QLOOKアクセス解析days of betrayal | ナノ

scene:誠凛
流れる空気が痛い。誠凛の間に流れる空気という空気に棘があるようだ。
主な原因…というか、この空気の原因は日向だった。
先程都城を殴ったことに対して、なんとも言えない重い空気が流れている。
それもそうだ、スポーツマンとして――いや、人として暴力は良くない。それも同性にではなく、異性に対してだ。どうあがいたところで肯定されるものではない。

「…あのさ」
「…何、日向くん」
「さっきのこと、マジで感情だったんだ」
「だから、どうしたの? それで正当化されるわけじゃないでしょ」
「…分かってる」
「ならなんで謝らないのよ! 謝ればすむことでしょ!?」

リコの言葉はもっともで、日向は返す言葉がなかった。
悪いことをしたなら謝ればいい。許してもらえなくても、謝るということは自分の罪を認め、相手に誠意を見せるという行為。謝ることが常識であり、人としての礼儀だ。
それを怠った日向は、人としてどうなのだろう。
あの時彼は怒っていた。都城が気まぐれに日向をウイルスの媒介に選んだことに対して。
自分が選ばれたのは、何かしら理由があるのだと思っていたばかりに、都城が言ったことは日向の感情を大きく乱した。
だから、つい手が出てしまったのだ。いつもなら抑えきれる感情が抑えきれず、その抑えきれなかった感情が知らぬ間に都城を殴っていた。
殴った時の感情など、曖昧過ぎてわからない。爽快だった? 申し訳なかった? 自分の感情だというのに、全く分からなかった。
だが都城が床に倒れた姿を見てわいたのは、ただ純粋な罪悪感だけだった。
自分が八つ当たりをしてしまったのだと。何も悪くないのに都城を殴って、挙句謝りもしていないのだと。
未だに思い出すだけで、手が震え、思考が止まる。ぐるぐるとかき回されるような視界と思考に、気分が悪くなりそうだ。

「あれ、黒子くんどこいったんだろ?」
「フリ、黒子いねえの?」
「うん。さっきまで横にいたと思ったんだけど…」
「ったく、アイツどこいったんだよ」

不機嫌に火神が舌打ちをする。いつもより機嫌が悪いのは、黒子がいないことともう一つの要因があった。
彼を不機嫌にする要因は、都城が食器を返しに来なかったことだ。
都城は体育館を後にするとき、確かに後で返しに来ると言った。あの空気の中では食事を摂りにくいだろうし、火神もそうして欲しかった。
都城の席は誠凛の机に近い。体育館で食事をとっていたなら、おそらく日向とまた問題を起こしていたかもしれない。
もし問題を起こさなかったとしても、空気が重いことにかわりはないわけで。
誰も空気が重い中で食事をとりたくはない。楽しくない食卓など、料理を不味くするだけだ。
火神はそう思っていたから、都城が体育館外で食事をとることを認めたのに。自分の言ったことに責任を持てないというのはどういうことだ。
恐らく日向と顔を合わせる可能性があったため、そう簡単に体育館へ出向けなかったのだろう。いくら両者の怒りが収まっていたとしても、気まずいことにかわりはないだろうから。
もしくは、ほかの理由があったのかもしれない。可能性としては、日向と都城が繋がっており、日向が意図的に起こした騒ぎを利用するためなど。
都城はゲームマスターを知っており、四人を選ぶときはゲームマスターを外した。それをリコから聞き、なら日向はゲームマスターでないのだと、火神は食事の時に思った。
だが、それが全くの嘘だったとしたら。ゲームマスターを外していると言いながら、ゲームマスターを選んでいたのだとしたら。
途端に日向は怪しくなる。選ばれた四人は単なる媒介に過ぎないため、ウイルスがうつされたという判定はつかない。
誰かにウイルスをうつしさえすれば、死亡判定もつくことはない。最初のミッションが行われている間、媒介に選ばれた人間は死亡判定に怯えることはなく、とても有利な状態にあった。
だがリスクはつきものだ、一時間以内にウイルスをうつせなければ即死亡判定がつく。そんなリスクがある確実性のない役にゲームマスターを選ぶなど、普通なら考えつかないだろう。
だがそれを実行していたなら。予想もしない博打に、プレイヤーは騙されるのではないだろうか。
その上、体育館でのあの騒ぎ。二人が対立関係にあると、わざと演技をしていたのだとしたら。
うまくいけば日向は誠凛から追放、一人でゲームを進めることになる可能性だってあった。
現在においてそんなことにはなっていないが、明らかに日向は誠凛から浮いている。今彼がどこへ行っても、誰も止めない。探さない。一人になろうと思えば、日向は簡単に一人になれる。
日向を一人にされるのが目的なのだとしたら、二人の計画は成功したことになる。
当たり前の話になるが、日向がゲームマスターであった場合、一人の方が動きやすいし、都城に指示も出しやすい。
その上集団で動くわけではないため、他校に見つかって死亡判定をつけられるという可能性もぐんと低くなる。
そう見れば、日向にはメリットしかないのだ。
火神は思考をやめ、日向に目をやった。
もし仮に日向がゲームマスターなのだのしたら、彼を野放しにするわけにはいかない。野放しにすると、どんなことをされるかわかったものではないからだ。
今の状態を保つか? それとも、他に対策をとるか?
どちらが適切な対処なのか悩んでいたとき、リコが振り向いた。そしてその後聞こえる音。
何事かと思えば、リコの水鉄砲が日向に向いており、日向のゼッケンの色が変わっていた。

「カ、カントク…?」
「…日向くんじゃないのね。日向くんが私達を騙してるのかと思ったんだけど」
「そんなわけないだろ!?」
「でもやっちゃったことは仕方ないし、自分が怪しい行動をとってたことを悔やむのね」

リコも火神と同じ読みをしていたらしい。危険な人は、危害を加えられないうちに消してしまう。
なんともリコらしいやり方だが、同時にゲームマスターである可能性も生んだ。
自分を近いうちに消しそうな人に理由をこじつけ、さっさとゲームから引きずりおろしたのだとしたら。
ありえない話ではないし、リコならばやりそうなことだ。
ああ、安心できやしねえのか。
火神は内心で大きくため息をついた。

「あ、誠凛見つけたっスよ、黒子っち!」
「ありがとうございます、黄瀬くん」
「黒子!? それに黄瀬!?」
「黒子っちがはぐれて迷子だっていうんで、一緒に探してたんスよ!」

――俺も誠凛にお願いがあったんで。
つけたされた一言にリコをはじめとした、誠凛の眉が不審がるように寄せられる。
だが黄瀬はいつもと変わらない笑顔を浮かべるだけ。
空気の落差が激しい彼らの間を、冷たい風が強く吹き抜けていった。
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テーマ「人外ファンタジー」
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