QLOOKアクセス解析Re-birth | ナノ

新体力テストは、中学の頃からあまり好きではなかった。普通にしているはずなのに男子並みの記録を叩き出してしまう身体能力は私の武器であり、コンプレックスだ。
私の名前が書かれたカード。これからここにまた男子並みの記録が並ぶのか。それを思うと気が重くなる。また、珍獣を見るような目で見られるようになるんだろうか。手の中のカードが反射した光が、まるで私を嘲笑っているかのように感じられた。
去年は部活をやめていたし運動も特にはしていなかったから、少しは体力が落ちているはず。ごっそり体力が落ちて、女子並みに落ち着いていればいい。また底なしの体力で見世物になるのはごめんだ。
なんて思いながらアキレス腱を伸ばし、体力テストに向けて軽く準備運動をしているときだった。

「あなた、昨日の子よね?」
「……え……?」
「良かった、間違ってなかった! 私は二年の相田リコ、バスケ部のカントクをしてるの。で、横にいるのが」
「日向順平だ」

バスケ部のカントク。その言葉を聴いたときから、私の体からは冷や汗がだらだらと流れている。
捨てたつもりでいたバスケを、私は全く捨てきれていない。だから昨日ちょっとした出来心でシュートをして、それを見られて。
この人たちは私に何を求めるんだろう。備品を勝手に使ったことを怒るために私を探していたらいいのに。怒られることが好きなわけではないけれど、またバスケに関わるようなことを求められるよりはいい。
私は、もうバスケをしちゃいけない。バスケをする場所が、ないんだから。
早くここから逃げ出したい。そう思うのに私の口は勝手に動いていて。

「白椿、歩です……」
「白椿か、よろしくな。で、カントク、俺を連れてきた意味はなんだよ」
「もうっ、日向君ったら鈍いわね! 昨日話したでしょ、」

――向かいのゴール付近からスリーポイントを決めた女の子を見たって!
これは、ダメな会話の流れだ。このまま会話していたら、私にバスケの話題が振られそうだ。バスケ以外の競技の話をしてください、バスケの話題だけはどうしても避けたい、から。
昨日決めたロングシュート。キセキの世代のナンバーワンシューター……緑間真太郎の、強力な武器。それを私は身につけたわけだけれど、私にはそれを披露する場所も、それで助けるべき仲間もいない。私は何の意味もなしにシュートを決めるだけの、お遊びのような一人でのバスケしかできない。
あのシュートの話をされるってことは、備品のことで怒られるんじゃない。私の一番避けたかった話題。
ここから早く逃げなくちゃ。もうバスケはやらないって決めたんだ、もう辛い思いはしたくないから。
気付かれないように後退していると、相田先輩が私の肩をがしっと掴んだ。ああ、逃げられない。
なんだか嫌な予感がする。こんなとき、ミスディレクションが使えたらよかったのにと心のそこから思う。

「ね、白椿さん、新体力テストのペアって決まってるの?」
「え、いや、決まってませんけど……」
「なら日向君と組まない? 私あなたに興味あるのよね」
「おいカントク、勝手に話を進めるなよ。白椿、嫌ならいいからな」
「……。ちょうどペアを探していたので、よろしくお願いします」
「そうと決まったら行くわよ!」

相田先輩が私と日向先輩の手をとってグランドへ走り出す。予想してた最悪の事態にはならなかったけど、厄介なことにはなったなあ……。
そう思いながらも、内心はどこか落ち着いていた。相田先輩が期待するような記録はきっと出ない。私はもう死んだ選手だから。今活躍しているであろう日向先輩の記録には到底及ばない。
そんな風にどこか楽天的に、能天気に、自虐的に考えていたのが間違いだったなんて今の私は到底知ることはできなかった。
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