QLOOKアクセス解析Re-birth | ナノ

side:黒子

嬉しかったんです。新入生がごった返す道に、歩さんがいたことが。
僕はてっきり赤司くんと一緒に京都に行ったものだと思っていましたから。
中学時代、歩さんは僕の目標であり、精神的な面での光でした。

「歩さん、隣の席ですね」
「そうだね。良かったよ、知り合いが隣で」
「……そうですね」

僕の第二の光だった歩さんは、光を失っていました。
中学時代からは想像がつかないような人になっていました。
男子のように短かった白銀の髪は長く伸ばされていて、一つに結われていて。
笑顔だって屈託のない笑顔から、くすんだ苦しそうな笑顔で。
いったい、何が歩さんをこうしたんでしょうか。
バスケから遠ざかって、まるで人形のようになってしまった歩さんは、正直に言って見たくありません。
僕の中の歩さんは、いつも笑顔できらきらと輝く人、なので。
今の歩さんは自分を殺して、表面だけ取り繕っているように感じられます。
だから、窓の外でボールの弾む音がするとすっと顔が窓の外へ向くんです。
本当はきっと、バスケをやめたかったわけじゃないでしょう。バスケが嫌いになったわけじゃないでしょう。
そんなの、すぐに分かります。僕がどれだけの間、歩さんを見ていたと思ってるんですか。
毎日バスケしかしていなかったあの頃。いつも笑ってボールと走り回っていたのは歩さんじゃないですか。

「歩さん」
「……」
「歩さん」
「え……? あ、ごめん、何?」
「明日は身体測定らしいですよ。しかも新体力テストと健康診断も同時に行うみたいです」
「あ、そうなんだ、ってことは体操服がいるんだね。ごめんね、迷惑かけて」
「いえ、気にしないでください」

僕がそう言うと、歩さんはまたごめんねと申し訳なさそうに笑って、また窓の外へと顔を向けてしまいました。
僕が嫌われているということはないでしょう。嫌いなら、きっともっと冷たいでしょうから。
外から聞こえてくるボールの音と、人の声。それからボードにボールが当たる音。
バスケというもの全てが、歩さんをひきつけていました。
嫌いだなんて嘘をついていても、あの頃となにも変わっていないじゃないですか。
音を立てないように席からたって、歩さんの目の前に立ったとき、僕は驚きました。
歩さんは、泣きそうな顔で窓の外を見つめていたのです。どうして。どうしてそんな顔をするんですか。
ひどく諦めきった、泣きそうな目が僕の脳内にこびりついて離れません。
誰が、何が、いつ、歩さんにこんな顔をさせるようにしたんですか。僕の知らないうちに、歩さんは正反対の性格になっていました。
ショックを受ける僕を現実に引き戻すかのように、ポケットに入れていた携帯が立て続けに二回震えました。誰かからメールが来たようです。
開いてみれば、そこには見知った人物の名前がありました。

【From:黄瀬くん
Sub:黒子っちー…

 歩知らないっスか?
 海常にいないんス、なんでいないんスかね…】

【From:緑間くん
 Sub:無題

 黒子、歩の進学先とメールアドレスを知っているか?
 春からメールが送れないのだよ、何か知らないか
 歩にもしものことがあれば、俺はどうすればいいか分からん】

……今は。君達にメールを返してる暇なんてないです。
しかも歩さんのことじゃないですか。今僕はその歩さんのことで悩んでるんです。
しかも、緑間くんはなんなんですか、君は歩さんの親ですか。
ああ、もうイライラします。僕に聞かないでください。こんなにも歩さんが変わってしまったのに、メールなんか悠長に返せるわけないじゃないですか。
携帯をポケットにしまいこんで、僕はもう一度歩さんを見ました。
やっぱり悲しそうな顔には変わりありません。輝いていた歩さんの面影なんて、どこにもありませんでした。
それが悲しくて、辛くて。もう一度バスケを、だなんて。そう思った僕がどれほど単純だったのかを思い知らされた気がしました。
周りの雑音が消えて、僕と歩さんが切り取られたような感覚に陥って、僕は無性に泣きたくなりました。
あの頃に戻りたいなんていいません。言わないから、また歩さんとバスケをしたい。そんな小さな願いだけは胸にとどめておいても良いですか。
「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -