聞きたいことって、何? ゲームの本質に関する質問は却下。それから眠いから一つにして」
「手厳しいな、せめて二つにしてくれないかな」
「…ものによる」
「まず一つ。君がゲームマスターを知っていると仮定するよ。ゲームマスターは、ゲームが始まってから君と接触はしたのかな?」
「ふあ…。…そんなこと聞いて何になるの? 別に接触と言った接触はしてないけど」
「接触と言った接触は、だから接触したは接触したんだね、違うかい?」
「さあ、どうだろうね? でも限られちゃうよね、それだと。もし仮に私が接触した人の中にゲームマスターがいたら、自分の首絞めちゃうじゃん。この問いに関しては、君の推測に任せる、が私としての答えかなあ」

そういった後、都城は大きなあくびをした。目尻に溜まった涙を指ですくう彼女を見ながら、氷室は考える。
都城の言葉の濁し方からして、彼女と接触した人の中にゲームマスターがいるのはほぼ確実だろう。
だが、彼女がそんな分かりやすいヒントを与えるかどうかだ。
ゲームの進行役という立場から、都城はプレイヤー側の人間を騙さなくてはならない。騙さなかったら、簡単にゲームマスターがわかってしまう。それは彼女の敗北も意味するのだ、都城としてはそんなことするはずがない。
それに、都城がゲームマスターという可能性もある。
ゼッケンこそつけていないものの、氷室は放送室の奥の方にゼッケンがあるのに気がついていた。
放送室から出ないためつけていないのだろうが、都城も一応参加者としてカウントされているようだ。
となれば、都城がゲームマスターではないという可能性は消える。つまりは、この廃校内にいる人間全てでのバトルロワイヤルだということだ。
そう考えたとき、一番に怪しくなるのは都城。ゲームの監視をし、進行状況や参加者、挙句の果てには鬼や脱落者まで把握している彼女を疑わないわけがない。
それに昨日の体育館での騒動。遠目に見ていた氷室だったが、怒りに満ちた都城の言葉はしっかり耳に残っている。

――私の筋書きを否定するのは許さない。これは私の作った、私のための筋書き。テメェに否定する権利なんぞこれっぽっちもねえよ。

都城は確かに“私の筋書き”だと言った。“私の筋書き”ということは、全てを考えたのは都城。そう聞こえてしまう。
もしそうだとしたら、ゲームマスターは都城であると断言できてしまうのではないだろうか。
目の前で眠そうに目をこする彼女に対して、色々な仮定が浮かぶ。
その仮定の中に正しいものがあるかを証明するためには、どう問えばいい? 氷室は自問自答を繰り返した。

「…もう一つ、いいかな」
「…んー、早く終わるなら」
「君はゲームマスターかい? ゲームマスターでないなら、これを答えてくれればいい。ゲームマスターは複数人いるのかな?」
「私は放送係兼救護係だから、それ以外ではゲームには干渉しないよ。それから最後の問いだけど。それには黙秘権ー。言っちゃったら面白くないじゃん」

そう簡単には答えを導かせてくれる気はないようだ。まあそれも予想していた範囲内ではあるのだが。
都城が否定しないということは、ゲームマスターが複数である可能性もあるようだ。
なかなか答えが出せないな。困ったように笑う彼の横で、都城はイヤホンを耳に入れ直し、音楽を流しながら眠りにもどろうとしていた。
だがその手元は小刻みに動いていて。微かな音が聞こえるところからして、ゲームマスターにメールを送るのだろう。
好都合なことをしてくれてありがとう。氷室はニコリと笑って、放送室を後にした。
どうやって携帯を一時的に集めて、彼女からのメールのありなしを確認しようか。
氷室の頭の中は、ただそれだけが回っていた。
早くゲームマスターを暴きたい。そんなことを思いながら、氷室は毛布に気を付けながら体育館へと急ぐのだった。
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