QLOOKアクセス解析days of betrayal | ナノ

scene:放送室前
放送室前で向かい合うリコと都城。リコの表情は若干こわばっているように見える。それに引き換え都城は眠そうに半分閉じられた目と、うっすら弧を描いた唇。明らかに状況を楽しんでいた。
何から聞くべきか考えるリコに、都城はなんの気なしに言葉を発する。

「何も話がないなら、早くここから離れてくれると嬉しいなー。食事係の二人に大事なハナシ、しなきゃならないんだよねー」
「聞きたいことが何点かあるわ。まず一つ。あなたがゲームマスターである可能性は?」
「なきにしもあらずー。でも私はただの放送係であり、救護係だからー。傷の手当以外じゃ、ゲームに干渉しない立ち位置なんだけどねー」
「そう、分かったわ。次に、あなたはゲームマスターが誰か知ってるの?」
「もちろん、知ってるよー。じゃないとゲームは成立しないでしょー? もし私がゲームマスターを知らないなら、さっきのミッションで選んでたかもしれないしー?」
「へ? さっきのって決まってたんじゃないの!?」
「んー? 私の気まぐれで選んだだけだけどー? ミッション内容はある程度決まってるけど、選ばれたりする人はランダムー」

さも当然であるかのように言った都城に、誠凛全員の顔がポカンとした、間抜けな顔に変わる。
てっきり呼び出された人も決められていたのだとばかり思っていたのだ。
それも仕方ない、あれだけスムーズなゲーム進行を見れば、全て決まっているものだと思うだろう。
そのため呆気に取られたリコ達だったが、よく考えてみれば都城の気まぐれで日向は選ばれたということだ。
最悪死亡判定がつくかもしれない、そんな約に日向が選ばれたのは、理由があったからではなく、単なる気まぐれ。
その事実を知って、リコはショックと怒りが同時にわくのを感じた。

「あなたの気まぐれで、日向くんは鬼に選ばれたってこと?」
「まあ、そうなるねえー」
「ふざけないでよ!」
「…なんの定義をもってふざけるなって言うのか、理解できないな」
「は…!?」
「単なる偽善でしょ。誰かが選ばれないといけないときに、私情を挟むのはタブー。部内ならまだしも、これはただのゲーム。本当に死ぬわけでもないのに、なんでそうかっかするかな。ゲーム進行側からすると、すっごく目障り」

眠そうだった半開きの目が、無感情にリコを見つめていた。
無感情ゆえ怒っているようにも、呆れているようにも見える。都城の感情が、全くつかめない。
人ではないような何かを目の前にしているような、得体の知れない恐怖がリコをはじめとした誠凛の胸に広がった。
都城の雰囲気に押され、思うように言葉を紡げないリコに都城は続ける。

「それでー? 聞きたいことって、それだけー?」
「え、あ、えっと…」
「おっと残念、桜井くん…であってる? 桜井くんの到着だから質問タイムしゅーりょー」

先程の無感情さが嘘のように、人間さを少しばかり取り戻した彼女が指差す先には、おどおどした様子の桜井が立っていた。
誠凛に注目されて、桜井はさらにおどおどし、今にも泣きそうな表情を浮かべる。
都城は口には出していないが、早く立ちされと視線で示してくる。だがそう簡単に立ち去るリコではない。
最後に、と勢いよく、ほぼ叫ぶように言ってから、都城に返事する暇を与えず続ける。

「ゲームマスターは、さっきの鬼と今の鬼の中にいる!?」
「黙秘権ー。時間切れな上、ゲームの本質に関するものだから無効ー」

さ、早くここから離れてよね。
添えられるように言われた言葉には、心なしか棘が感じられた。
それに伴い一瞬無表情になったように見えたが、それは彼らに通じることはなかった。おそらく皮肉の意味を込めているのだろうが、気付かれなければ意味はない。
渋々といった感じでその場を離れる誠凛を見送ってから、都城は振り向いて壁に背を預けた。
目の前に桜井がいるのも構わずに、大欠伸をする彼女に、桜井がどうすればいいのか分からずまたおろおろしだす。
目尻にたまった涙を指で拭った都城が、ふと背を壁から離し、背筋を伸ばした。
目もパッチリと開いており、再び人が変わったように錯覚させた。

「んだよ、呼び出してよ」
「これから、食事係の二人に伝え忘れていたことを伝えます」
「あ? んだよ」
「あの、それって絶対に聞かなきゃマズいですか…?」
「はい、あなたがたにだけ与えられた特権についてですから」

都城はそう言って、再び懐から試験管を出した。
いきなり出された試験管に、火神と桜井は訳がわからないようす。
都城はそんな二人の反応を確認してから口を開いた。

「これはウイルスです。経皮ウイルスではなく、経口ウイルスです」
「それって…、もしかして…」
「あなたがたが料理に入れるんです。これは義務です」
「ちょっと待ってください! それじゃ特権じゃないです!」
「義務と言っても、一度だけが義務です。食事を作る際、一度はそのウイルスを料理に入れてもらいます。もちろん、一皿だけでいいです」
「一皿だけって言ってもんなことできるか!」

ならあなたが死にますか、火神くん。
反論に、驚くほど冷たい声が響いた。声の主はもちろん都城である。
試験管の蓋をとって、もう一度問う。あなたが死にますか、とたった一言だけ。
普段ならおされることのない火神が、その一言だけで黙りこんでしまった。
黙り込むというよりは、黙ることを強要されたというのが正しい気はするが、そのあたりは置いておこう。
有無を言わせない都城の言葉。抑揚のなさと口調がそれを形成しているのだろう。都城は続ける。

「ウイルスをどう使うかはあなたがた次第。鬼を増やしてゲームマスターを潰すもよし、堅実に生きることを考えてもいい。私は口出ししません。ただウイルスを使わない場合は流しに流して、家庭科室の鍵付きの箱に戻してください。暗証番号はもう教えていますよね? なにか質問はありますか」
「どう使ってもいいんですよね…?」
「ええ、用途さえ間違わなければ」

都城の返答に、桜井は小さく頷いた。なにかウイルスを使ってやらかすつもりなのだろうか。
それに引き換え、火神は黙ったままで質問をしようともしない。二人は対照的過ぎた。
もう質問もないと判断した都城は、機械的な喋り方のまま解散を告げ、放送室に戻ってしまった。
残された二人は、どちらともなく顔を合わせ、口を開いた。

「…行くか」
「…、そうですね」

ゆっくりと家庭科室に歩みを進める二人を、放送室から見ている都城の顔に笑みが浮かんでいたなど、誰一人として知らない。
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テーマ「人外ファンタジー」
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