QLOOKアクセス解析days of betrayal | ナノ

scene:桐皇
ゲーム開始から一時間半が経過した。招待状によると、夜のゲームは九時から十二時までの三時間。
よって今日のゲームはあと一時間半だけのようだ。

「おかしいな、ミッションの放送かからんで?」
「そういえば、そうですね」
「今日はもうミッションないんやろうか」
「なんじゃやいですか? その、今日到着したばかりですし、あの、えと、その…スイマセン!」
「桜井、謝らんでええから。言いたいことは何となく理解できたし」
「あああ、お手数をおかけしてスイマセンスイマセン!」
「…はあ」

ただの会話をしようとしただけなのに、桜井は謝りはじめた。今のどこに謝る要素があったというのだ、会話が成立しない。
ため息をついた今吉に、桜井はさらにスイマセンと言い出す始末。これではただの悪循環である。
とりあえず、桜井のことは放置しておこう。おそらく何を言っても謝るしかしないだろう。まあ今に始まったことではないが。
今吉率いる桐皇がいるのは、北館二階の三年六組の教室。今のところ接近してくる学校や個人はない。ひとまずは安心しても良さそうだ。
廃校になったときから時間が止まったそこには、古びた机や椅子が放置されたままになっている。
強度的に問題ないらしく、青峰や若松が机に腰をおろしている。本来ならあまりいいことではないのだが、今は例外だ。
椅子に座るより机に座った方が逃げるときに素早く動ける。それに、逃げる際に机を後ろに蹴飛ばせば、多少の時間稼ぎにはなるだろう。

「桜井、聞きたいんやけど」
「は、はい、何ですか…?」
「今日食事にウイルス入れたん?」
「あ、えと、その、それは…」
「入れたんやな?」
「ス、スイマセン、言えないです…!」
「言えへん? どういうことや」
「あの、その、誰の皿に入れたっていうのを言うとトラブル起こるし、桐皇が他の学校より有利になるので、言うなって言われてるんです、スイマセンスイマセン!」

おろおろと謝る桜井に、今吉は気にせんでええとだけ返し、考え始める。
確かにそうだ、桜井がどの皿にウイルスを入れのかを言うと、トラブルの元になるのは明らかだ。
それは理解しているし、当たり前のことだろう。
ウイルスを入れる権利が与えられているのは桜井と火神。この二人は自分の意思でウイルスを入れることができる。
権利というからには、いつ入れるかは二人の自由なのだろう。だが二人はお互いがいつ入れたのかを知れるのだろうか。
知れないのだとしたら、桜井と火神の両方にゲームマスターである可能性が出てこないだろうか。
自分が入れたとしても、もう片方の料理係にその事実を擦り付けることができる。
二人に科されたルール上、二人は自分が誰に入れたのかは言えない。
ということは、片方に身に覚えのないウイルス混入を擦りつけられても、否定ができないということだ。
もし仮に、料理係のどちらかがゲームマスターだとしたら。恐ろしいことこの上ない。
自分を疑う人間や、都合の悪い人間の食事にウイルスを混ぜれば、その相手を鬼にすることができる。
鬼になって、自分を狙ってきたとしても、正当防衛で死亡判定を付けることが可能になるのだ。
そこまで考えて、今吉はまあ桜井やあらへんやろ、と火神に疑いを向けた。
そう考えるのも無理はない。桜井にそんなことをやってのける図太さはない。あったらこんなに謝ってはいないだろう。
考えをまとめてから、今吉は思う。なんて計算されたルール設定なんやろう。今吉は純粋にゲームを考えた人間に敬意を示したくなった。
誰もこんなよくできたルールなど、考えつかないだろう。どのルールを利用しても、ゲームマスターは身を隠せる。隅から隅まで計算されたルールに守られたゲームマスターを見つけることなど、不可能に近い気さえしてくる。
だがそんなルールで守られていようと、彼はゲームマスターを見つけなければいけない。
さて、どうボロを出させよか。今吉のメガネが怪しげに光を反射した。

「オイさつき、お前お前あんまりふらふらすんな。なんかの拍子に転んでうつされたらたまったもんじゃねえだろ」
「わ、わかってるよ! そんなにどんくさくないもん!」
「そう言いながら椅子から落ちそうになってんのは誰だよ」

青峰の呆れた声に、桃井がぷくっと頬を膨らませる。
ああ、桃井を忘れとった。今更になって、彼女が鬼であることを思い出す今吉。なんとも桃井がかわいそうになってくる。
桃井のウイルスをどうするか。彼女がバスケ部員を追いかけてウイルスをうつすのは無理があるだろう。
どうすればいいだろう。どうしたらゲームを有利に進められるだろうか。
少し考えた結果、今吉はひとつのことを思いついた。

「桃井、ワシにうつし」
「え…!? な、何を言ってるんですか!」
「大丈夫やから、はよし。試したいことがあるんや」

今吉の言葉に、桃井は恐る恐る彼の手に自分の手を伸ばした。
彼女の手を今吉が握り、ウイルスが今吉にうつる。桃井は今吉を不安そうな目でみている。

「桜井、手出し。ワシがウイルスうつすから、それを若松にうつして、そっから青峰にうつし」
「えっ!? で、でも…!」
「ええから。それでゲームマスターが分かるやろ」

その言葉で、桜井と若松がハッとする。そうだ、それでゲームマスターがわかる。
ルールには、ゲームマスターにウイルスをうつした時点で、ゲームは終了するとあった。
それが本当なら、これでゲームマスターが桐皇にいるかどうかが判明する。
既に桃井と今吉はゲームマスターでないことが判明している。あとは桜井と若松、そして青峰だけ。
桜井は今吉の手を握り、ウイルスを引き受けた。そして若松に謝りつつ彼の手を握る。

「青峰、手出せ」
「俺移す人いなくなるじゃねえか」
「青峰は本気で走れば追いつけるやろ。自分でなんとかし」
「ひでえ…」

嘆く青峰にかまわず、若松は力一杯青峰の手を握った。
ウイルスが青峰にうつる。だがゲーム終了を知らせる放送は流れない。
そこから桐皇にゲームマスターがいないことが証明された。ほっと胸をなで下ろす桐皇の中で、今吉だけは難しい顔をしていた。

「おると思ったんやけどな…」
「情報が少なすぎます、仕方ないですよ。青峰君、頑張ってね!」
「はー…。かったりー…。まあ行ってくるわ」

そう言って教室を出た青峰。彼なら誰かにウイルスをうつすことなど苦でもないだろう。
安心した桐皇だったが、彼らは一つ見落としている。曖昧になっているルールを――…。
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