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彼には言っても大丈夫だろうか。誰にも、言わないだろうか。
頭の中でめぐるのは、そんな考えばかり。
やっとの思いで開いた唇からは、いつもより弱々しい声が漏れた。

「バスケは、やらないよ」

言えた。たった一言を言っただけなのに、謎の達成感が私の中に生まれた。
これで、私は完全にバスケから離れられる。
胸の中の妙な安心感に息をつくと、黒子の目が私の目とばちりとあった。
じっと見つめてくる黒子に目がそらせない。嫌だ、怖い。全てを見透かされそうで。
私と目を合わせたまま、黒子は一向に動かない。
数分後に動いたのは彼の唇だった。

「…それは本心ですか」
「え…? 何言ってるの?」
「歩さんのやらない、は本心からですか」
「馬鹿なこと言わないでよ。本心に、決まってるでしょ?」

嫌だ、これ以上何も言わないで。これ以上聞かれたら口から余計なことまでこぼれてしまうから。
本心は、バスケをやりたい。バスケが好きだから。この上なくバスケが好きだから。
でも好きなだけじゃ、通用しない。それを学んだから。学んでしまったから、私はバスケを捨てるんだ。
もう、バスケが怖くて仕方ないんだもの。そんな中で、どうしろっていうの?

「そう、ですか」
「ごめんね。でも、黒子は分かってくれるでしょ? 私はもうあんなバスケ、やりたくないんだ」
「それには同感ですが…」
「だから、もうバスケはやらない」

ハッキリとした口調の私に、黒子はそうですかと、残念そうに返した。
黒子は分かってくれると思ったけど、それはどうやら私の検討違いだったみたいだ。
それもそうだよね、帝光のバスケに疑問を持ちつつも、一軍でプレーしてきたんだから。
キセキの世代に、認められてたんだから。
私なんかとは、根本的に違うんだもん。そりゃバスケをやめる私の気持ち、わかるはず、ないよね。
どれほどバスケを愛していても、周りに認められないならプレーなんかできない。
…いや、プレーすることを認めてもらえないんだ。
バスケが私の呼吸で、鼓動で、生きがいで。
昔の私と全く変わらない私だけれど、私を取り巻く環境は正反対と言っていい。
昔の私は、求められて輝いていた。
あの頃が最盛期だったんだろう、そう思う。
今は光を失って、居場所も失った。
私はただのバスケが好きな女子高生でしかない。
現実なんてそんなものだ。残酷、なんだ。
輝いていられる時間なんて、少しの時間だけ。
輝いた後は、どんどん落ちていく。それしか残されてなんかない。
私はもう浮かび上がれない。輝けない。
もう対人でバスケをするということが、怖くて怖くて仕方なくなっていた。
ああ、私のバスケ生命はもう終わったんだ。
しっかり自覚をして、諦めもつけているから。
だからお願い、私を引き戻そうとしないで。

「…そうですか。僕はまた白椿さんとバスケをしたかったんですが…」
「……ごめん」
「いえ、謝らないでください。あの、バスケをやらないと聞いたすぐ後に、こんなことを聞くのもなんなんですけど…」
「なに?」
「僕の練習に、付き合ってもらえませんか。僕をよく知ってるのは白椿さんしかいませんから。白椿さんがよければ、僕と一緒に練習してほしいんです」
「…。練習ぐらいなら、付き合うよ。黒子はあいつらと違うから…」

私の言葉に、黒子は安心したように息をついた。
大丈夫、対人バスケが怖くなっていても、黒子との練習ぐらいなら出来るはず。
あの頃と比べてすっかり落ちぶれた私を、黒子は必要としてくれる。
それだけでも少し救われたような気がする。
厚かましい願いを聞いてもらえるなら、過去の栄冠を私から奪ってください。
輝いていた時の私が、私を影にしてしまうから。
あの頃の私が未だに私を縛り付けてる。
いつかまたバスケができたら、なんて。
都合のいいことは言わないから。…ううん、言えないから。
だから私の過去の光を奪ってください。
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テーマ「人外ファンタジー」
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