QLOOKアクセス解析days of betrayal | ナノ

scene:体育館
《忘れてたけど、ウイルス感染者は家庭科準備室で食事とってねー。次のゲーム開始までは誰かにウイルスうつそうと思っても無理だからねー》

放送が切れ、体育館の中にいる火神は誠凛とプリントしてある机の近くに立って、チームメイトの到着を待っていた。
身の危険がないと分かっていれば、真っ先に体育館へ食事をとりにくるだろう。
そんな彼の思考を裏切ったのは、一人体育館に現れた都城だった。

「家庭科準備室行ったら、ここだって言われちゃったー」
「…まあ、そうなんじゃないっすか」
「えー。私ゲーム進行側の人間だから、こっちで食べちゃダメかなーって一応気を遣ったのにー」
「……」

都城は火神が何も言わないことを気にする様子もなく、体育館の端に置かれた机へ向かった。
そこには二人分の食事が置いてあり、都城はなんのためらいもなく、その片方を片方へと寄せた。
驚いたのは火神である。合宿参加人数とは別に二人分用意するようにと、事前に渡された紙に書いてあったのに頭を捻った覚えはある。だがまさか女子が食べるのだとは思わなかったのだ。
都城は体格がしっかりしているように見えるが、それは女子にしては高い身長と、広めの肩幅によるものであって、彼女の体のラインは細い。色白なのもあって、若干華奢な印象さえ受ける。
それなのに二人前も食べるのか。通常店で出される量なら分からんでもないが、料理を作ったのは火神だ。盛り付けられた量は通常でいう二人前ほどが一人前。
いくら都城がよく食べるほうだとしても、多過ぎる。

「いただきまーす」
「あっ、あなた…!」

都城が箸を口に運ぼうとした瞬間、高い声が体育館に響き渡った。
箸を置いて声のした方をみると、リコをはじめとした誠凛が立っていた。火神の読みは当たっていたらしい。都城が先に到着はしてしまったが。
声の主を確認すると、都城は興味無さそうに食事を再開しようとする。
それを止めたのは、横から伸びてきた手だった。

「…なにかな? 私食事したいんだけどなー」
「俺が選ばれたのは、お前の気紛れらしいな」
「だったら何? 私を殴るの? そんなことしていいのかな?」
「なんで俺を選んだ、もっと他の奴がいるだろ!」
「日向くん、落ち着いて!」
「…悲劇のヒロイン気取り? 男だからヒロインじゃないか。でもさ、そうやって自分を演出して楽しい? ねえ、楽しいの?」

痛いところをつかれて、日向は返す言葉に詰まった。
都城のいうことは核心を得ている。必ず誰かが選ばれるのだから、自分が選ばれたことを彼女に当たるのは間違いというもの。
自分以外の誰でも良かったと言えば、聞こえは悪いが日向の本心だった。
それもそうだ、誰が好んで人から遠ざけられる存在になりたいと思うのか。そんな物好きはいないだろう。策略だとするなら話は別になるが。
心の中を見透かしているかのような言葉に、日向の腕が都城の腕から離れた。
やっと食事が出来ると再び箸を口に運ぼうとした彼女の胸ぐらを、日向はなんのためらいもなく掴みあげた。

「…なんのつもりかな。君の食事の前の作法は、目の前の女子高生の胸ぐらを掴みあげることなのかな」
「ざけんなよ! バカにすんじゃねえ!」
「誰が誰をバカにしたの? 日本語は正しく使ってくれる? じゃなきゃ分からないんだけど、私馬鹿だから」
「おちょくってんじゃねえよ!」

怒りがあらわになった言葉の後、鈍い音がして都城が少し離れたところに落ちた。
カラリとメガネが床で軽い音を奏でながら滑って、やがて止まった。
その音で日向は我に帰ったらしく、視線を自分の拳と彼女とで行ったり来たりさせていた。
他校も集まってきてざわついていた体育館が、一瞬で静寂に包まれる。遠くの方で、実渕が目を見開いてその光景を見ている。
そして、実渕がこちらに向かって走り出したとき、都城はゆらりと体を起こした。
そして座ってから体勢を整え、ゆらりと顔を上げた。
メガネのレンズ越しでない彼女の瞳は、怒りという怒りで染まっていて、そう簡単に反らせられないぐらい鋭く、そして恐ろしい。

「なにしやがる」
「い、いや、その…」
「説明しろよ、なにした。ふざけてんのはテメェだろうが、ほざくな」
「っ…」

女子とは思えない低い声に、謝罪の言葉すら形を成さない。今の都城の前では、言葉を紡ぐことはおろか、呼吸すら難しい作業に思える。
誰も何も言えず数分がたち、ようやく日向が細い声で紡ぐ。

…そもそも、こんなゲーム、やろうとしたのが間違ってるんだろ。

その言葉を聞いた都城が急に立ち上がり、日向との距離を一瞬で詰めた。
同時に彼の胸ぐらを掴みあげ、至近距離でこう言った。

「私の筋書きを否定するのは許さない。これは私の作った、私のための筋書き。テメェに否定する権利なんぞこれっぽっちもねえよ」
「っ、だ、だが…」
「もう一度でも同じことを言ってみろ。その時はためらいなく」

――テメェを殺す。
睨み上げられながらの言葉に、日向の顔が青くなる。
人形に飽きたかのように、日向の胸ぐらから手を離した都城は、席にはつかず近くにあったトレーに皿を乗せ始めた。
どうやらここでは食べないらしい。これだけ居心地の悪い空間では、食事もとりたくなくなるだろう。
空気を読んでいた実渕が、都城に近寄り頬に触れた。

「っ! な、何…」
「女の子なんだから、顔は傷付けちゃダメよ! 冷せば腫れないと思うから、すぐに冷やすわよ」
「いっ、いい…、自分で出来る、から」
「そう言って、そのまま放置するでしょ、アナタ! 自分で出来るっていう子に限ってやらないのよ!」

トレーにかけていた都城の手を実渕は引っペがし、体育館の隅に備え付けてあった冷蔵庫から保冷剤を出した。
実渕の持っていたタオルでそれをくるみ、都城の頬に押し当てた。びくりと肩を跳ねさせた都城だったが、おさえておくのよという都城の言葉に従って、自分で保冷剤を固定し始めた。

「痛みが引くまで、保冷剤かえて冷やすのよ、いい?」
「…うん。ありが、とう」
「どういたしまして」

ニコリと笑った実渕から、都城は少し俯いて視線を反らした。女子高に通う都城は、あまり異性に慣れていないのかもしれない。
大人しくなった都城に向けていた笑顔とは一変した、実渕の怒りゆえの無表情を向けられ、日向はへたりこんだたま彼を見上げた。

「女の子に手をあげるなんて、どういうつもり?」
「あれは、その…」
「いい訳なんかいらないわ。アナタは理不尽に彼女にあたったのよ。理由がどうであれ、許される行為じゃないわ」

吐き捨てるような言葉の後、実渕は誠凛から離れて洛山へ戻っていった。
問題は解決したのだが、空気はずんと重苦しい。都城は保冷剤を押し当てたまま動こうとしないし、誠凛も夕飯を食べようにも動けずにいる。
ふらりと今にも倒れそうな動作でトレーを持ち上げ、体育館を出ようとした都城が振り向いて言う。

「…お皿、後で返しに来る」

聞き逃してしまいそうなほど小さな声に、火神がお、おうとぎこちない返事を返す。
それを聞いた都城は、それ以降振り向くことなく体育館を後にした。
都城が去った後も、重い空気の体育館で花宮が嗤う。

「こりゃおもしれえ。…利用、させてもらおうじゃねえの」

――なあ、黄瀬?
誰の耳にも入らなかった言葉が、この後新たな歯車になってゲームを歪めようとは、誰一人として知る由もなかった。
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