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仁王


ただ早坂に泣いてほしくなかった。
ただそれだけじゃった。

「早坂、見ときんしゃい。今から俺がお前さんを笑わせちゃる」

本人が教室にいないのをいいことに、柳生の読みかけの本を表現が露骨すぎる官能小説にすり替えておく。
早坂が柳生と同じクラスじゃけえ、柳生が犠牲になっただけじゃ。
もちろん幸村には早坂を笑わせるのが目的じゃったとしても、いたずらの対象にはせんが。
用事が終わったんか帰ってきた何も知らん柳生がしおりを挟んだページから本を読み出した瞬間、派手に椅子から転げ落ちた。
ぼん、と効果音がつきそうなほど顔を赤くさせて本を閉じる。
柳生にはちと刺激が強かったようじゃ。
周りをキョロキョロと見渡す柳生に早坂は笑い声をあげて笑っとった。
それを横目でみとったら、柳生が赤い顔のまま俺に歩み寄ってきた。
こりゃ説教かの…。

「に、仁王くんですね!? こここんなに破廉恥なか、か、官能小説を置いたのはっ!」
「さあの、俺は知らん」
「知らないふりをしたってダメですよ!? こんな、ふしだらな、か、官能小説を持っているのは、貴方しか考えられません!」
「怒鳴るのは紳士的じゃないのう。それに、人を偏見で判断するんはどうかと思うナリ」

ひょうひょうと柳生の説教を交わしとったら、早坂はおさまりかけとった笑いがまた起きてきたらしく、目に涙をためて笑っとった。
良かった、成功ナリ。
辛いことがあったらいつでも俺がお前さんから辛いことを忘れさせちゃる。
じゃけん、早坂にはいつでも笑っとってほしい。
俺はお前さんを好いとるけえ。
詐欺師と呼ばれるようになった今でも、俺が進んで人を騙すんは試合の時と早坂を笑わせる時だけ。
辛いことは全部俺が変わりに引き受けちゃる。
辛いことは俺が忘れさせちゃる。
じゃけえ、もう二度と辛いことで泣かんでほしい。
これが、俺の出来る唯一のことじゃけえ。
俺がおらんでも笑えるようになるまで俺は早坂のためだけに詐欺師を演じるんじゃ。

song by 初音ミク(KEI)/ピエロ

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