QLOOKアクセス解析days of betrayal | ナノ

scene:霧崎第一
北館と本館を結ぶ渡り廊下。だんだん寒さを厳しくしていくそこで、霧崎第一の四人は集まっていた。
入浴も、食事も全てすんでいる。あとはただゲームが始まるのを待つだけ。
そんな準備万端は彼らの話すことは一つ。花宮が黄瀬と手を組んだことについてだった。

「花宮、なんで他校の奴と手ェ組んだわけ? しかもキセキの世代じゃん」
「別に。理由なんか決まってるだろ。利用価値があるから。ただそれだけのことだ」
「利用価値があるから、ねえ。そうは思えないんだけど」
「まあ見てろ。他校の奴ら嵌められるからよ」
「…、まあ、期待せずに見てるわ」

いまひとつ納得しきれない原に、花宮は少し眉を寄せた。
花宮の立てる策略はぬかりなく、騙されていることを感じさせないほど精巧なものだ。
そもそも花宮自体が周りからの彼を偽っているのだから、偽りが話すことなど偽りでしかないのだが。

「で、手を組んだ奴、どう使うんだよ」
「あ? それぐらいは自力で考えて分かってくれよ」
「俺お前みたいに頭良くねえから。頭いいやつが考えることを凡人が分かろうとしても無理な話だからな」
「…。努力ぐらいはしろよ」
「無理無理、ザキ思考力ないから」
「原テメェっ」

風船を作りながら笑うという器用な真似をする原を、ギロリと睨む山崎。山崎が暗に意味したことを、原がハッキリと言ってしまったようだ。
暗に示していたとしても、意味合い的に全員が分かっていることだから意味はないような気がするのだが。
それはさておき、山崎が問うた事を考えてみるが、あまり明確な答えは出ない。
花宮が考えることだ、おそらく捨て駒にするか、情報収集をさせるかの二択だと予想できる。だが、どちらにせよ最終的には捨てられるのがオチだ。
信用出来る人間以外は、利用するだけ利用して捨てる。それが花宮のやり方だ。
彼の信用出来る人間はただ一人、自分だけ。自分以外は信用するには取るに足らない存在なのだ。
そのため、花宮を信用するだけ無駄だ。それを周りに察しさせないため、周りの人間はつい花宮に騙される。警戒心をもつものも、一番近くにいる仲間も。

「仕方ねえから教えてやるよ。黄瀬にはゲームをかき回してもらう」
「…は? どういうこと?」
「かき回すっつーのは何通りもねえよ、後は考えろよ」

説明が面倒になったのか、そうでないのか、花宮はそう吐き捨てるように言って、原達から目をそらした。
これ以上言うと、自分の首が絞まる恐れがある。霧崎の中にゲームマスターがいたとしたら、花宮の考えが筒抜けになってしまう。
筒抜けになるということが、どういうことを表すのか。それは花宮の戦略全てをゲームマスターが掴むということを意味する。
するとどうなるのか。花宮はいいようにゲームマスターの手のひらの上で踊らされることになる。
ゲームが花宮と黄瀬によってかき回されているとあらかじめ知っていたなら、それを逆手にとってかき回し返すことだってできる。
それがゲームにどう影響するのかというと、花宮は自分にうたがいが向かないようにするだろう。しかしこちらもゲームをうまくかき回すことで、それを無効化することが可能になる。
どうかき回しているのかを掴めれば、その後は簡単だ。矛盾が生じないようにゲームを曲げ、望む形に捻じ曲げればいい。
そうすればゲームマスターにとって、不利な状況にはなりえないのだ。
花宮は賢いが故、これに気付いていた。だからそう簡単に口にはしない。
自分が勝ち上がるため。そして、周りを蹴落とすため。まさに外道である。

「そう言や、瀬戸、どうしたかな」
「自殺行為だよね、あれ。アイツゲーム勝つ気ないわけ?」
「原、お前がそんなに馬鹿だとは思わなかった」
「古橋、それ失礼じゃない?」
「失礼じゃない。瀬戸の意図が見えてないんだから仕方ない」

表情の変化なしに言い切った古橋に、原の口角が釣り上がる。二人の間に流れる空気がずんっと急に重くなった。
そのやりとりを横で見つつ、花宮は思考する。
古橋が言いたい瀬戸の意図とは、瀬戸が自滅行為に走った意図ととって間違いないだろう。それ以外に該当する行動は見当たらない。
あの行動がなにを意図して行われたのか。考えられるのはただ一つ。情報かく乱だ。
ミッション中の放送は、媒介となった人物が誰かにウイルスをかけた時点で、その人物が初期の鬼ではなくなったというむねだけを伝えるものだった。
瀬戸は最初から知っていたのか、福井の放送を聞いて知ったのか、それを逆手にとった。自分にウイルスをかけることで、自分が鬼でないという間違った認識を霧崎以外に与えたのだ。
頭を使った、最高にゲームを混乱させる策。花宮でさえ、瀬戸が目の前で実行するのを見るまで気付けなかった。
してやられたと、未だに思う。何かしらで情報をかく乱させようとしていた花宮の先をこした、最高に意地の悪い情報かく乱。今回だけは盲点だったと言わざるを得ない。
だからこそ、だ。余計に瀬戸が怪しく見える。
瀬戸がゲームマスターである確率は十分にある。むしろ、ゲームマスターでしか出来ないようなことをやってのけている気がする。
放送を利用した情報かく乱に加え、ゲームのルールを最大に生かした疑いへの対策。全てが最初から仕組まれていたように綺麗に繋がっている。
それを見て怪しいと思わない人間がいるだろうか。いや、いないだろう。
――ゲームマスターは瀬戸か?
自問しつつ、花宮は他の可能性も捨てきれず、結論を出せずにいた。
もし、だ。ゲームマスターが一人でなく、二人だったなら。瀬戸よりも、古橋と原が怪しく見えて仕方がなくなる。
さっきの会話が事前に打ち合わせをされていたものだとしたら。全てが演技だとしたら。ありえない話ではない。
あれだけ怪しい動きをしている瀬戸が同じグループにいるのだ、瀬戸を単なるミスリードに仕立てあげることは容易いし、一番身の安全を確立出来る。
疑えば疑うほど、自分以外の全員が怪しく思えてきて、花宮は頭を抱えた。
――誰がゲームマスターだ?
ぐるぐると回る思考は止まることを知らず、花宮を混乱へと突き落とす。
だが混乱に落とされた花宮に更なる追い打ちがなされる。

《九時になりましたー、九時になりましたー。これから夜のゲームを始めまーす。いい忘れてたけど、怪我したら放送室まで来るようにー。手当ては私が担当しまーす》

間の抜けた機械のような声が花宮の耳を抜ける。ああ、もうそんな時間なのか。
花宮は渡り廊下の手すりに背を預け、落ない程度に体重をかけた。
上体を乗り出すような体勢の彼の目に写ったのは、夜空で青白く存在を主張する月だった。
まるで月は、全てを疑う花宮を嘲笑うようだった。
――君の思考は検討ハズレだよ。
そんな声が聞こえたような気がして、花宮はむっと眉を寄せた。
――バァカ。そんなことがあるかよ。
花宮のささやかな嘲笑は、夜空の前で霧散して、消えた。
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