QLOOKアクセス解析days of betrayal | ナノ

scene:体育館
放送室の中にかけてある時計に目をやって、都城は面倒くさそうに放送のスイッチを入れた。

《十二時になりましたー、ゲーム終了でーす。明日のゲームは七時からー。それまでは睡眠なり食事なり、各々お好きに行動してくださーい》

放送を終えた後、都城は大きなため息をつきながら棒付きキャンディの包装紙を剥がした。
飴を口に突っ込んでから、彼女は足元にあった鞄からパソコンを取り出した。
それから手元に目をやることなく、カタカタと何かを打ち込んでいく。

「あー、つまんないなあ。みーんなありきたりな事しか考えてないんだろうしなー。ちょっとはこっちを楽しませてよねー」

キャンディを口の中で転がしながら、文句にも似た独り言を言う都城。もちろん独り言ゆえ誰も返事などしない。
USBを引き抜いて、都城はパソコンの電源を切った。そしておもむろに立ち上がり、放送室を出た。
誰もいない廊下をパタパタとスリッパの音をたてながら、堂々と歩く。
電灯のついていない廊下を歩く彼女は怪しく、無機質に見える。もともと怪しくはあったのだが、弱々しい月光の下ではさらにそれが浮き彫りになっている。
数分後体育館に到着し、なんのためらいもなく扉を開く。それから中へ入り、一直線へその奥へ進んでいく。

「あ、お皿忘れちゃったー。まあいっか、明日の朝にでも持ってこよー」

なんとも呑気なものである。彼女は火神がそのことで怒っているなど全く知りやしないのだ。
体育館の奥の方につけられたモニターに歩み寄り、その周りをうろうろとうろつき始めた。何かを探しているようだが、うまく見つけられないようだ。
電灯をつければいいのに、その発想すらないのだろう。都城は賢いようで抜けている。ゆえにもう少しこのまま暗い中で何かを探し続けるのだろう。
見つからないなあ、とため息をついた彼女に、突然後ろから声がかけられた。どうかしたんですか、と。
驚いて振り返ってみれば、誰かが1人で立っていて。視界が悪く距離が離れているため、顔の判別がつかない。
それは相手も同じようで、月光のおかげでかろうじて見える体が左右に、都城の顔をうかがおうとして揺れるのが見えた。

「んー、ちょっとUSBの差し込み口をねー」
「USB、ですか?」
「うん、そうー。あんまり新しい機種じゃないから、無線LANでデータ飛ばせなくてねー」
「そ、そうなんですか」

だからさー、一緒に探してくれると嬉しいなあ。
何気ない一言に、相手は驚いたようでえっと声が漏れた。
無理もない。一部のプレイヤーを除いた、ほぼ全員が都城のことはよく思っていない。ゲーム進行側のため仕方ないと言えば仕方ない。それに加え、彼女の気まぐれな性格は、お世辞にも人に好かれるようなものではない。
そんな相手からいきなり一緒に探してくれなんてことを言われたのだ。驚かない方がおかしいだろう。
本当なら断りたいところだが、都城は本気で困っているようだし、断るだけの勇気もない。
少しの間悩んで、その人は都城を手伝うため、彼女の隣へ歩み寄った。

「ありがとー。助かるよー、えっと…、んー、桜井くん、でいいのかなー?」
「あ、ハイ、そうです! その、特徴なくてスイマセン!」
「別に謝ることでもないと思うよー? 私なんか特徴のとの字もないよー?」

いや、どこがだ。その人――桜井はつっこみたくなったが、ぐっとおさえそうでもないですよ、とだけ返した。
確かに桜井の思うことは正しい。これだけ印象に残る性格と、女子にしては高い身長の双方を兼ね備えている都城に、特徴がないわけがない。都城に特徴がないというなら、この世の人間全てが特徴のない人間になる。少し大げさかもしれないが、そう思えるほどに都城には特徴がある。
今まで会った人の中で、一番特徴があるよ…。そんなことを考えながら、桜井はUSBの差し込み口を探した。

「あ、これじゃないですか?」
「それそれー。ありがとうー、助かったよー。これお礼ねー」

都城はそう言って板状のものを桜井へ差し出した。
受け取るのを躊躇った桜井だったが、都城が引かないのに折れて、不本意ではあるがそれを受け取った。
見てみれば、それはミルクチョコレートで。市販品の中で最も甘いと言われる商品は、甘党である都城の好みそうなものだ。
ありがとうございますと礼を言おうとして顔を上げると、雲が切れたのか、少し強くなった月光に照らされた都城と目があった。
月光に照らされた彼女の顔は、真剣そのもので。桜井はついつい言葉を飲み込んでしまった。

「チョコには、気を付けて。甘い表には、苦い裏があるから」

それが何を示しているのか。桜井には分からなかった。
どういうことか聞こうとした時には、既に都城はドアの前。明日の朝ご飯期待してるからー、という気の抜けた声のあと、彼女は体育館を後にした。
チョコを持ったまま、ただ立ち尽くす桜井。
どうすればいいのかわからず、とりあえずチョコを裏返してみる。すると、その包装紙の中に何やら紙が入っているのに気付いた。
なんだろうと思って見てみれば、そこには単語が三つ並んでいるだけだった。
生贄、逃走、死者復活。
果たしてなんの暗号なのか。全く検討もつかない。
やっぱり彼女は苦手かもしれない。ミルクチョコレート片手に、桜井はただそう思ったのだった。
「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -