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赤也


昼休み、中庭からなぜかオルゴールの音が響いてきた。
学校でオルゴール、なんて普通じゃない。
それなのにクラスメートは勿論の事、廊下にいる先生ですら気にする様子はない。
不思議にで首を傾げているとお弁当を食べながら話している女子の話が耳に入った。

「早坂先輩、まだ待ってるのかな」

早坂先輩、という言葉に妙に納得する俺。
そう言えば、と仁王先輩達が部室で深刻な顔をして話していたのを思い出す。
早坂先輩の彼氏が交通事故でなくなってから毎日そうらしい。
昼休みにオルゴール片手に中庭でその彼氏を待っているのだと。
その話を聞いていたからなのか、俺は先輩に興味がわいた。
昼食のパンをジュースで流し込んで中庭へと急いだ。

―*
中庭には先輩以外誰一人いなかった。
先輩に気を使っているのか、そうでないのかは分からないけど騒がしい校内からここだけが切り離されている様な感覚に陥る。
聞こえるのは風の音だけで、本当に静かだった。
中庭の中心辺りにあるベンチに腰かけてぼんやりオルゴールを見つめている人。
あの人が早坂先輩なのだろう。
儚い印象の先輩は俺に気付いたのか、ふいに顔を上げた。
そして目を見開いて一言呟いた。

「お帰り、幹也…」

オルゴールの蓋が閉められ、それと同時に先輩が俺に向かって歩いてくる。
いきなり何なんだろう、ときょとんとしていると先輩が俺に抱き着いてきた。
いきなりの事に驚いたけれど拒むに拒めなかった。
泣きながら、幹也幹也、とおそらく彼氏の名を呟く先輩を誰が振りほどけるだろうか。
そして、そこで悟る。
先輩の目には俺は写っていない。
ただ、彼氏の面影を重ねているだけなのだ。
それにひどく落胆した自分がいて、自分でも驚いた。
先輩に俺を見てほしい。
でも、そんなことを言えるほど俺は勇気がない。
俺は意気地無しなんだ。

その後、オルゴールは二度と響かなかった。


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