QLOOKアクセス解析days of betrayal | ナノ

scene:陽泉
食事を早くとりおわった陽泉の四人は、まだ込まないだろうと予想してプールへと向かった。
入浴とあるので、どのレベルかと思えば、更衣室だった場所がシャワー室になっただけの、簡単な作りとなっていた。

「まあ、このレベルだろうね」
「ゲームのためだけに、大掛かりな施設は作れねえしな」

福井の言葉に、誰も返す者はいない。それもそうだ、ミッション開始早々ウイルス片手に戻ってきて、挙句の果てに無差別に近い形で陽泉に中身をぶちまけたのだから。
福井は自分のしたことを理解しているし、それ相応の反応が返ってくることもわかっていた。
だが実際やられると辛いもので、表情には出さないものの、氷室達の冷たい視線が突き刺さるたびどうしようもなく泣きたくなった。
言い訳のように聞こえるかもしれないが、あの時福井は取り乱していた。自分が選ばれるはずないと思っていたのだから、当たり前と言えば当たり前だ。
今になって冷静に考えてみれば、陽泉に戻る必要は全くなかった。
他校の誰かにうつしてから戻ればこんな状況にはならなかったのにと思うが、今悔いたところで状況は変わらない。
気が動転していたと言えばそれまでなのだが、福井の言動はそれだで片付けるには、少し不自然すぎた。
都城にウイルスを渡された直後、自分が媒介にすぎないということを知りつつも、彼は真っ先に走り出し、陽泉の四人を探した。
媒介にすぎないと言っても、一時間以内にその役目を果たさなければ、自分に死亡判定がつく。そんな半分死亡宣告のようなものがついて回ろうとしていたのだから、真っ先に走り出すのは理解出来る。
だがそこで疑問が生まれる。なぜ四人を探したのか。
時間が限られているなら、特定の集団を探すより、手当たりしだいに走り回った方が効率がいい。
それにもかかわらず、なぜ福井は陽泉を探したのだろうか。
精神的な安心のためなのか、四人の知恵を借りるためなのか、はたまた別の目的があったのか。
本人でないと分からないことだが、一つだけ言えるのは、福井自身が実際にとった行動とはどれも結びつかないということ。
それも気が動転していたと言えば、それで片付くのかもしれない。
だが本当にそれだけなのか? 気が動転していたにしては、少し腑に落ちない点が多過ぎやしないだろうか。

「アツシ、ルール分かってないのに大丈夫かな」
「なんとかするじゃろ、紫原じゃし」
「モミアゴリラ黙るアル」
「なんでいつもそうなるんじゃ…」

水音に混じって交わされる会話が、いつも通りすぎてついつい笑みが漏れる。
紫原を心配する氷室と、一般論を言っているのに雑な扱いをされる岡村と、岡村にだけ風当たりの強い劉。
彼らの中で一人離れたところから会話を聞くだけの福井。疎外感を感じないといえば嘘になるが、こればっかりは仕方ない。
自分の行動が生んだ、彼にだけ優しくない状況。だがそれは彼への報い。福井はただ居心地の悪い空間で耐えるしかなかった。

「そういえば、あの放送の声、結構綺麗アル」
「言われてみればそうじゃな。声の高さからして女じゃろうか」
「モミアゴリラに話はふってないアル。どんな人アルか、会ってメアド交換したいアル」

また始まったよと、氷室は個室の中で苦笑した。
劉のナンパは今に始まったことではないが、この空気の中でもナンパをしようとするのには、呆れを通り越して笑うことしかできない。
そういえば、福井は放送係に会っているんじゃないだろうか。
氷室はふと気付いて、隣の個室へと目をやった。
福井は放送室前に呼び出されたはず。この廃校内には各校のバスケ部と、放送係しかいないはずだ。
そこから考えられるのは、ゲームマスターか放送係がウイルスを渡したということだ。
だがここで考えなければならないのは、ゲームマスターを暴くのがこのゲームの目的だということ。
その目的を考慮したとき、果たしてゲームマスターが自分からウイルスを渡すかだろうか。
いや、それはないだろう。まだゲームが始まったばかりだというのに、そんな自殺行為などするわけがない。
ということは、福井にウイルスを渡したのは放送係ということになる。放送係がゲームマスターであるという可能性はあるが、それは置いておこう。
福井が放送係と会ったのは確実だ。彼が劉にどんな人だったか説明すれば、劉も諦めるだろう。

「福井さん、放送係の人ってどんな人でしたか」
「え、は…?」
「放送係アル! どんな人だったか知りたいアル」

今までなんの反応もされなかったのにいきなり話しかけられ、福井はどう反応していいものか悩んだ。
手のひらを返したような氷室達の反応に、福井は反応できないままシャワーからお湯を流し続ける。
落ち着け。聞かれたことを答えればいい。
自分に言い聞かせてから、福井は口を開いた。

「…変な奴だった」
「変?」
「全員揃うまではやる気なさそうな、すっげえ眠そうな顔してたんだけどな、全員揃った瞬間人が変わったみたいに、雰囲気が変わるんだよ」
「…。美人アルか?」
「並、じゃねえかな。手を加えりゃそれなりに見えると思う。メガネとポニーテールがアンバランスだったな」
「そうアルか、興味わくアル」

言っても無駄だったか。氷室はシャワーを止めてため息をついた。
さっきから何も言ってないが、岡村も福井の言葉に興味津々だったようだ。
劉から目をはなさないようにしないと。氷室は頭を抱えながらそう決心した。
それから、福井さんをどうするか決めないと。
髪から水が滴り、床に落ちる。氷室の顔にはなんの表情も浮かんでおらず、ただただ隣のシャワー室を睨んでいた。
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