QLOOKアクセス解析Dear.匿名様 | ナノ
嫌だなあ……。
露骨に顔にそれが出ないようにして、近寄ってくる赤司君から目をそらした。
赤司征十郎。私のクラスメイトであり、なんでもこなす器用な人。
確か新入生代表挨拶も赤司君だった気がする。鮮やかな赤い髪は、彼の存在を知らなかった私の脳にもしっかり焼きついている。
一年生にしてバスケ部の主将で、キセキの世代とも呼ばれていたらしい。
らしいというのは、私がバスケに詳しくないから。運動なんか無縁だったから、クラスの女の子が話していたのをこっそりと聞いただけ。
この洛山の来たのも、バスケの推薦らしい。バスケだけでここまでこられるのか。まあ彼は勉強も出来るわけだけども。
そんなよく出来た人間の赤司君が、私はどうも苦手だった。
別に赤司君に何かされたわけじゃない。今まで一回も喋ったことなんかないし、座席だって隣になったことはない。
それでも、私は彼が苦手なんだ。多分、彼の威圧的な雰囲気がダメなんだと思う。
あと、人を見るときのまっすぐで冷たい目。あれがどうしても怖くて、目を合わせられない。考えていることを全部読み取られそうで、どうしようもなく怖い。
考えてみると、私は赤司君が苦手なんじゃなくて怖いだけなのかもしれない。
自分とは格が違う。だから考えることも考え方も違うだろうし、見えている世界も違うだろう。
自分の物差しとは違う物差しで計られることが、どうしても怖い。これは動物の本能なのかもしれない。
本に挟まっていた手紙を後ろに隠し、私は赤司君が止まるのを待った。ここで逃げ出したってきっと捕まってしまうだろう。なにせ運動能力の差があるのだから。

「今は朝休みなのに、宮代はここで何を?」
「別に何をっていえるようなことはしてないよ。ただ少し気になることがあったから」
「気になること?」
「うん。昨日本棚に直した本、表紙が折れていたような気がしたからそれを確認しに」
「でもここに並んでる本はハードカバーだ。他に理由があったんじゃないのかい?」

ああ、これだから嫌なんだ。
私が何をしていようと赤司君には関係ないのに、なんでもかんでも深く聞いてくる。
隠したいことだってあるのに。知られたくないことだってあるのに。
私は赤司君みたいに全てを他人に知られたくない。知られるだけの才能も、実績も、ない。
住む世界が違う人には分からないんだ。自分の平凡さに悩んで、それをだれにも悟られないように隠すことがどれだけ大切なのかを。
赤司君は、ただのクラスメイト。私と大してかかわりもないのに、どうして私の行動を知ろうとするの。
手紙のことは知られたくない。友達にも言っていないのに、赤司君にいえるわけないじゃない。
うまく彼を誤魔化せるようなことを考えるんだ、文芸部員の端くれなんだから、それぐらいできるでしょう?
自分を責めて、やっと口に出たのはこんな言葉だった。

「部活の調べ物した紙、挟みっぱなしだったから……」
「最初からそういえばいいじゃないか。宮代は文芸部、だったっけ」
「え、ああ、そうだけど……」
「ほかの連中は文芸部を馬鹿にするかもしれないけれど、僕は馬鹿にしないよ。文章を書くのは何よりも難しい。それを馬鹿にするやつはまだまだ頭が幼いのさ。創作活動、頑張って」

そう言ってあっさりと図書室を出ていく赤司君に拍子抜けした。人のことを小馬鹿にしている印象があったけれど、そんなことないんだ。ちゃんと認めるところは認めてるんだ……。
自分の勝手なイメージで赤司君を見ていたことが恥ずかしい。少し赤司君の見方が変わったけれど、それでもまだ苦手意識はぬぐいきれない。
赤司君から隠していた封筒をブレザーのポケットに入れて、私もドアへと歩く。そろそろ予鈴が鳴るから早く教室へ帰らないと。
ドアに鍵をかけて、いつも通りポケットへ。鍵と手紙の入ったブレザーはいつもより心なしかあたたかく感じられた。
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