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日吉


テニス部の練習が終わった夕暮れ、梅雨の湿っぽい空気に眉を潜めながら日吉と共に家路についていた。
部活で疲れているはずなのに背筋を伸ばして歩く日吉。
もう少し疲れた様子を出しても怒られないと思うのは私だけだろうか。
朝の雨で出来た水溜まりに足を置いてみれば、ゆらゆらと揺らめく世界。
それは私の気持ちを表している様で、咄嗟に目を反らしてしまった。
それがおかしかったのか、日吉が私を変な物を見る目で見つつ問うた。

「先輩、水溜まりがどうかしたんですか」
「い、いや、別に…」
「……そうですか」

明らかに信じていない目を向けながら日吉は渋々私の言葉に頷いた。
どうせ、言ったところで呆れられるだけなのは目に見えている。
下手に言葉を紡いで避けられるより、今の関係の方がいくらかましだ。
多少胸の痛みはあるけど、嫌われて話せなくなるよりは遥かにいい。
たった二文字の言葉、なのに。
その二文字で今まで築き上げてきた関係が崩れるのがたまらなく怖い。
ただの臆病者かもしれないけど、これが今出来る最大限の判断だ。
急に黙った私を不思議に思ったのか日吉が思い出したかの様に口を開いた。

「先輩、手、出してくれませんか」
「手?こうでいいの?」
「はい」

私が突き出した手に、日吉がそっと自分の手を合わせる。
一つ下のはずなのに、私の手より大きく、そして暖かかった。
すらっと指は長いけど、女の子みたいに柔らかそうな印象はない。
やっぱり男の子なんだな、と改めて実感。
じっと重ねられた手を見ていると、日吉は少し笑って私の手を包み込んだ。

「先輩の手は手を繋ぐのに丁度いい大きさですね」
「それがどうかした?」
「鈍感ですね、俺は先輩とずっとこうして手を繋いで歩きたいんですよ」

プイッと顔を背ける日吉。
でも、その瞬間に耳が赤いのがチラッと覗いたのを私は見逃さなかった。
まさか、本気…?
だったら私の答えは決まっている。
だから、私は小さく笑いながら彼に告げた。

「日吉にならいつまででも」

その言葉の後、日吉が私を一瞬呆けた顔で見たけどすぐにいつもの顔に戻ってこう言った。

話してあげる気はありませんから、と。

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