QLOOKアクセス解析days of betrayal | ナノ

scene:洛山
どんどん夜が深まり、照明のない教室を照らすのは月光の弱々しい光だけ。自由に視界がきかないそこで、赤司達はただ夜のゲーム終了を待っていた。

「あと三十分か。僕達は今日のところは鬼になりそうもないね」
「えー、残念。オレ鬼になりたかったのに」
「自滅行為に出てどうする。君達は僕の指示に従っていればそれでいいんだ。そうすれば負けることなんてない」

そう言い切った赤司に、葉山が納得しつつも抗議するような声で返事をした。
葉山は深い考えなしに自滅行為に出る節がある。バスケではそういうことはないに等しいのだが、思い返せばどうも日常生活では自滅行為に出ている気がする。
ゲームでもまた然り。本人は純粋に楽しみたいだけなのだろうが、いかんせん状況が状況だ。
多少精神年齢が幼く思える葉山は、物事をあまり考えない傾向にある。今回の発言もそのためだろう。
だが、赤司はそうとはとらえなかった。赤司…いや、恐らく実渕もそうだろうが、葉山を疑っている。
日常的に無邪気な発言の葉山の発言には、ついつい注意が向かなくなる。
それも仕方ないだろう。紫原とまではいかないが、葉山は精神的に実年齢より幼い。そのため少し怪しい発言をしても、見落としてしまう可能性があるのだ。
幼さは立派な武器になる。それは前々から理解していた。だがそれは、味方にいるときの話であって。敵に回られるとここまで頭を抱えなければならないのかと、赤司は内心ため息をついた。
もし葉山が生まれるのが一年遅く、その上帝光バスケ部だったなら。紫原との緩いやりとりに、赤司は間違いなく悩まされたであろう。その想像は難しくない。

「そういえばさ、玲央姉さっきどこ行ってたの? ついて来るなって、俺がいちゃダメなとこだった?」
「んー、そうね。女の子のところに行ってたのよ。大切なものを落としていったから」
「お前、わざわざ落し物届けに行ってたのかよ。大事なもんなら、放っとけば取りにくんだろ。お人好しにも程があるんじゃねえの?」
「アンタとアタシを一緒にしないで。アタシがこんなことするのは女の子限定よ。むさくるしい男なんかに、労力なんか使うわけ無いじゃない」

実渕の言葉に、根武谷は興味無さそうに返事を返す。彼らには慣れきったやりとりなのだろう。
言いたいことを言い終えたのか、根武谷を放置し実渕は考える。都城の言った言葉の意味はなんなのだろう、と。

『――には気を付けて』

ドアが閉まる直前、彼女は確かにそういった。だが何に気を付けろというのだろうか。
都城がゲームの進行役なのは間違いない。彼女以外に誰がこのゲームの進行役をこなせるというのだ。
臨機応変な対応を迫られ、挙句プレイヤーから理不尽に当たられる損の多い役。そんな役など誰もやりたがらない。当然だ、誰しも利益のないことはしたくない。
そう考えると、誰も都城以外で進行役になれる人間はいなかった。
となれば、だ。都城が言ったのは、おそらくこのゲームにおける危険人物か、ミッションかの二択となる。
だがあのドアが閉まるまでの僅かな時間に、ミッションの内容など言えるだろうか。いくら早口言葉が得意でも不可能だ。
そうするとミッションという選択肢は消え、必然的に危険人物を口にしたことになる。
しかし重要なところは全く聞こえなかったのだ。それがもったいないところである。
全てを監視しているであろう彼女が、実渕だけに教えた情報。それを生かさない手はない。
実渕が必死に頭を捻り、ふと一つのことに気が付いた。危険人物の名を聞くことは出来なかったが、その際の唇の動きだけは覚えているではないか。
あいにく実渕は読唇術を心得ていない。だが唇の形からしてどの音かだけはなんとか読み取ることができた。
確かあの音二文字の後に、いの音一文が繋がっていた。見逃したところがあるかもしれないが、大体はそれであっているはずだ。
その情報から、当てはまる名前の参加者を探そうとするが、人数が多過ぎる。
しかも、唇の形が実際の音とは違う形になっている場合もある。
特定は至難の技…いや、ほぼ不可能に等しいだろう。可能性を考えれば、かなりの参加者が危険人物であるかもしれないという疑いを向けられることになる。
そのため、迂闊に口に出すこともできやしないのだ。ゲームマスターでないにもかかわらず疑いを向けるというのは、いささか可哀相である。
それに、都城からヒントをもらったことを公言は出来ない。公言してしまうと、実渕と他のプレイヤーが対等でないことを自分からばらしてしまうことになる。下手をすれば首が絞まりかねない危険な真似を、実渕がやるわけがない。
頼れるのは自分の頭脳だけ。そんな状況下で、実渕は必死に頭を回転させた。
自分が気をつけるべき相手は誰なのか。それが分かってしまえば、正直このゲームは勝ったと同じなのに。
なかなか答えの出ないもどかしさの中で、彼はふと思いついた。なんだ、いるじゃないか、身の回りに。

ア カ シ

目の前で鋭い視線を廊下に向ける赤髪が。
条件にもあうし、十分彼がゲームマスターである可能性もある。
人を束ねることに長けた彼は、集団心理を操る方法を身に付けているのではなかろうか。
そして将棋で鍛えられてきた頭脳はもちろん性能がいい。自分に疑いを向けさせず、むしろ自分の潔白をにおわせ、それと同時にゲームの指示を飛ばせるぐらいには。
ああ、そうだったの。やっぱり、征ちゃんだったの。
ひどく納得した実渕は、彼の思考など露知らず明日からどうするかを考えている赤司を冷めた目で見つめた。
傍観者になりたいと願い、傍観者に近い形でゲームを見てきた彼の頭脳が、当たり前のように赤司がゲームマスターであると告げる。
最初から赤司がゲームマスターであってもおかしくなかった。怪しい動きをしたら直ぐに殺すと言った時点で、自分がゲームマスターであると暴露したも同然だったのだ。
ああ、アタシったらなんて馬鹿なのかしら。もっと早く――

「殺しておけばよかった」
「ちょ、玲央姉!?」
「征ちゃん、ごめんなさいね。勝つのはアタシみたいよ」

赤司へと水鉄砲を向け、困ったように笑う実渕。
対する赤司はいつも通りの涼しい顔。冷静さを欠かすことなく実渕を見据えている。
焦りもしない赤司を不思議に思いながらも、実渕は引き金に指をかけ、そして――。

――赤司に向けて引き金を引いた。
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テーマ「人外ファンタジー」
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