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一氏

七夕に毎年ある花火大会に、今年はどうも行く気が起きんかった。
去年までは待ち遠しくて堪らんかったのに今年は、逆に中止になってまえばええのに、とそう思うほど行きたくなかった。
その理由は、分かっとる。
俺の隣に詩織がおらんからや。
やっと付き合えて、今年は二人で花火大会行ける、そう思うた時に詩織は交通事故におうてこの世を去った。
なんで、詩織やったんか。
そう何度も考えた。
でも考えたところで詩織は帰ってこおへんのはよう理解してる。
それでも、考えられずにはおられへんのや。
浴衣を着てめかしこんで歩く女とその横を歩く男。
なんもなかったら俺やって詩織とああやって歩けとったはずやのに。
考えて、また自分が嫌になる。
ため息をついたとき、不意に携帯が着メロを奏でた。
小春からやろうか、そう思ってディスプレイに目をやるとそこにはあり得へん名前が表示されていた。

“早坂詩織”

そう、詩織からの電話。
消そうか消すまいか、悩みに悩んで消さんかった、彼女の名前。
既に解約されている携帯からの電話なんて、ありえへん。
その上、もう死んどる相手なら尚更や。
理屈で考えたらわかるはずやのに俺は通話ボタンを押しとった。

「もしもし、詩織なん…?」
『うん、せやでユウジ』
「でもお前交通事故で…!」
『あの日、呆気なく死んどるよ。ユウジの言うことは間違っとらんよ』
「ならなんで電話かけれるん? 携帯、解約されてるはずやで?」
『だってうちの時間はあの日から止まっとるもん。やから関係ないんよ。なぁユウジ、去年ユウジが教えてくれた穴場に今おんねん。こられへんかな…?』

電話越しの詩織の声は不安に満ちた、悲しそうな声で、その声を聴いた瞬間俺は詩織にそこで待っとれよ、とだけ言って走り出した。
これが、ドッキリでも構わへん。
白石たちの遊び心でも構わへん。
最初から決めつけて、ホンマに詩織がおったのに会われへんかったなんてのが一番嫌や。
走って、走って心臓が出るんやないかって思うぐらいに走ってようやくついたあの穴場。
開けた木々の中に、見覚えのある黒髪の少女が立っとった。
嬉しさと、今までずっと走っとったせいで声が震える。
それでもそれをおさえて恐る恐る声をかける。

「詩織、なん…?」
「…久しぶりやね、ユウジ」

ゆっくり振り向いた少女はやっぱり詩織で、俺の目からポロリと涙が落ちた。
なんでおるんや、とかそんなんを気にする前にただ嬉しかった。
また会えるなんて夢みたいや。
俺らしくもなく涙を流しとったら、ふわりと詩織が俺の頬に手を添えた。
ひやりと冷たいその手は、葬式の時と同じ、生きていない死人の手やった。
それが俺に詩織は死んだんやって現実を突きつけて、また泣きそうになる。
そんな俺に詩織は言う。

「あんな、ユウジ。うち死んだけどな、七夕だけなこっちにおれんねん。十分だけやけど、毎年会えるんやで」
「ホンマか…?」
「ホンマや。やからうちは今ここにおって、ユウジと話出来るんやろ?」
「せやけど…」
「うちがな、こっちに戻ってきた理由はな、ユウジに言いたい事あったからやねん」

そう言って笑う詩織を目の前にして、俺は今この瞬間で時間が止まってしまえばええのに、そう思っとった。
ずっと一緒におりたい。
叶わぬ願いやからこそ、切実に思うたんや。
俺がなんも言わんのを気にせず詩織は続ける。

「あんな、      」

詩織が言葉を紡ぐと同時にあがった花火。
花火の音に掻き消されて、詩織の言葉が聞こえんかった。
もっかい言ってくれへんか。
そういいかけた時にはもう詩織の姿はどこにもなかった。
タイムリミット、やったんやろうか。
最初から詩織がおらんかったかのように、辺りに人の気配があらへん。
もうちょい、一緒におりたかったなと思いつつも俺は詩織が立っとった所に俺のバンダナを置いた。
なぁ、持っていってくれよ、俺の代わりに。
次に会うときに返してくれたらええから。
織姫みたいに、なんもなしで一年待つんはつろうて出来へんやろ?
小さく口に出して俺は苦笑する。
ホンマはな、俺だってなんもなしで一年待つんは辛い。
やけど、詩織に甘えてるわけにいかん。
俺らは、織姫と彦星。
一年後、ここで待っとるから今度はもっと話そうな。


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