QLOOKアクセス解析days of betrayal | ナノ

scene:秀徳
秀徳は南館一階被覆室にいた。大きなブロックのような机が並んでいるため、逃げるのは至難の技だ。
裏を返せば、鬼も彼らを追いにくい。そう簡単に捕まらないための、リスク承知での逃げ場ということだ。
最悪の場合、南館もグラウンドに降りられるため、そう簡単に捕まりはしないだろうが。

「緑間、高尾どこいったんだよ」
「さあ、知りません」
「は?轢くぞコラ。お前の相棒だろ、どこ行ったかぐらい把握しとけ」
「そう言われても困ります。俺はアイツの親じゃないので」
「テメェちょっと黙れ」

笑顔で言われて、緑間は何も言わず押し黙った。緑間は宮地の後輩であり、黙れと言われれば黙るしかない。変人ではあるが、常識は弁えているため先輩に口答えはしない。
黙った緑間を横に、宮地は思考する。誰がゲームマスターなのかと。
ルールを読んだ限り、ゲームマスターを暴き、ウイルスをうつすか死亡判定をつけさえすれば、このゲームは終わるようだ。
そうなのだとしたら、早くゲームを終わらせて普通の合宿をした方が遥かに有意義だろう。
何が楽しくて、周りを疑わなければならないのだ。疑心暗鬼に陥って仲間さえ信じられなくなるような、根本から腐ったゲームを、長く続けたいと思うわけがない。
もしかしたら、秀徳にゲームマスターがいるのか? そんな風に腹の探り合いをするのは、誰とて本意ではない。
だがゲームの本質上、それは避けられない。思いたくはないが、他校から疑われているだろうし、もしかしたら秀徳の中でも疑われているかもしれない。
信用出来るのは自分だけ。そんな極限状態の中で、頭はまともに働くのだろうか。そんなことを考え、宮地は自分が変に冷静であることに気付き、なんとも複雑な気分になった。

「緑間、いつまで高尾はお前の側にいた?」
「…。…恐らく、あの呼び出しの前、までは確実にいたと思います」
「呼び出しの後、高尾見てないのか?」
「はい。振り向いたら高尾はいませんでした」
「…ッチ、アイツ今どこにいんだよ…!」

大坪の問いに対する答えを聞き、宮地は思わず舌打ちをした。
宮地が舌打ちをしたのは、なにも高尾が心配だからではない。彼の能力的な意味で舌打ちをしたのだ。
高尾はホークアイの所有者だ。広範囲を見ることができる能力は、このゲームでは大変有効だと言える。同様にイーグルアイも有効だろう。
そのホークアイの所有者がチームにいれば、そのチームは優位に立てる。能力的な観点からすれば、誠凛と秀徳は初期的な段階から優位にたっていることになる。
しかし、それは高尾がいればの話だ。現在高尾が行方不明のため、秀徳はホークアイを失っている。今の状態なら、他校と能力的には何も変わらない。
むしろ頭脳的な観点から言えば、霧崎第一、洛山、桐皇の三校が優位にたっているだろう。
いくら緑間がいると言っても、たかがしれている。秀徳は頭脳的にはあまり芳しくない。
宮地はそれをきちんと理解している。故に、頭脳戦に持ち込まれる前に仕掛けようと思っていたのだ。
それには大きなリスクがつきものだ。物陰から相手が攻撃してくる可能性や、後ろから攻撃してくる可能性。
それを事前回避するために、高尾の能力は使えると思ったのに。大事なときにいないやつだなと、宮地は再び舌打ちをした。
そこまで考えて、宮地は気付く。もしや高尾はそれが分かっていて、行方をくらませたのではないか、と。
そうだとすれば、なぜ行方をくらませたのだろう。理由を考えれば、自ずと可能性が見えてくる。
彼がゲームマスターだから。それ以外に考えられる可能性はなかった。
それもそうだ。人目を盗んで行動するということは、なにか隠していることがあるということだ。それも、人に知られてはいけない何かを。
それだけでも怪しいのに、その上あの呼び出しの放送の後にいなくなっていたというのが、更に高尾がゲームマスターであるということをにおわせる。
もしくは、隣で不服そうな顔をしている緑間がゲームマスターである可能性もある。
宮地や大坪達の目が離れていた僅かな隙に高尾に死亡判定を出し、行方不明だとして自分に疑いの目が向くのを防いでいるのかもしれない。
普段緑間のいう事に偽りはない。よってこんな時に偽りを言うことはないだろう。そんな先入観を盾にしているとしたら。
そう考えると、緑間も高尾同然に怪しく思えてくる。
そして、もう一つ。さっき呼び出された四人がゲームマスターである場合。
ウイルスを持った人から逃げろというミッションだったが、なにも鬼から逃げろというミッションではなかった。
そこから考えるに、あの四人はウイルスを持っていただけで、感染していたわけではないのではないか。
だとすると、あのミッションはゲームマスターを守る最高の鎧となる。
誰もゲームマスターが初期の鬼として選ばれるはずがない。そう思うはずだ。現にさっきまで宮地もそう思っていたのだから、他の人間は大抵そう思っているだろう。
その盲点をついているのだとしたら。うまい案を考えついたものだと思う。誰もそこまで疑わないだろうから。
今までの思考をまとめて、宮地は注意すべき人間を脳の中で繰り返す。高尾、緑間、日向、笠松、瀬戸、福井。
この六人の中に、ゲームマスターがいる可能性が高い。決定的な証拠のない今、手当たりしだいに死亡判定をつけるのは効率が悪すぎる。
最後まで泳がせて、証拠を掴んでから死亡判定をつけるか。
ポーカーフェイスを顔に貼り付け、宮地はそんなことを考えた。

――それが秀徳の内部崩壊への亀裂が入った瞬間だった。
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