QLOOKアクセス解析days of betrayal | ナノ
scene:霧崎第一
体育館前の渡り廊下で、霧崎第一はなにか動きがないか、下の階をじっと見つめていた。
この廃校は少し特殊な形をしており、体育館が二階にある。
厳密に言えば、本館、南館、北館を繋ぐ長い渡り廊下に隣接したもうひとつの校舎の二階が体育館となっている。
渡り廊下であるため、やはり逃げるには向かない。
だが他の渡り廊下と違って、体育館の中に逃げることが出来る。鍵がかかっていなければの話ではあるが。
まだ先程移動したばかりなので、鍵がかかっているのかどうかは確認できていない。もし鍵がかかっていたら、一巻の終わりである。

「花宮ー、さっきのどう思う?」
「どう思うもなにも、放送通りだろ。初期の鬼は、呼び出しされた四人に間違いねえ。それ以外に呼ばれる理由がねえし」
「だーよねー。なら瀬戸も鬼かー。俺達を狙わなければいいけど」
「それはどうとも言えねえな。普段なら狙ってはこねえと思うが」
「ゲームだとやっぱりちょっと考える事ズレるし? 仕方ないよねー」

ガムで風船を作りながら、原は手すりに体重をかけた。
隠れる気の全くない体制。もし鬼に見つかれば、標的にされるのは間違いないだろう。
逃げる際に、いつもの通りラフプレー…、というわけにはいかない。
そんなに接近してしまえば、ウイルスをうつされる可能性がぐんと上がる。
それに加え、もし仮に鬼ではなかったとしても、死亡判定をつけられるという可能性もぐんと上がるのだ。
参加校のうち、特に誠凛には気を付けなければならない。一度作ってしまった恨みは、なかなか消えることなく、胸の中に根付くもの。誠凛が仕返しをしてくるということは、十分にありえる話だ。

「花宮、どさくさにまぎれて死亡判定つけてもいいか」
「あ? 勝手にしろよ、ただ手当たりしだいにっつーのはやめろよ。まあテメェの“どさくさにまぎれて”は、狙いを定めた上での話だから大丈夫だとは思うが、くれぐれも気を付けろよ」
「分かってる。怪しまれない程度に、だが霧崎に有利になるように、な」
「ふはっ、お前最高だわ」

古橋に、花宮はいやらしく笑った。だがその目は笑っていない。
古橋は表情から思考を読み取らせない。絶対的なポーカーフェイスが、彼の持ち味であるが、花宮はこのゲームにおいては、彼のそれを危険視していた。
理由は簡単。どれだけ緊迫した、絶体絶命な状況になっても、古橋は表情を変えない。それだけの完璧なポーカーフェイスの下で、どのようにして花宮達に死亡判定を出させるかを考えているような気がしてならないからだ。
花宮は馬鹿ではない。むしろ頭のいい人間だ。だからこそチームの雰囲気を乱さないものの、ゲームが始まってからはチームメイトですら疑って、信用していない。
それは仕方ないことだ、誰がゲームマスターであってもおかしくないのだから用心に越していたことはない。
それに事を荒立てなければ、チームメイトを盾として扱うこともできる。
彼の主将という立場を利用すれば、それもたやすいのだ。
現在花宮が疑っているのは、古橋、原、瀬戸の三人。山崎は嘘をつくと挙動不審になるため、ゲームマスターであるという可能性は低いと踏んだようだ。
古橋は先程述べた理由で、原も目が見えないという理由で。瀬戸は彼の頭脳的な理由で、疑いを持っているのだが、なんとなく腑に落ない。
特に瀬戸。ウイルスをうつされても、一度はゲームに復帰できるこのシステム上、瀬戸がゲームマスターであってもおかしくはない。
瀬戸が誰かにウイルスをうつせば、もう一度プレイヤーとして、ゲームに参加出来るのだから。
ルールの書き方が悪いと、花宮は思った。あんな書き方をすれば、ゲームマスターにウイルスがうつった時点で、ゲームが終了するような錯覚を覚えてしまう。
おそらくそれを狙って、あのような書き方なのだろうが、あくまで勝利条件はゲームマスターを、死ぬしかない状況まで追い込むことだ。
それを理解した上で、もう一度疑っている人物らを見てみると、なんとなく違和感が生じてくるのだ。
もし瀬戸がゲームマスターだったとする。すると彼は初っ端から、自らを後のない状況に立たせていることになる。
逆にそれを利用している、という可能性もないわけではないが、あまりにもリスクが高くはないだろうか。
ゲームマスターが自分の首を締めてどうする。絶対に失敗しないという、自信があるならやるかもしれないが、瀬戸に限って無謀なことはしないだろう。
ということは、誰がゲームマスターだ? 検討がつかなくなってきた。

「ッチ…。情報が少なすぎる…」
《お知らせー、お知らせー。福井くんが、鬼ではなくなりましたー。繰り返します、福井くんが鬼ではなくなりましたー。引き続き、ミッション頑張ってくださいなー》
「…、誰が新しい鬼なのかは言わなねえみたいだな」
「困るな、迂闊に他校に近づけなくなったな」

放送に舌打ちをする山崎と古橋。花宮はこの状況を、どう霧崎に有利な状態へ転ばせるかを考えていた。
混乱しているこの状況を、利用しない手はない。情報かく乱でパニックを招ける今、それを利用しない手はない。
だがどう利用する? このミッションの残り時間は多く見積もっても四十分。
その僅かな時間に、情報かく乱などという大掛かりなことが出来るか。恐らく無理だ。
どんなに頭が良くとも、人の情報伝達速度は操れない。よって、花宮が思うようなことは出来ないのだ。

「花宮」
「…! 瀬戸」
「瀬戸、俺達にウイルスうつしに来たのか?」
「まさか。んなことするか。もっと他校を翻弄するような手があるだろ」

そう言って瀬戸は、手にしていた試験管の蓋を開けた。そしてゆっくりとそれを頭上に上げていく。
なにをするつもりなのか気付いた花宮が制止をかけるが、瀬戸はそれを無視し――

自分にウイルスをかけた

「本物の鬼の誕生だ」

若干の嘲笑を含んだ瀬戸をあざ笑うかのように、スピーカーから声がした。

《お知らせー、お知らせー。瀬戸くんが鬼ではなくなりましたー。繰り返します、瀬戸くんが鬼ではなくなりましたー…》
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