QLOOKアクセス解析days of betrayal | ナノ

scene:海常
「話したいことって何? 場合によっては撃つわよ」
「そんな裏がある話とかじゃないんスよ?」
「黄瀬くんが海常分裂で一人ぼっちになったので、誠凛に入れてほしいらしいです」
「ちょ、黒子っちもうちょっと言い方考えて!? 俺可哀想な子になるじゃないっスか!」
「ちょっと静かにしてください。黄瀬くんのせいで見つかったら、黄瀬くんを盾にして逃げます」
「いや、黒子はミスディレクションで相手に気付いてもらえないだろ」

確かにそうである。黒子は能力的にこのゲームで無敵に等しい。等しいというのは、体力のなさが足を引っ張っているため。黒子に体力が備わっていれば、恐らくこのゲームを制するのは黒子になるだろう。今の時点ではまだなんとも言えないが。
それはさておき黄瀬である。黒子への反応から見て、誠凛に入れてほしいというのが彼の言うお願いのようだ。
黄瀬の表情からして、特に企んでいるわけではなさそうだ。
それを考慮の上、リコは口を開いた。

「いいわよ。丁度日向くんが抜けたとこだし」
「抜けたじゃなくて、抜けさせたんだろ…」
「日向くん、なにか言った?」
「…別に」

リコの素晴らしく美しい笑みに、日向は反論の言葉をぐっと飲み込んだ。その判断は賢明といえよう。
日向の離脱は予想外だったが、そのかわりに黄瀬が誠凛に加わることになった。それも予想外ではあるが、いい影響が生まれることを期待しよう。なんとも日向が哀れに思えるが、そのあたりは気にしないにこしたことはない。
よろしくお願いするっス、とへらへら笑みを浮かべる黄瀬。彼に笑顔でよろしくと返す誠凛が騙されているなど、誰が思おうか。いや、思うはずがない。
ただ一人無表情な黒子を除いて。

――数時間前
黄瀬が花宮から提示されたのは、それはそれは甘美な響きをもつひとつの案だった。

「情報かく乱を起こして、俺達に向いた疑いを放送係に向けてみねえ?」

最高な提案だと思った。普段黄瀬の受けている扱いを思い出すと、断る理由などなかった。
ゲームマスターは当然周りを欺いている。それを暴くのも、更にゲームをかき回すこともできる。
花宮が提案したのは後者。放送係――都城にゲームマスターであるという確信はないが、花宮と黄瀬に向けられた疑いを擦り付けることは容易いだろう。
このゲームで生き残るためには、それぐらいはやってもバチは当たらないだろう。
それに、黄瀬は少しやりたいことがあった。自分の脳でどれだけ周りを騙せるのか。
誰をゲームマスターに仕立てあげるかは、既に決まっている。ゲーム開始からずっと怪しいと疑っている人物がいるのだ。
もしかしたら、本物のゲームマスターなのかもしれない。あわよくばゲーム終了に持ち込めるかもしれない。
そうなったら、なんて素敵なことだろう。まあ、そうなる確率は低いのだが。

「いいっスよ。花宮さんも協力してくれるっスよね?」
「当たり前だろ? なんのために手結んだと思ってんだよ」

誰もいないと思って、普通の音量で会話を交わす二人。油断していたのが命取りになるなど思っていないのだろう。
物陰で二つの人影が会話を聞いているなど、思っていなかったのだ。

「まじかよ…。黄瀬には注意しねえと…」
「そうですね。黄瀬くんには油断できません」
「っ!? 」
「静かにしてください。バレちゃいます」

階段の影から黒子と笠松が二人の会話を聞いていた。笠松は黒子に気付いていなかったため、一人で盗み聞きしているのだと思っていたようだが。
深呼吸を繰り返してもなお驚きを隠せない笠松に、黒子はいつもの調子で喋りかける。

「あの二人が手を組むのは、最悪ですね。二人とも似てますから」
「…まあ、ゲスいからな」
「ここで提案があるんですけど」
「奇遇だな、俺もだ」

――向こうに対抗するため、手を組みましょう。
黒子の言葉に、笠松は迷うことなく頷いた。
黒子も笠松も、人を騙すことは好きでない。しかもそれを好んでやるのは、更に好きでない。
そんな二人からすれば、花宮と黄瀬のやろうとしていることは許せるはずがなかった。
誰が被害を被るのかと言えば、交わされた会話からして都城。彼女は何も悪いことはしていない。むしろ色々理不尽なめにあっていると言える。
自分達に、そして都城に被害が及ばないために。自分達のできることをやろう。
黒子と笠松は目を合わせて握手を交わした。
その直後、笠松は足音を察知し階段をかけあがっていった。彼がこんな初っ端から花宮や黄瀬に見つかってしまえば、格好の獲物となってしまう。
黒子は息を殺し、近付いてきたのがどちらかなのか判断するつもりのようだ。

「誰かいたような気がしたんスけど…」
「黄瀬くん、それ僕です」
「黒子っち!? ビックリさせないでほしいっスー!」
「すいません、迷ってしまって黄瀬くんの声がしたような気がしたので、今階段を降りてきたところです」
「そうだったんスか、なら俺と誠凛探すっスよ! 一人で心細かったんスよー」
「そうですね、一緒に探しましょう」

こうして、黒子は黄瀬と誠凛を探すこととなり、現在にいたる。
黄瀬の方から寄ってきたのは好都合だった。これで怪しまれずに監視ができる。
笠松に情報報告するのは、案外楽そうだ。そう黄瀬の作り笑いを目にしながら黒子は思った。
本性を悟らせない黄瀬と、存在を悟らせない黒子。どちらが駆け引きを制すかは、今のところ神のみぞ知ることである。
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