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オサムちゃん

私の彼氏はテニス部の顧問の渡邊先生。まあ誰も渡邊先生、なんて呼びやしないけど。
昼休みになって職員室に迎えにいったのに、オサムちゃんはどこにもいない。オサムちゃんがお弁当作ってきてくれ、だなんていうから早起きして作ったのに。困った大人だ、自分で言ったことを覚えていないのか。
今すぐにでもオサムちゃんを怒りたい衝動に駆られたけれど、そこは我慢だ。私はその辺にいる女子中学生と同じじゃないんだから。
教師と生徒の禁断の恋。ばれたら私は停学と反省文で済むだろうけど、オサムちゃんはそうはいかない。きっと懲戒免職だ。まだまだオサムちゃんは若いから、私なんかのせいで人生お先真っ暗になるのはなんとしても避けたい。
だって私はなんのとりえもない、ただの女子中学生だもの。美人でもない、頭もよくない、性格も男っぽい。ほらね、平々凡々……いや、それ以下の生徒だもの。
こんな私がオサムちゃんと付き合っているのは、なんの運命のいたずらなんだろう。オサムちゃん、女の子に人気なのにどうして私と付き合ってるんだろう。
上履きからローファーに履き替えて、校舎の周りを探す。タバコでも吸ってるのかな、体に悪いからやめてって言ってるのに。
私に言ったこと忘れてタバコ吸ってたらただじゃおかないんだから。ぶつぶつとオサムちゃんに対しての悪態をついていると、なにやら女子特有の高い声でオサムちゃんという言葉が聞こえた。
……まさか。音を立てないように気をつけながらその方へ足を進めると、そこにはオサムちゃんと一人の女の子がいた。ああ、呼び出しか。
すとんと胸に落ちた現実。私あの子知ってる。学年でも有名な成績のいい子。性格もいいし、顔もそこそこ。まあ個人的な意見としては絶対に男受けを狙ってると思うんだけど。
確かに成績はいいけど、それでいてあんなに嫌味のない性格とか絶対おかしい。どうせ男を侍らすのが楽しいんでしょ。ああ、嫌だなあ。
ひねくれた現実の見方しか出来ない私は、本当に可愛げがない。こんなんじゃ、オサムちゃんは私を嫌いになるかもしれない。まあ、そうなるかもしれないって思うのは最近の話ではないけど。
どうせ告白、したんだろうな。あの子のことだから。オサムちゃんが告白受けなかったらいいけど。でも私よりあのこの方が見かけはいい子だしな……。
自分に自信がないってのは、こういうときによくない。どんどん悪いほうへ悪いほうへと考えが向かってしまうから。
もう教室に帰ってしまおう。このお弁当、どうしようかな。白石にでもあげようか。ため息と共に体の方向を変えて、校舎へ歩き出そうとした瞬間だった。
ぐいっと腕を強く引かれ、私はそこに引き止められた。振り返ってみると、少しあせったようなオサムちゃんがいて。もう呼び出し終わったんだ、なんて全く関係のないことを思って、無精ひげの生えた顔を眺めていた。

「なんで声かけてくれへんの」
「だって呼び出されてたじゃん。あの子いい子じゃん、私は好きじゃないけど。付き合うの?」
「なんで詩織がおるのに付き合わなアカンの。俺の彼女は詩織だけやで」
「……私にお弁当作ってきてくれ、なんていったのに呼び出し優先したのに?」
「そ、それは……」
「付き合ってみて分かったでしょ? 私、嫌な女なの。私が一番じゃなきゃ嫌だ。オサムちゃんは私の彼氏でしょう? ねえ、私分からない。本当に私、オサムちゃんの彼女なの?」
「何言うてんの、好きでもない奴の告白受けるわけないやん。それに、生徒やで? ばれたら人生終わるようなことに、ホイホイ手出すわけないやん」
「じゃあなんでキスも、ハグも、手をつなぐのもないの? ホントは私のこと、好きじゃないから手を出さないだけなんでしょ!」

目頭が熱い。泣きそうだ。泣き顔なんて見られたくない。
走り去ろうとしたら、オサムちゃんが私の腕を強く引き、壁へ押し付けた。顔のとこにひじをつかれて、いわゆる壁ドンってやつ。
オサムちゃんの顔が、近い。いつもはおちゃらけた顔をしているのに、今の顔は真剣そのもので。
オサムちゃんがいつも吸ってるタバコのにおい。それから、オサムちゃんのにおい。今までこんなに近づいたことがないから、その二つのにおいに頭をやられてうまく頭が働かない。
鼓動が痛くて苦しくて、息もし辛くって顔が熱くって。ねえ、どうしてこんなことするの、なんて問いは重ねられた唇によって音になることはなかった。

「俺がなんで今まで詩織に手ぇださんかったか、分かるか?」
「わかるわけ、ないでしょ」
「高校生になったら、堂々イチャつけるやろ。それまで待とうと思ったんや。あとな、」

――我慢できんようになりそうでな。
そう笑ったオサムちゃんの目は、はっきりと熱を孕んでいて私は何もいえなかった。ああ、私どうすればいいんだろう。
手に提げたままのお弁当と水筒の存在なんかもう忘れていて、頭を占めるのはオサムちゃんのことだけ。
見つかってはいけない私達を切り離したかのような昼休みだとは思えない静寂。その静寂を切り裂くようにチャイムが鳴った。後五分で授業が始まってしまう。
でもそんなこと、再び重なった唇でどうでもよくなってしまった。私ったら、悪い子ね。


――
続く、と思います。

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