QLOOKアクセス解析days of betrayal | ナノ

scene:桐皇
本館三階東渡り廊下を桐皇は移動していた。夕飯の準備のため桜井不在の五名が、辺りを見渡しながら北館へ移ろうとしていた。
なぜ北館なのかというと、本館から南館へは西渡り廊下しか連絡通路がないからだ。それが何を表すかと言うと、鬼が南館へ来た場合に、逃げ道がなくなるということを表す。
南館は三階までしかなく、しかも一フロアに教室が二つしかない。廊下で引き離すことなど出来るはずがないのだ。
南館は建物自体でそれだけのデメリットしかないというのに、極めつけに本館への連絡通路が一本しかないのだ。絶望的な作りである。
南館にいた場合の逃げ道は、階段を使うか一階からグラウンドへ出る、もしくは窓から飛び降りるの三択しかない。
もちろん窓から飛び降りるのは、一階でなければ怪我をするため、一階にいる時以外は選択できない。
となると選択肢は二つ。内一つは一階でなければ選択出来ないため、実質一つしか取れる行動はない。
そんな悪条件な場所で逃げようとなど思うのか。自分の首を絞めるようなことをして、本当に首が絞まったら元も子もない。
南館と北館のどちらかを選ぶとするなら、断然北館だろう。桐皇もその思考で北館を選んだのだ。

「はよ下へ降りよか」
「え、なんでっすか? このフロアでいいんじゃ…?」
「若松、お前アホか。北館四階は封鎖されとるやろ。入ったらどうなるか知らんで」
「でも十分逃げれませんか、このフロアで」
「ホンマアホやな。逃げ道は何通りもあった方がええやろ。念には念を入れて、備えあれば憂いなしっちゅうことや」

今吉の考えは一理ある。何かの理由で挟み撃ちされた場合、上の階にも下の階にも、もしくは繋がっている他の館へ逃げられる方が、生存確率はぐんと上がる。
正直な話、この廃校の三つの館のうち、一番逃げ道を確保できるのは北館なのだ。
四階は封鎖されているものの、それ以下のフロアは使えるし、連絡通路だって二本ある。
逃げようと思えば二階と一階なら他の階へ逃げられるし、一階にいるなら中庭へ出てグラウンドへも抜けられる。
こんな好条件な場所は、他にはない。四階にいると少し条件は悪くなるが、南館との比ではない。
いち早く建物の形を掴んだ今吉は、おそらく北館を拠点にゲームに参加するつもりなのだろう。
下手に動き回ると敵に見つかりやすくなる上に、体力も消費する。スタメンなら体力の消費はあまり痛手にはならないが、桐皇には桃井がいる。
桃井は一般的な女子に比べれば体力はあるだろうが、男子と、しかもバスケ部のスタメンと比べるとはるかに劣る。そのため、いざというときに走れなくなる可能性が出てくるのだ。
それも考慮した上で、今吉は北館でのゲーム参加を決めたらしい。

「それにしても、ようこんなこと考えたもんやな…」
「そうですね。誰がこんなこと考えたんでしょう…。廃校なのに、至る所にカメラとかついてますし…」
「……。…ここな、ホンマは廃校とちゃうんやで」
「え?」
「数カ月前に、聖百合ケ丘女子大学付属高校が私有地にしたんや。合宿の封筒に、許可証が入っとったわ」
「…! ということは、聖百合ケ丘女子大学付属高校の生徒が、ゲームマスターである可能性が高いってこと、ですか…?」
「ワシはそう思っとる。やけど、ここに百合ケ丘の生徒は…」

今吉はそこまで言って言葉を断った。合宿の案内に入っていた参加校が印刷された紙には、聖百合ケ丘女子大学付属高校という文字はなかった。
それもそうだ、高校の名前から分かるように、聖百合ケ丘女子大学付属高校は女子高だ。そのため、男子バスケット部が集まる合宿に参加するはずがない。
なら、なぜこの私有地が合宿の案内に記載され、許可証まで入っていたのか。
考えれば簡単なことだ。この私有地内に、聖百合ケ丘女子大学付属高校の生徒がいるということになる。
参加校以外にこの私有地内にいるのは、ただ一人しかいない。放送担当の人間だけだ。
声を聞いた感じ、低いには低いが男の低さではなかったし、時折高い声も混ざっていた。喋り方も男っぽくはなかったため、その人物と確定してもいいだろう。
放送担当の人間が、ゲームマスター。なんともチートな存在やなあと、今吉は思った。
放送を聞く限り、放送担当はゲームを監視しているようだ。放送室にこもっていても、ゲームの流れは手にとるように分かる。
しかも誰かが向かっているとわかった瞬間、逃げる事も可能だ。放送室があるのは本館二階の職員室横。
東階段と北館への連絡通路の真ん前に位置しているため、逃げようと思えば簡単に逃げられる。
してやられたなと、今吉はくしゃりと眉を寄せた。

「なるほどな…。このゲーム、ワシらに勝ち目はないんか…」
「そこの可愛い女の子ー! 俺とつきあってよ!」

重苦しい空気に包まれていた桐皇の空気を壊すように、明るい声が後ろから聞こえた。そして同時に桃井の手が握られる。
驚く桃井の目に映ったのは、海常のジャージを着た男――森山だった。

「桐皇のマネージャー!? いいなあ、海常女子マネいないんだよ! こんな可愛い子マネージャーだなんて、ホント羨ましい限りだよ!」
「なんなん…。今ナンパはお断りやで。桃井もなんか言ったり」
「えと、気持ちは嬉しいんですけど、好きな人いるので…」
「デスヨネー! そうだとは思ったけどさー…。君に想われる男が羨ましいよ。…ま、あと頑張ってね?」

いきなりニヤリと笑った森山に、桃井が恐怖を感じて手を振り払った。
森山はそのまま走り去ってしまい、笑みの意味は結局分からずじまいになる…かと思われた。
桃井が不安そうに森山が走り去った方を見つめていると、青峰が桃井に問う。

「お前、いつの間にウイルス感染したんだよ」
「え? 何言ってるの? 私感染なんかしてないよ?」
「ならその手首なんだよ」

青峰の指さした先には、丸印の浮かんだ桃井の白い手首があった。
それを見た瞬間、桃井の顔が驚愕に染まる。どうして、いつの間に。そんな言葉が聞こえてきそうな彼女の顔。
桃井の手首を見つめていた今吉が、忌々しそうに舌打ちをした。

「なるほどな…。さっきのは桃井にウイルスをうつすための演技かいな。やられたわ…」
「いや、多分下心もあったと思うっすよ」
「だとしても得しかないやろな。一石二鳥、か」

おろおろと彼らを見つめる桃井と、冷静に思考する今吉。
あまりにも対照的すぎて、おかしな空間になっているそこを見て、都城がクスクス笑いながら放送を入れる。

《はいはーい、お昼のゲームは終了ー。次のゲーム開始は九時からー。それまでに夕食済ませたり、入浴済ませておいてねー》

呑気な放送で、一日目の昼のゲームは呆気なく終了した。
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